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9/16『ポプラの火』
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ポーチを振るとカシャカシャ鳴る。なんでだろう。そんな鳴るようなもの入れた覚えないんだけど。
何かが割れたり壊れたりしてるかも? と思って開けたら、中に見覚えのない小さな箱が入っていた。
可愛らしい絵柄に謎の言語。面積が少ないほうの側面には茶色のザリザリした紙が貼られている。
マッチだ。
買った覚えも貰った覚えもない。なんなら使ったこともないんだけど、なんであるんだ。誰か入れた?
ポーチから出して振ってみたら、やはりこの小箱がカシャカシャと鳴った。
白いケースを引き出すと、中に先端がカラフルなマッチ棒がたくさん入っていた。
意外に可愛い。これ、火も先端と同じ色になったりするのかな?
気になったから点けてみることにした。
灰皿なんてないから、水を張ったお香皿の上で着火。
先端と同じ桃色の炎が出たと思ったら、桃色の煙が雲のように集まって、映像を映し出した。
そこには今よりも歳を重ねた自分の姿と、見覚えのない異性の姿。子供を宿しているのか、大きなお腹を二人で幸せそうに撫でている。
なにこれ。幻覚? にしてはハッキリ見えすぎてる。いや、幻覚なんて初めて見るし、案外こんなものか……?
「あちちっ」
映像を凝視しているうちにマッチは案外燃え進んでいた。指に火の熱さを感じて離したら、香皿に貼ってた水に落ち、音を立てて火が消えた。
さっき見た光景は目の前から消えているが、自分が体験したことのように思い出せる。
なんだこれ、誰の記憶だ。
子供はおろか結婚だってしてないし、なんなら恋人すらいない。
なんだか気になって、今度は先端が青色のマッチを点けた。
さっきと同じように青色の炎が出て、青色の煙が集まった。
中に見えたのは、最近新しく取引を始めた会社との打ち合わせ風景だった。
現在開発中の商品をプレゼンしている。
この商品、まだたたき台の状態で止まってるやつ……「あちちっ!」
あぁ、もうちょっと資料見たかったんだけど……。
手元のケースを見たら、青のマッチはまだ数本あった。
さっきの映像の先が見たくてもう一度点けたのだけど、さっきと全く同じ風景が見えただけだった。
どうやら現状でなにかしらのアクションをして事態を進めないと、見える映像は変わらないようだ。
ケースの中のマッチは、赤、桃、黄、青、緑の五色。おそらくなにかしらのカテゴリに分けられていると思う。
桃は多分、結婚とか恋愛とかそういう関係。青は仕事関係? 学生だったら学業とかも入るのかもしれない。
法則を考えていたら、ある物が頭に浮かんだ。
お守りだ。
土産屋なんかで売ってる、効果あるのかな? って感じのお守り。あれっぽい。
恋愛運はピンク、金運は黄色、勝負運は赤、みたいの。
その法則が合ってるなら、きっと緑は……。
予想を立ててから緑色のマッチを擦った。
健康運だと思って擦ったマッチから出た煙のスクリーンには、自分が事故に遭う様子が映った。
信号無視して突っ込んで来た車と衝突。伴侶と、まだ幼い我が子を残して……「あちちっ」
これは……未来の自分?
だとしたら避けたい。きっと可愛いであろう我が子と最愛の伴侶を遺して逝くなんて嫌だ。
でもまだ先のことだ。きっと未来は変えられる。だけどそのときまで、覚えていられるだろうか。
それから年月が経って、伴侶ができ、我が子が生まれた。
大事に保管していたあのマッチを久しぶりに擦る。
緑色の煙には、以前見た事故の光景が映った。この景色に見覚えがある。保育園へ行く途中の、見通しが悪い交差点のあたりだ。
事故が多いから気をつけようねと言うものの、家から保育園までの近道だからついつい使ってしまう。そこで事故に遭うらしい。
洋服に注視し、子供と伴侶の服装の組み合わせを記憶してから火を消した。
毎朝服装を観察していたら、とうとうその日がやってきた。
記憶した服の組み合わせ。間違いない、今日だ。
腹を括って仕事へ向かい、帰りに伴侶と落ち合って我が子を迎えに行く。
「ねー、あっちからかえろー」
「ん? いいけど遠回りだよ?」
「いーの! あっち!」
子供の言う通り、帰り道を変更する。
いつもは寄らない公園で遊び、いつもは寄らないカフェでお茶をし、いつもと違う時間に家に着いた。
家に着いた。着いたよ?
あの映像はきっと今日の光景だったはず。それともまた別の日だったのか?
風呂場で一人、最後の一本になった緑色のマッチを取り出し、着火した。
緑色の煙の中には、年老いてもなお仲睦まじく寄り添う夫婦の姿が見えた。
あれ? 運命変わってる……?
