日々の欠片

小海音かなた

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12/23『テレカ 〜テレホンカードの【本当の】使い方〜』

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 テレカを差し込み、早く飲み込めとカードを指先で叩くが動かない。受話器を取らねば通話ができない、と説明されてことを思い出し、慌てて受話器を上げる。
 さっきまで動かなかったテレホンカードは電話機に吸い込まれ、カードの残り度数が小さい画面に表示された。
 数字が刻まれた丸いボタンをせわしく叩く。
『はい、召喚獣派遣請負、サモン株式会社です。どの属性をご希望ですか』
「木属性のモンスターを!」
「現在ですと【マンドレイク】の派遣のみとなっております」
 ベヒモスに対応するにはちょっと弱いが仕方ない。
「じゃあそれで!」
「補佐として水属性の【ケルピー】か【ガルグイユ】の派遣も可能でございますが」
「あぁ~、【ケルピー】も一体!」
『かしこまりました』
 回答と同時に電話ボックスを中心とした魔法陣が現れ、光を放つ。
 空に黒い雲が渦を巻き、その中心から召喚獣が二体降りてきた。
 マンドレイクとケルピーが地上に降りたつと同時に、カードの残り度数を示す数字が減り始めていく。
 夜道を歩いていたら急に襲われたため、緊急召喚を余儀なくされた。持ってて良かったテレホンカード!
 魔法陣の外で地を蹴るベヒモスの召喚者は見当たらない。対人間なら会話が通じるが、召喚獣では話ができない。
 いや、たまに話が通じない人間も確かに存在するが……。
 通常の象よりも遥かに大きなベヒモスがこちらへ駆けてこようとしている。魔法陣の中は安全、とは言うけれど、どのくらいの攻撃に耐えうるかまではわからない。
 ベヒモスに対峙するマンドレイクは小さく、ケルピーも通常の馬と同様のサイズだ。あんな巨大なヤツを退けることができるのだろうか。
 不安になっていたら受話器から指示が聞こえた。
『ケルピー。マンドレイクに【水噴射】を発動』
『ブルルルッ』
 ケルピーがいなないて、口から水を発射した。
『マンドレイク。【水噴射】を吸収し巨大化。【叫び】の待機』
 前方にいるマンドレイクが背中でそれを浴び、そのまま体内に水を蓄える。同時に、口を開け光を吸いこみ、技の発動準備をしている。
 水サポートを得て巨大化したマンドレイクに、電話の向こうから指示が飛んだ。
『マンドレイク。ベヒモスに【叫び】を発動』
『ぐおおぉぉん!』
 地が震えるほどの声とともに、吸い込んだ光が発射されベヒモスにヒットした。
 ベヒモスはその攻撃をまともに受けて鳴き声をあげ、動きを止めた。
『ケルピー。マンドレイク。依頼人を守護し、そのまま待機』
 電話からの指示に従い、ケルピーとマンドレイクが電話ボックスを囲う魔法陣のすぐそばで、動かなくなったベヒモスに対峙しながら待機する。
『依頼人様、そのままお待ちください。じきに【中道の立場】が現れるかと思います』
「はっ、はい」
 返答して受話器を握ったまま待っていると、空間の一辺に切り込みができた。
『はいはーい、お待たせぇ』
 【中道の立場】が時空を割って現れる。
『お疲れさまー。この子はコチラで元の時空に返しておくねー』
『お願いいたします』
「お、お願いします」
 中道の立場、初めて見た。見た、というか感じた、というか。視覚では捉えられない存在だけど、確かにそこにいる。
『あなたが召喚依頼したコたちは、召喚ゲートから帰るからね』
「はい……あの」
『うん?』
「そのベヒモス、召喚者がいませんでしたが……」
『あー、召喚者のパワーが足らなくて暴走しちゃったんだろうねー。このコは生きてるし、召喚者には……ちょっと“お仕置き”があるかもだけど、殺められたりはしないから安心して。あなたはー……災難だったね』
 ニコリと笑いかけられた、ような気がした。
『またなにかに遭遇したときのために、カードか携帯、持ち歩いててね。じゃあねぇ』
 ベヒモスは【中道の立場】に抱えられ、時空の狭間に消えた。恐らく元いた場所かどこかで癒されて復活し、また誰かに召喚されるんだろう。
 マンドレイクとケルピーが空の渦の中へ戻り、元の青空に戻ったのを確認してから召喚請負会社に完了の旨を伝えて受話器を置く。同時にカードが返却口から出てきた。
 使用した分だけ減った度数の場所に穴が開いている。残り度数は額面の半分程度。またどこかの金券ショップで割り引かれてるカードを買っておかなくては。
 こういうとき、携帯召喚機があると便利なんだよなー。テレカなんて使わずに、アプリかなにかでサッと喚べるし……。
 仕方ない、明日にでも店に行って、携帯召喚機の契約してくるか……。
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