日々の欠片

小海音かなた

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12/24『大人になったら欲しいもの』

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『ごめん、いつも』
「……なに、急に。どうしたの?」
『いや……メンバーに言われてさ……。こういうイベントの日に会えないの、我慢してる彼女に感謝しろって』
「うん……いや、別に、あまり気にしてないから」
『だよね』明らかに声色が明るくなった。『ほらぁ』あぁ、後ろにメンバーさんいるのね。
「職場とかじゃないの? 大丈夫?」
『大丈夫、シズカんち』
「そう。っていうか、メンバーさんと一緒なら」
『ちがうんだ。配信用の撮影準備をしてて、仕事で来てて』
「……うん。あ、責めてるんじゃなくて、一緒なら、私に気を遣わずに楽しんで、って言おうとしてたの」
『あ……そうなんだ。ありがとう』
「こちらこそ、電話ありがとう。明日は会えるんだから大丈夫だよ」
『うん』

 私の彼はアイドルだ。
 付き合い始めたころは普通の中学生だったんだけど、高校生になってとあるアイドル育成番組のオーディションで合格して、異国でデビューした。活動拠点はあちらとこちらが半々くらい。
 以前よりも会える時間は大幅に減ったけれど、彼が元気かどうかは各メディアで確認できるし、彼も私を気にして度々連絡をくれるから特に不満はない。ということにしておく。

『明日、近く着いたら電話する』
「うん、待ってる」
 じゃあね、と言って電話を切った。彼はこのあと、生配信のお仕事がある。こっそり作ったアカウントでログインして視聴するつもり。
 “私だけの彼”が“みんなの彼”になって、寂しいし不安だし切ないなってときもあったけど、彼が努力してるのも知ってるから、私も努力して払拭してる。
 この先どうなるかはわからないけど……。
 ピロリン、ポロリン♪
 インターホンが鳴った。
 セールスだったら断ろうと思いつつ応答する。
『宅配便です~。ソウマ、タクマさまからのお届け物なんですが~』
 彼の名前を聞いて心臓が跳ねた。
「は、はいっ」
『置き配時にご連絡をご希望でしたので、宅配ボックスに入れておきますね』
「ありがとうございます」
 宅配便の人が帰った頃を見計らって宅配ボックスへ行く。彼からの荷物は長さ30センチくらいの長方形の段ボール箱。
 ボックスから取り出して部屋に戻り、早速開封すると、中にはクリスマスツリーが入っていた。
 すでに飾りつけがされていて、出したらすぐに飾れるやつ。と思っていたら、箱の下側になった部分はただのモミの木だった。
 ツリーの下にメッセージカードが入ってる。
【飾り付け、半分しかできてないからもう半分はお願いね。タクマ】
 カードの下に更に入っていたオーナメントの数々。
 こういうことしてくれるの、すっごく嬉しい。
 誰にでも分け隔てなく優しいからちょっと心配だけど、その心配以上の安心をくれるから、大丈夫。
 テーブルの上にツリーを置いて、彼の飾り付けと対比になるようオーナメントを付けていく。
 てっぺんの星は、明日二人で一緒に飾ろう。

 クリスマスイブのスペシャル生配信で彼はメンバーさんとクリスマスパーティーをしていた。
 とても楽しそうで、観ているこちらまで楽しくなってくる。きっと配信が終わってもみんなでワイワイしてるんだろうなと思ったら笑顔が溢れ出した。
 イブはあと数時間で終わっちゃうけど、明日になれば……『メッセ♪』
 震えたスマホに意識が移動する。
 あ、タクマからだ。

ソウマ{配信の後片付け全部終わった]
ソウマ{遅いけど、いまから行ってもいい?]

 もちろん!
 頭の中の回答を打ち込みながら、今日一番の笑みが浮かぶ。
 部屋の飾り付けしちゃったほうがいいかな。いや、明日タクマと一緒にしたほうが楽しいかも? そうだ、服装どうしよう。部屋着はやめたほうがいいか。でもタクマが来てしばらくしたら寝る時間だし……いやでもそこは彼氏を迎える彼女として……。
 急に訪れた幸せに思考がフル回転する。
 ちょっと早いクリスマスプレゼントを貰った気分だ。
 どこかにいるかもしれないサンタさん、彼との時間をありがとー!
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