前の野原でつぐみが鳴いた

小海音かなた

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Chapter.16

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 鹿乃江を見送ったあと、紫輝は別途拾ったタクシーで帰宅した。酔った鹿乃江と対峙して欲望と戦い続けたため、若干疲れている。
 疲労を癒し、頭を切り替えるためにシャワーを浴びながら悶々と考え始める。
 誰かに持ってかれる前に、気持ちを伝えて関係を繋ぎたい。率直に言うと、自分の彼女モノにしたい。
 しかし、告白するには色々考えなければいけない。
 仕事。立場。そのもろもろ。
 やっとデビューして仕事も軌道に乗り始めたこの時期に世間で言われる“スキャンダル”を起こしたら、きっと事務所やメンバーに迷惑をかけてしまう。自分の幸せだけを考えていてはダメなのだ。
 鹿乃江には仕事のことを理由にしないでほしいと望み、自分は仕事を理由に告白すらできずにいる。そのアンビバレンツささえも、いまの紫輝には仕事の一環に思えてしまう。
 しかし、タクシーで一緒に帰れるほどの理性も残っていなかったのに、この先もただ会って喋って食事して別れるだけで満足できるとは到底思えない。
(会いたいけど、今度会ったらマジでやばいかも……)
 指先に触れた滑らかな柔肌は、手から続く身体の肌質を想像させた。
 よくあの程度で止まったと思う。あそこで店員が来ていなかったら、勢いでなにをしていたかわからない。
(なにか聞かれるかな……。「なにを言おうとしてたんですか?」とか? そしたらどうしよう。仕事は仕事で頑張るとして、もう言っちゃう? でもメッセで伝えるのはナシかな~……)
 ソワソワと展望を描きながら部屋着を着る。髪を拭きながらリビングに戻ると、テーブルの上でポコン♪ とスマホが鳴った。
(きた!)
 鹿乃江からの新着メッセを知らせる通知は、無事帰宅したことを伝える一行分の文章で終わっている。
(えっ。これだけ?)
 まさかと思いアプリを立ち上げるが、やはりその一行だけで完結している。
(え? 覚えてないとかじゃないよね? もしかして気にしてないとか? えっ? ちょっといい雰囲気だったよね? えっこれオレもフツーのこと返したらただのお友達になっちゃうやつ? えっ、それはやだ! えっえっ、どうしたらいいの?)
 スマホを持ったままリビングをウロウロと歩き回る。
 あれもちがう、これもちがうと考えているうちに、既読を付けてからだいぶ時間が経ってしまった。
(いや~! タイミング逃したよなぁ~!)
 頭を抱えてその場にしゃがみこむ。
(あぁ~……情けねぇ~……)
 ガシガシと頭を掻いた。さきほどまで濡れていた髪が乾きかけている。
(既読スルーになっちゃってるし~……)
 はあぁ~と大きく息を吐いて、ズルズルと床に突っ伏す。
(…いまごろ寝てるのかな……)
 個別ルームの履歴を眺めながら鹿乃江の寝姿を想像して、悶えながらゴロゴロと床を転がった。
(中学生かっ!)
 大の字に寝転んで、天井をあおぐ。
(……ガツガツしてるって思われたかな……)
 照明のまぶしさに目を細めて、うつぶせになる。
(嫌われたかな……また、会ってくれるかな…)
 頬をフローリングに当て、冷たさで頭を冷やした。

* * *
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