【完結】転生ヒロインと転生(?)悪役令嬢は逆ハーエンドを回避したい! 〜R18禁エンドはごめんです!〜

koromachi

文字の大きさ
12 / 139

アリスの秘密

しおりを挟む
「はあぁ……クラリスちゃんが可愛すぎて辛い……」

 帰宅早々ベッドにダイブし、枕を抱きしめて身もだえしているのが、この国の筆頭公爵の愛娘、アリス・ド・オストローだと言っても誰も信じないだろう。

 それほど、普段のキリッとした雰囲気からは想像もできないほど、ダラダラとしまりのない顔になっていた。


「もう、お嬢様!シワになる前にお着替えからお願いします!」

 幼い頃からアリスに仕えている専属メイドのカイシャがいつものお小言をこぼす。

「もうカイシャったら、そんなに怒らないで」

「怒って当然です!急に外食してくるとおっしゃったかと思えば、帰って来られるなり、ベッドに飛び込むなんて!淑女のされることではありません!」

「さあアリスお嬢様、湯浴みの用意が整いました」

 カイシャのお小言にアリスがしぶしぶベッドから降りたところ、すかさずメイド達が服を脱がせて、下着姿のアリスを湯殿へと連行する。



「ありがとう、みんな。後は一人で大丈夫よ。」

 長い髪を丁寧に洗われ、湯船に入ったところでメイド達に退出を促す。

「ふうう。慣れたとはいえ、やっぱりお風呂は一人でゆっくり入りたいわよね」

 前世ではもちろん誰かに体を洗われるなんて経験はなかったから、こればかりは何年たっても気恥ずかしさが拭えない。

 アリスが前世のことを思い出したのは五歳の誕生日を迎える一月ほど前のことだった。


=================================================


 盛大な誕生日パーティーを開くべく準備に余念がない公爵家で、アリスは暇を持て余していた。大人達はみんなバタバタと忙しそうで、少し年の離れた兄達は学園に通っていて、昼間は家にはいない。

「お庭の散歩でもして来ようっと」

 アリスが庭に出ると、メイドのカイシャが慌てて日傘を持ってその後ろを追いかけてきた。

「カイシャは来なくて大丈夫!」

「ダメです。屋敷の敷地内とはいえ、アリス様お一人にするわけにはいきません!」

「来ないで!」

 虫のいどころの悪かったアリスは、カイシャの手をすり抜けると、庭に向かって走り出した。

「お嬢様!」

 カイシャが慌てて追いかけるが、カイシャのぽっちゃりした身体では、すばしこい四歳児を捕まえるのは一苦労だ。

「ここまでおいでー!っつ!」

 後ろを振り向きながら走っていたアリスは目の前の生垣に気づかず、勢いのままに生垣に頭から突っ込んでいた。

 ザザザッ

 アリスは咄嗟に目をつぶって、来るべき衝撃に耐えようとしたが、アリスの身体は柔らかく抱き締められていて、傷一つなかった。

「お母様!」

「もうアリスったら。こんなお転婆なことをしてはダメよ」

 アリスを柔らかく包み込んで、困ったような顔をしていたのは、アリスの母のクレアだった。

 クレアは少し離れたところで庭師とパーティーの飾り付けに使用する花の打ち合わせをしていたのだが、アリスがカイシャを困らせているのを見て、注意しようと近付いてきたところだった。

 ところが、前を見ずに走るアリスが生垣に頭から突っ込みそうになったのを見て、咄嗟に自分の体を生垣とアリスの間に滑り込ませて、娘の顔が傷だらけになるのを防いだのだ。

「奥様!大丈夫ですか?!」

「奥様、血が!」

「大丈夫よ、枝が少し引っかかっただけよ。」

 アリスを庇ったクレアの腕には、枝で引っ掻かれたのか、一直線に傷ができていて、出血していた。
 
「お母様、ごめんなさい……」

「大丈夫よ。アリスの可愛いお顔じゃなくて良かったわ。次からはカイシャを困らせたりしてはダメよ」

「はい。カイシャもごめんなさい」

「お嬢様、もうこんな危ないことはやめてくださいね」

「はい」

「クレア!怪我をしたと聞いたが、大丈夫か?!アリスも!怪我はないか?!」

 庭師から話を聞いたオストロー公爵が慌てて駆け寄ってきた。

「私は大丈夫ですわ。かすり傷です」

「お母様が私を庇ってお怪我を……」

「アリスに怪我がなかったなら良かった。だが、ああ、クレア、君の美しい腕に傷が……」

「ラングドン医師を呼べ!」

 クレアの腕の傷に青くなった公爵は有無を言わさずにクレアを抱き上げ、公爵家お抱え医師を呼ぶように命じると、アリスの頭をひと撫でして、足早に屋敷の中に入って行った。

「お嬢様、私達もお部屋に戻りましょう」

「うん……」

 先ほどまでとは打って変わっておとなしくなったアリスはカイシャに手を引かれて自室へと戻った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「転生したら推しの悪役宰相と婚約してました!?」〜推しが今日も溺愛してきます〜 (旧題:転生したら報われない悪役夫を溺愛することになった件)

透子(とおるこ)
恋愛
読んでいた小説の中で一番好きだった“悪役宰相グラヴィス”。 有能で冷たく見えるけど、本当は一途で優しい――そんな彼が、報われずに処刑された。 「今度こそ、彼を幸せにしてあげたい」 そう願った瞬間、気づけば私は物語の姫ジェニエットに転生していて―― しかも、彼との“政略結婚”が目前!? 婚約から始まる、再構築系・年の差溺愛ラブ。 “報われない推し”が、今度こそ幸せになるお話。

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない

陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」 デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。 そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。 いつの間にかパトロンが大量発生していた。 ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?

【完結】転生白豚令嬢☆前世を思い出したので、ブラコンではいられません!

白雨 音
恋愛
エリザ=デュランド伯爵令嬢は、学院入学時に転倒し、頭を打った事で前世を思い出し、 《ここ》が嘗て好きだった小説の世界と似ている事に気付いた。 しかも自分は、義兄への恋を拗らせ、ヒロインを貶める為に悪役令嬢に加担した挙句、 義兄と無理心中バッドエンドを迎えるモブ令嬢だった! バッドエンドを回避する為、義兄への恋心は捨て去る事にし、 前世の推しである悪役令嬢の弟エミリアンに狙いを定めるも、義兄は気に入らない様で…??  異世界転生:恋愛 ※魔法無し  《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、ありがとうございます☆

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

悪役令嬢に転生するも魔法に夢中でいたら王子に溺愛されました

黒木 楓
恋愛
旧題:悪役令嬢に転生するも魔法を使えることの方が嬉しかったから自由に楽しんでいると、王子に溺愛されました  乙女ゲームの悪役令嬢リリアンに転生していた私は、転生もそうだけどゲームが始まる数年前で子供の姿となっていることに驚いていた。  これから頑張れば悪役令嬢と呼ばれなくなるのかもしれないけど、それよりもイメージすることで体内に宿る魔力を消費して様々なことができる魔法が使えることの方が嬉しい。  もうゲーム通りになるのなら仕方がないと考えた私は、レックス王子から婚約破棄を受けて没落するまで自由に楽しく生きようとしていた。  魔法ばかり使っていると魔力を使い過ぎて何度か倒れてしまい、そのたびにレックス王子が心配して数年後、ようやくヒロインのカレンが登場する。  私は公爵令嬢も今年までかと考えていたのに、レックス殿下はカレンに興味がなさそうで、常に私に構う日々が続いていた。

《完》義弟と継母をいじめ倒したら溺愛ルートに入りました。何故に?

桐生桜月姫
恋愛
公爵令嬢たるクラウディア・ローズバードは自分の前に現れた天敵たる天才な義弟と継母を追い出すために、たくさんのクラウディアの思う最高のいじめを仕掛ける。 だが、義弟は地味にずれているクラウディアの意地悪を糧にしてどんどん賢くなり、継母は陰ながら?クラウディアをものすっごく微笑ましく眺めて溺愛してしまう。 「もう!どうしてなのよ!!」 クラウディアが気がつく頃には外堀が全て埋め尽くされ、大変なことに!? 天然混じりの大人びている?少女と、冷たい天才義弟、そして変わり者な継母の家族の行方はいかに!?

転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎

水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。 もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。 振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!! え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!? でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!? と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう! 前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい! だからこっちに熱い眼差しを送らないで! 答えられないんです! これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。 または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。 小説家になろうでも投稿してます。 こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。

【完結】引きこもりが異世界でお飾りの妻になったら「愛する事はない」と言った夫が溺愛してきて鬱陶しい。

千紫万紅
恋愛
男爵令嬢アイリスは15歳の若さで冷徹公爵と噂される男のお飾りの妻になり公爵家の領地に軟禁同然の生活を強いられる事になった。 だがその3年後、冷徹公爵ラファエルに突然王都に呼び出されたアイリスは「女性として愛するつもりは無いと」言っていた冷徹公爵に、「君とはこれから愛し合う夫婦になりたいと」宣言されて。 いやでも、貴方……美人な平民の恋人いませんでしたっけ……? と、お飾りの妻生活を謳歌していた 引きこもり はとても嫌そうな顔をした。

処理中です...