69 / 69
Chapter.69
しおりを挟む
甘い余韻に浸りながら、腕の中に鹿乃江を包み込んで「実は…」紫輝がぽつりと呟く。
「いまだから言えるんだけど、ホント最後にしようと思ってたんですよね」
「なにを?」
「鹿乃江さんに連絡するの」
紫輝が少し気まずそうに笑って続ける。
「付き合うことになった日、コリドラスに来てくれなかったら、もう諦めようと思ってたんです。しつこくメッセ送ったりして、メンバーにもストーカーストーカー言われてたし」
鹿乃江が何度も誓った『最後』を、紫輝もまた同様に何度も誓っていたのだと知る。
「承諾の返事もなかったし、割と諦め気味だったんです」
「たくさん待たせちゃったしね」
「うん」
「ごめん……」自分で言っておいて申し訳なくなり、つい謝罪してしまう。
「いや、いーんす、全然。あの日も謝ってくれたけど、それよりも来てくれたことが嬉しかったから」
「うん」
「だから席に戻ったとき、マジでビックリして。もうちょっと戻るの遅かったら会えてなかったかと思うと、いまでもマジびびります」
「行って良かった……」
「やっぱり来るつもりなかった?」
「…うん。仕事から帰るまでは、行こうと思ってなかった」
「そっか……」
「でも、行って良かった」
腕の中で紫輝にすり寄る。
「来てくれてありがとう」
「待っててくれてありがとう」
微笑みあって、おでこと鼻をくっつける。
「……オレ、いま、超幸せっす」
“もしもあのとき、ああしなかったら――”
後悔ばかりのたらればを繰り返してきた。
だけど。
もしもあの日、休憩中に外出していなかったら、きっと鹿乃江は紫輝に出会えていなかっただろう。
紫輝もまた、スマホを取りに戻らなければ鹿乃江には出会えず、二人は別の未来に進んでいたはずだ。
ほんの少しの偶然が幾重にもなり、繋がり、紡がれる。
二人で架けた橋は、もう壊れない。
進んだその先になにがあるのか、まだハッキリとは見えないけれど、そこはきっと、居心地の良い、かけがえのない場所になるだろうと二人は確信している。
だからもう、大丈夫。
「私も、超幸せ」
二人は顔を見合わせて、微笑んだ。
end
「いまだから言えるんだけど、ホント最後にしようと思ってたんですよね」
「なにを?」
「鹿乃江さんに連絡するの」
紫輝が少し気まずそうに笑って続ける。
「付き合うことになった日、コリドラスに来てくれなかったら、もう諦めようと思ってたんです。しつこくメッセ送ったりして、メンバーにもストーカーストーカー言われてたし」
鹿乃江が何度も誓った『最後』を、紫輝もまた同様に何度も誓っていたのだと知る。
「承諾の返事もなかったし、割と諦め気味だったんです」
「たくさん待たせちゃったしね」
「うん」
「ごめん……」自分で言っておいて申し訳なくなり、つい謝罪してしまう。
「いや、いーんす、全然。あの日も謝ってくれたけど、それよりも来てくれたことが嬉しかったから」
「うん」
「だから席に戻ったとき、マジでビックリして。もうちょっと戻るの遅かったら会えてなかったかと思うと、いまでもマジびびります」
「行って良かった……」
「やっぱり来るつもりなかった?」
「…うん。仕事から帰るまでは、行こうと思ってなかった」
「そっか……」
「でも、行って良かった」
腕の中で紫輝にすり寄る。
「来てくれてありがとう」
「待っててくれてありがとう」
微笑みあって、おでこと鼻をくっつける。
「……オレ、いま、超幸せっす」
“もしもあのとき、ああしなかったら――”
後悔ばかりのたらればを繰り返してきた。
だけど。
もしもあの日、休憩中に外出していなかったら、きっと鹿乃江は紫輝に出会えていなかっただろう。
紫輝もまた、スマホを取りに戻らなければ鹿乃江には出会えず、二人は別の未来に進んでいたはずだ。
ほんの少しの偶然が幾重にもなり、繋がり、紡がれる。
二人で架けた橋は、もう壊れない。
進んだその先になにがあるのか、まだハッキリとは見えないけれど、そこはきっと、居心地の良い、かけがえのない場所になるだろうと二人は確信している。
だからもう、大丈夫。
「私も、超幸せ」
二人は顔を見合わせて、微笑んだ。
end
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
ワケあり上司とヒミツの共有
咲良緋芽
恋愛
部署も違う、顔見知りでもない。
でも、社内で有名な津田部長。
ハンサム&クールな出で立ちが、
女子社員のハートを鷲掴みにしている。
接点なんて、何もない。
社内の廊下で、2、3度すれ違った位。
だから、
私が津田部長のヒミツを知ったのは、
偶然。
社内の誰も気が付いていないヒミツを
私は知ってしまった。
「どどど、どうしよう……!!」
私、美園江奈は、このヒミツを守れるの…?
