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1/9『風邪ひき男と看病メイド』
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最悪だ。風邪ひいた。
喉はイガイガ、鼻はズルズル。熱出てダルくて動けない。
布団の上で何度も寝返りを打つ。鼻が詰まるから固定の姿勢で眠れない。つらい。
元気な時はなんで風邪とか引くんだろ、って思っちゃうから、バチがあたったのかもしれない。自分の身に降りかからないとわからないとか、俺って愚か。
看病してくれる人もいなくて、彼女いたら来てくれるのかな。そんで『うつるから来なくていいよ』とか言っちゃうのかな。おでことおでこくっつけて熱測ったりしてさ。って妄想してたら台所から音がした。何かを包丁で刻む音。え? 誰? 俺ひとり暮らしなんだけど。合鍵は実家のかーちゃんに預けてるのだけだし。あ、かーちゃんか? だったら何も言わないで入って来そう。でもそんな物音してたかな。気づかない内に寝てたかな。
重い身体をなんとか動かして台所が見える位置にずれるとそこには……メイド? 後ろ姿、完全にメイド。が台所に向かって立ってる。熱が出すぎて変な夢でも見てんだなって眺めてたら、包丁の音が鳴りやみ、メイドがこっちを向いた。えっ、カワイイ。ウソでしょなに? 夢ってか俺死ぬ?
「あ、起きた? 初めまして。通りすがりのメイドでーす。迎えに来たわけじゃないから安心してね」メイドちゃんはアニメ声で良くわからない自己紹介をして「先輩がこのへん通りかかった時に、邪鬼が一匹逃げちゃったらしくて~」変なことを言う。「で、たまたま免疫力が下がってたあなたに取り憑いちゃったの。これ食べたら邪鬼離れるからさ、そしたらそのコ回収させてもらうね。今日一日は後遺症でだるいと思うけど、明日の朝には全快してるから」
ニコッと笑ったその顔は、最近よくテレビに出ているあの女子ドルに似ていた。
「はーい、できた。おまたせ」
メイドちゃんの手にはかーちゃんが置いてったお盆。お盆の上にはこれまたかーちゃんが置いてった一人用の土鍋。まさかこんな風に役に立ってくれるとは……。使わないから捨てようかと思ってたけど取っといて良かったー!
「起きれる?」
メイドちゃんはこたつの上にお盆を置き、俺の背中を支えて起こしてくれる。
「はい、どーぞ」
レンゲにひとすくいのおじやを、ふーふーしてから口に持ってきてくれた。あーん。もぐも……まっず‼ 思わず口元を押さえて悶絶する。吐き出すにもメイドが俺の手を上から押さえて離さない。
「まずいよね、わかる。人間の舌には合わないんだよ。でもこれ全部食べてくれないと、邪鬼が離れないからさ。頑張って食べよっ!」
そうは言ってもマジまずい! 見た目めっちゃ美味しそうだからギャップがすごい。風邪で味覚が麻痺してるだろうにそれでもまずい。涙目でなんとか飲み込むと、五臓六腑に何かが巡る感覚。
「おー、偉い偉い。はい次~」
小さい土鍋にたっぷり入った“何か”。これ全部食べたほうが気分悪くなんじゃね? と思ってたけど、無理やり飲み込むごとにダルさが少しずつ抜けてく気がする。土鍋の半分くらいの“それ”を食べた頃、耳元で呻き声のような音がした。
「聞こえてきた? それね、邪鬼の声。これ食べると棲みづらくなるんだよ」
メイドは少し困ったように笑って、それでもコンスタントに“それ”入りのレンゲを俺の口元に運ぶ。もう味わいたくないのに身体が欲して食べてしまう。
最後の一口をなんとか飲み込んだ瞬間『うぎゃああぁあぁぁ!』と断末魔のような声が聞こえた。
「よしよしいいコ! こっちおいで! 家に帰ろう!」
びゅん!
窓もドアも閉め切った室内に風が吹く。
「あなたが頑張ってくれたおかげで回収できた、ありがとう!」
いいえ、こちらこそ、と言いたかったけど、声が出ない。
「これ、片づけたら帰るね。あなたはゆっくり眠って?」
「き、みは……?」
「私? 私、死神。まだ見習いだけど、あなたが死ぬときまでには一人前になっておくね」
メイドは言って、お盆を持ちクルリと反転した。ピラッとめくれたスカートの中、両太ももに巻かれたベルトに、小さな鎌が二丁。
あれで魂の緒、切るのかなぁ……。ってか太もも……。
メイドちゃんを眺めてて気づいた。恐ろしく詰まってた鼻の通りが良くなってる。呼吸が楽になったら、それまでの睡眠不足も相まってすぐに眠ってしまった。
しばらくして起きたら部屋には誰もいなくて、体調はだいぶ楽になってた。台所は片づいてて、土鍋とレンゲが水切り棚に並んでる。
あぁ、本当にいたんだ、死神メイド……。
俺はこの体験をもとに漫画を描いた。コンテストに送るほどでもないなとSNSにアップしたらそれが口コミで広がって、いまではプロの漫画家だ。
また風邪ひいたらメイドちゃん来てくれるかな? って思ったけど、普通の風邪じゃ来ないみたいで……生きてるうちに会うことはできなかった。
喉はイガイガ、鼻はズルズル。熱出てダルくて動けない。
布団の上で何度も寝返りを打つ。鼻が詰まるから固定の姿勢で眠れない。つらい。
元気な時はなんで風邪とか引くんだろ、って思っちゃうから、バチがあたったのかもしれない。自分の身に降りかからないとわからないとか、俺って愚か。
看病してくれる人もいなくて、彼女いたら来てくれるのかな。そんで『うつるから来なくていいよ』とか言っちゃうのかな。おでことおでこくっつけて熱測ったりしてさ。って妄想してたら台所から音がした。何かを包丁で刻む音。え? 誰? 俺ひとり暮らしなんだけど。合鍵は実家のかーちゃんに預けてるのだけだし。あ、かーちゃんか? だったら何も言わないで入って来そう。でもそんな物音してたかな。気づかない内に寝てたかな。
重い身体をなんとか動かして台所が見える位置にずれるとそこには……メイド? 後ろ姿、完全にメイド。が台所に向かって立ってる。熱が出すぎて変な夢でも見てんだなって眺めてたら、包丁の音が鳴りやみ、メイドがこっちを向いた。えっ、カワイイ。ウソでしょなに? 夢ってか俺死ぬ?
「あ、起きた? 初めまして。通りすがりのメイドでーす。迎えに来たわけじゃないから安心してね」メイドちゃんはアニメ声で良くわからない自己紹介をして「先輩がこのへん通りかかった時に、邪鬼が一匹逃げちゃったらしくて~」変なことを言う。「で、たまたま免疫力が下がってたあなたに取り憑いちゃったの。これ食べたら邪鬼離れるからさ、そしたらそのコ回収させてもらうね。今日一日は後遺症でだるいと思うけど、明日の朝には全快してるから」
ニコッと笑ったその顔は、最近よくテレビに出ているあの女子ドルに似ていた。
「はーい、できた。おまたせ」
メイドちゃんの手にはかーちゃんが置いてったお盆。お盆の上にはこれまたかーちゃんが置いてった一人用の土鍋。まさかこんな風に役に立ってくれるとは……。使わないから捨てようかと思ってたけど取っといて良かったー!
「起きれる?」
メイドちゃんはこたつの上にお盆を置き、俺の背中を支えて起こしてくれる。
「はい、どーぞ」
レンゲにひとすくいのおじやを、ふーふーしてから口に持ってきてくれた。あーん。もぐも……まっず‼ 思わず口元を押さえて悶絶する。吐き出すにもメイドが俺の手を上から押さえて離さない。
「まずいよね、わかる。人間の舌には合わないんだよ。でもこれ全部食べてくれないと、邪鬼が離れないからさ。頑張って食べよっ!」
そうは言ってもマジまずい! 見た目めっちゃ美味しそうだからギャップがすごい。風邪で味覚が麻痺してるだろうにそれでもまずい。涙目でなんとか飲み込むと、五臓六腑に何かが巡る感覚。
「おー、偉い偉い。はい次~」
小さい土鍋にたっぷり入った“何か”。これ全部食べたほうが気分悪くなんじゃね? と思ってたけど、無理やり飲み込むごとにダルさが少しずつ抜けてく気がする。土鍋の半分くらいの“それ”を食べた頃、耳元で呻き声のような音がした。
「聞こえてきた? それね、邪鬼の声。これ食べると棲みづらくなるんだよ」
メイドは少し困ったように笑って、それでもコンスタントに“それ”入りのレンゲを俺の口元に運ぶ。もう味わいたくないのに身体が欲して食べてしまう。
最後の一口をなんとか飲み込んだ瞬間『うぎゃああぁあぁぁ!』と断末魔のような声が聞こえた。
「よしよしいいコ! こっちおいで! 家に帰ろう!」
びゅん!
窓もドアも閉め切った室内に風が吹く。
「あなたが頑張ってくれたおかげで回収できた、ありがとう!」
いいえ、こちらこそ、と言いたかったけど、声が出ない。
「これ、片づけたら帰るね。あなたはゆっくり眠って?」
「き、みは……?」
「私? 私、死神。まだ見習いだけど、あなたが死ぬときまでには一人前になっておくね」
メイドは言って、お盆を持ちクルリと反転した。ピラッとめくれたスカートの中、両太ももに巻かれたベルトに、小さな鎌が二丁。
あれで魂の緒、切るのかなぁ……。ってか太もも……。
メイドちゃんを眺めてて気づいた。恐ろしく詰まってた鼻の通りが良くなってる。呼吸が楽になったら、それまでの睡眠不足も相まってすぐに眠ってしまった。
しばらくして起きたら部屋には誰もいなくて、体調はだいぶ楽になってた。台所は片づいてて、土鍋とレンゲが水切り棚に並んでる。
あぁ、本当にいたんだ、死神メイド……。
俺はこの体験をもとに漫画を描いた。コンテストに送るほどでもないなとSNSにアップしたらそれが口コミで広がって、いまではプロの漫画家だ。
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