「あちちっ」
それ以降、煙の中に未来を見ることはなかった。
悲運を変えてくれた子供に感謝し、毎日を大事に生きようと心に誓った。
何かが割れたり壊れたりしてるかも? と思って開けたら、中に見覚えのない小さな箱が入っていた。
可愛らしい絵柄に謎の言語。面積が少ないほうの側面には茶色のザリザリした紙が貼られている。
マッチだ。
買った覚えも貰った覚えもない。なんなら使ったこともないんだけど、なんであるんだ。誰か入れた?
ポーチから出して振ってみたら、やはりこの小箱がカシャカシャと鳴った。
白いケースを引き出すと、中に先端がカラフルなマッチ棒がたくさん入っていた。
意外に可愛い。これ、火も先端と同じ色になったりするのかな?
気になったから点けてみることにした。
灰皿なんてないから、水を張ったお香皿の上で着火。
先端と同じ桃色の炎が出たと思ったら、桃色の煙が雲のように集まって、映像を映し出した。
そこには今よりも歳を重ねた自分の姿と、見覚えのない異性の姿。子供を宿しているのか、大きなお腹を二人で幸せそうに撫でている。
なにこれ。幻覚? にしてはハッキリ見えすぎてる。いや、幻覚なんて初めて見るし、案外こんなものか……?
「あちちっ」
映像を凝視しているうちにマッチは案外燃え進んでいた。指に火の熱さを感じて離したら、香皿に貼ってた水に落ち、音を立てて火が消えた。
さっき見た光景は目の前から消えているが、自分が体験したことのように思い出せる。
なんだこれ、誰の記憶だ。
子供はおろか結婚だってしてないし、なんなら恋人すらいない。
なんだか気になって、今度は先端が青色のマッチを点けた。
さっきと同じように青色の炎が出て、青色の煙が集まった。
中に見えたのは、最近新しく取引を始めた会社との打ち合わせ風景だった。
現在開発中の商品をプレゼンしている。
この商品、まだたたき台の状態で止まってるやつ……「あちちっ!」
あぁ、もうちょっと資料見たかったんだけど……。
手元のケースを見たら、青のマッチはまだ数本あった。
さっきの映像の先が見たくてもう一度点けたのだけど、さっきと全く同じ風景が見えただけだった。
どうやら現状でなにかしらのアクションをして事態を進めないと、見える映像は変わらないようだ。
ケースの中のマッチは、赤、桃、黄、青、緑の五色。おそらくなにかしらのカテゴリに分けられていると思う。
桃は多分、結婚とか恋愛とかそういう関係。青は仕事関係? 学生だったら学業とかも入るのかもしれない。
法則を考えていたら、ある物が頭に浮かんだ。
お守りだ。
土産屋なんかで売ってる、効果あるのかな? って感じのお守り。あれっぽい。
恋愛運はピンク、金運は黄色、勝負運は赤、みたいの。
その法則が合ってるなら、きっと緑は……。
予想を立ててから緑色のマッチを擦った。
健康運だと思って擦ったマッチから出た煙のスクリーンには、自分が事故に遭う様子が映った。
信号無視して突っ込んで来た車と衝突。伴侶と、まだ幼い我が子を残して……「あちちっ」
これは……未来の自分?
だとしたら避けたい。きっと可愛いであろう我が子と最愛の伴侶を遺して逝くなんて嫌だ。
でもまだ先のことだ。きっと未来は変えられる。だけどそのときまで、覚えていられるだろうか。
それから年月が経って、伴侶ができ、我が子が生まれた。
大事に保管していたあのマッチを久しぶりに擦る。
緑色の煙には、以前見た事故の光景が映った。この景色に見覚えがある。保育園へ行く途中の、見通しが悪い交差点のあたりだ。
事故が多いから気をつけようねと言うものの、家から保育園までの近道だからついつい使ってしまう。そこで事故に遭うらしい。
洋服に注視し、子供と伴侶の服装の組み合わせを記憶してから火を消した。
毎朝服装を観察していたら、とうとうその日がやってきた。
記憶した服の組み合わせ。間違いない、今日だ。
腹を括って仕事へ向かい、帰りに伴侶と落ち合って我が子を迎えに行く。
「ねー、あっちからかえろー」
「ん? いいけど遠回りだよ?」
「いーの! あっち!」
子供の言う通り、帰り道を変更する。
いつもは寄らない公園で遊び、いつもは寄らないカフェでお茶をし、いつもと違う時間に家に着いた。
家に着いた。着いたよ?
あの映像はきっと今日の光景だったはず。それともまた別の日だったのか?
風呂場で一人、最後の一本になった緑色のマッチを取り出し、着火した。
緑色の煙の中には、年老いてもなお仲睦まじく寄り添う夫婦の姿が見えた。
あれ? 運命変わってる……?
「あちちっ」
それ以降、煙の中に未来を見ることはなかった。
悲運を変えてくれた子供に感謝し、毎日を大事に生きようと心に誓った。
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