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
俺を信じろ〜財閥俺様御曹司とのニューヨークでの熱い夜
ラヴ KAZU
恋愛
二年間付き合った恋人に振られた亜紀は傷心旅行でニューヨークへ旅立つ。
そこで東條ホールディングス社長東條理樹にはじめてを捧げてしまう。結婚を約束するも日本に戻ると連絡を貰えず、会社へ乗り込むも、
理樹は亜紀の父親の会社を倒産に追い込んだ東條財閥東條理三郎の息子だった。
しかも理樹には婚約者がいたのである。
全てを捧げた相手の真実を知り翻弄される亜紀。
二人は結婚出来るのであろうか。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
サトシ先生は美しき十代の乙女に手を出さない
白神ブナ
恋愛
高校一年一学期から三年三学期まで続く長編です。気になるサブタイトルを見つけて途中からでもお楽しみいただけます。
女子校あるあると、先生あるある、受験あるあるを描く学園恋愛ドラマ。
佐藤サトシは30歳の独身高校教師。
一度は公立高校の教師だったが心が折れて転職し、私立白金女子学園にやって来た。
一年A組の受け持つことになったサトシ先生。
その中の一人、桜井美柑はガチでサトシ先生に恋してしまった。
サトシ先生は、桜井美柑という生徒の存在を意識してしまいつつ、あくまで職務に忠実であろうと必死に適度な距離を保とうとするが……
アダルト漫画家とランジェリー娘
茜色
恋愛
21歳の音原珠里(おとはら・じゅり)は14歳年上のいとこでアダルト漫画家の音原誠也(おとはら・せいや)と二人暮らし。誠也は10年以上前、まだ子供だった珠里を引き取り養い続けてくれた「保護者」だ。
今や社会人となった珠里は、誠也への秘めた想いを胸に、いつまでこの平和な暮らしが許されるのか少し心配な日々を送っていて……。
☆全22話です。職業等の設定・描写は非常に大雑把で緩いです。ご了承くださいませ。
☆エピソードによって、ヒロイン視点とヒーロー視点が不定期に入れ替わります。
☆「ムーンライトノベルズ」様にも投稿しております。
曖昧な距離で愛している
山田森湖
恋愛
結婚4年目のアラサー夫婦、拓海と美咲。仲は悪くないが、ときめきは薄れ、日常は「作業」になっていた。夫には可愛い後輩が現れ、妻は昔の恋人と再会する。揺れる心、すれ違う想い。「恋人に戻りたい」――そう願った二人が辿り着いた答えは、意外なものだった。曖昧で、程よい距離。それが、私たちの愛の形。
【完結】育てた後輩を送り出したらハイスペになって戻ってきました
藤浪保
恋愛
大手IT会社に勤める早苗は会社の歓迎会でかつての後輩の桜木と再会した。酔っ払った桜木を家に送った早苗は押し倒され、キスに翻弄されてそのまま関係を持ってしまう。
次の朝目覚めた早苗は前夜の記憶をなくし、関係を持った事しか覚えていなかった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる