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9/15『狐のスカウト』
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「この度は大変お世話になりました」
「うむ、良く頑張ってまっとうしたな」
「おかげさまで、なんとか」
勤めていた会社が急に倒産し、人生お先真っ暗、という状況で出会ったのが、こちらの神様が祀られた神社だった。
カルマの解消と困難を乗り越える力をつけるための人生だったようだが、なんで俺のときに、という気持ちでいっぱいだった。
俺だって金持ちの家に生まれて裕福な環境でのびのび過ごしたかったよ。前世が裕福な生活だったから今度は貧乏に挑戦、という気持ちもわかるけど、苦しい人生を生きる人格の身にもなってほしい。
寿命が尽きかけたいま、それらはもう全部過去のことになった。
「若い頃はやさぐれておったが、ずいぶん好々爺になったものだ」
「自分でもこんなに丸く落ち着くとは思っていなかったです」
ふふふ、と神様が笑う。きっとこの未来も見えていたんだろうな。
「あのとき神様にお会いしていなかったら、いまこうしていなかったと思うと……本当に感謝の気持ちでいっぱいです」
「うんうん、気づいてくれて良かったよ」
「あまり長居してもなんなので、そろそろおいとまします」
「そうか。まぁまたいつか、近いうちに再会できるのではないかな」
「そうだと嬉しいです。生まれ変わったら、とかになるんですかね?」
それとなく聞いてみたら、神様はやはり「ふふふ」と優しく笑っておられた。
やがてワタシの身体は寿命を迎え、魂が解き放たれた。しばらく現世に滞在したのち、天上界へと戻った。
生きているときには忘れていた様々な記憶が蘇る。あの苦労も、ちゃんと乗り越えることができたからいまのワタシはこんなにも輝けている。
受け入れてくれた身体に感謝し、助けてくれたあの神様にも感謝した。
天上界での生活は穏やかそのもの。金銭は必要ないから働く必要もなく、負の感情もないから苛立つことも憤ることもない。
ただ好きなことをして好きなように過ごして、好きな人たちと会う。
あー、これは覚えてたら地上の生活嫌になっちゃうわー。
魂の向上のために修行も時折行うけれど、なんのためにやっているのかが明確だから頑張ることができる。
そんな日々を続け、地上界で言う“五十回忌”を終えた頃、見覚えのある狐の眷属さんがワタシの所へやって来た。
「邪魔するぞ」
「うわ、ご無沙汰してます」
「うむ、達者でなにより」
「どうなさったんですか、こんなところまで」
「スカウトに来たのだ」
「すかうと……って、あの?」
「そうだ。お前がうちの神社に来るようになってから目をつけていたのだ。声もかけたが、そろそろ思い出せるだろう?」
「えぇ?」
天界に戻ってからの担当と守護霊との反省会でもそんな話は出てなかったのだけど……。
腕を組み、んん~? と唸って首を傾げたら急に思い出した。
神社で参拝したあと境内を散歩しているときに、確かに声をかけられていた。
『あちらに戻ってひと段落したら、修行をしに来ないか?』と。
生前のワタシは霊感などなくその声を聞くことができなかったけれど、魂はしっかり聞いていて、落ち着いたら考えさせてくださいと返答していた。
あの神社は本当に大好きでお世話になったからお手伝いできるのなら行きたい。
こちらの安寧とした日々にも少し退屈してきたし……また転生するよりはいいのだろうか。
「修行してみて、やはり違ったと感じたならここに戻ってくることも可能だ。お前の意思に任せるぞ」
眷属さんの言葉に、うぅーん、と悩んで、決めた。
「こんにちは」
「おぉおぉ、よう来たよう来た」
「ご無沙汰しておりました」
「うんうん、達者でなにより」
「はい。あの……生前ご挨拶したとき、神様は知ってらしたんですか? スカウトのこと」
「うむ。先の楽しみは取っておいたほうがいいと思ってのぅ」
「そうでしたか。ご恩をお返しできるように頑張ります」
「ほほほ、いいのだよそんなのは。頑張ればお主自身が神になれる可能性もあるからな。まずは眷属として働いてみておくれ」
「はい」
神様とお話ししている間、迎えに来てくれた眷属さんは近くに座ってニコニコしていた。
そうか、こんな進路もあるんだな。
生前通いなれた神社の境内は、現実世界で見えていたのとは違う風景だった。
いや、建物や景観は同じなのだけど、見えている“存在”が違う。
神様をはじめ、眷属さんがたくさんいて、忙しそうに働いている。
声をかけてくれた眷属さんは、この神社の眷属さんたちを束ねるリーダー的存在らしく、ワタシのことを新人研修生として教育してくれた。
参拝者の願いを叶える仕事は地上界の仕事と全然違うけど、とても楽しい。
向いているかもしれないからしばらく頑張ってみようと、久しぶりに生き生きした気持ちになった。
「うむ、良く頑張ってまっとうしたな」
「おかげさまで、なんとか」
勤めていた会社が急に倒産し、人生お先真っ暗、という状況で出会ったのが、こちらの神様が祀られた神社だった。
カルマの解消と困難を乗り越える力をつけるための人生だったようだが、なんで俺のときに、という気持ちでいっぱいだった。
俺だって金持ちの家に生まれて裕福な環境でのびのび過ごしたかったよ。前世が裕福な生活だったから今度は貧乏に挑戦、という気持ちもわかるけど、苦しい人生を生きる人格の身にもなってほしい。
寿命が尽きかけたいま、それらはもう全部過去のことになった。
「若い頃はやさぐれておったが、ずいぶん好々爺になったものだ」
「自分でもこんなに丸く落ち着くとは思っていなかったです」
ふふふ、と神様が笑う。きっとこの未来も見えていたんだろうな。
「あのとき神様にお会いしていなかったら、いまこうしていなかったと思うと……本当に感謝の気持ちでいっぱいです」
「うんうん、気づいてくれて良かったよ」
「あまり長居してもなんなので、そろそろおいとまします」
「そうか。まぁまたいつか、近いうちに再会できるのではないかな」
「そうだと嬉しいです。生まれ変わったら、とかになるんですかね?」
それとなく聞いてみたら、神様はやはり「ふふふ」と優しく笑っておられた。
やがてワタシの身体は寿命を迎え、魂が解き放たれた。しばらく現世に滞在したのち、天上界へと戻った。
生きているときには忘れていた様々な記憶が蘇る。あの苦労も、ちゃんと乗り越えることができたからいまのワタシはこんなにも輝けている。
受け入れてくれた身体に感謝し、助けてくれたあの神様にも感謝した。
天上界での生活は穏やかそのもの。金銭は必要ないから働く必要もなく、負の感情もないから苛立つことも憤ることもない。
ただ好きなことをして好きなように過ごして、好きな人たちと会う。
あー、これは覚えてたら地上の生活嫌になっちゃうわー。
魂の向上のために修行も時折行うけれど、なんのためにやっているのかが明確だから頑張ることができる。
そんな日々を続け、地上界で言う“五十回忌”を終えた頃、見覚えのある狐の眷属さんがワタシの所へやって来た。
「邪魔するぞ」
「うわ、ご無沙汰してます」
「うむ、達者でなにより」
「どうなさったんですか、こんなところまで」
「スカウトに来たのだ」
「すかうと……って、あの?」
「そうだ。お前がうちの神社に来るようになってから目をつけていたのだ。声もかけたが、そろそろ思い出せるだろう?」
「えぇ?」
天界に戻ってからの担当と守護霊との反省会でもそんな話は出てなかったのだけど……。
腕を組み、んん~? と唸って首を傾げたら急に思い出した。
神社で参拝したあと境内を散歩しているときに、確かに声をかけられていた。
『あちらに戻ってひと段落したら、修行をしに来ないか?』と。
生前のワタシは霊感などなくその声を聞くことができなかったけれど、魂はしっかり聞いていて、落ち着いたら考えさせてくださいと返答していた。
あの神社は本当に大好きでお世話になったからお手伝いできるのなら行きたい。
こちらの安寧とした日々にも少し退屈してきたし……また転生するよりはいいのだろうか。
「修行してみて、やはり違ったと感じたならここに戻ってくることも可能だ。お前の意思に任せるぞ」
眷属さんの言葉に、うぅーん、と悩んで、決めた。
「こんにちは」
「おぉおぉ、よう来たよう来た」
「ご無沙汰しておりました」
「うんうん、達者でなにより」
「はい。あの……生前ご挨拶したとき、神様は知ってらしたんですか? スカウトのこと」
「うむ。先の楽しみは取っておいたほうがいいと思ってのぅ」
「そうでしたか。ご恩をお返しできるように頑張ります」
「ほほほ、いいのだよそんなのは。頑張ればお主自身が神になれる可能性もあるからな。まずは眷属として働いてみておくれ」
「はい」
神様とお話ししている間、迎えに来てくれた眷属さんは近くに座ってニコニコしていた。
そうか、こんな進路もあるんだな。
生前通いなれた神社の境内は、現実世界で見えていたのとは違う風景だった。
いや、建物や景観は同じなのだけど、見えている“存在”が違う。
神様をはじめ、眷属さんがたくさんいて、忙しそうに働いている。
声をかけてくれた眷属さんは、この神社の眷属さんたちを束ねるリーダー的存在らしく、ワタシのことを新人研修生として教育してくれた。
参拝者の願いを叶える仕事は地上界の仕事と全然違うけど、とても楽しい。
向いているかもしれないからしばらく頑張ってみようと、久しぶりに生き生きした気持ちになった。
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