【完結】転生ヒロインと転生(?)悪役令嬢は逆ハーエンドを回避したい! 〜R18禁エンドはごめんです!〜

koromachi

文字の大きさ
27 / 139

誰だ、あの男は?!

しおりを挟む
 予鈴が鳴り、アリスは慌てて自分のクラスに移動した。

 (私としたことが……あの隠しキャラの存在をすっかり忘れていたなんて……!)

 授業が始まったが、今日ばかりは先生の声も全く耳に入らない。



 ポール・ブランジュ。クラリスとは家が隣同士で、幼馴染。だが、彼が幼い頃に父が事故で亡くなり、生活の糧を求めて母は彼を連れて自身の実家のある隣国に引っ越してしまう。

 それから12年も経ってから、すっかりいい男に成長した彼がクラリスの前に再び現れて、最初は兄としてしか見ていなかったクラリスも、ある事件をきっかけに、徐々に異性として意識しだす……



 (って、王道ラブストーリーだけれども!このポールのルートは一番逆ハーエンドに進みやすいのよ!)

 平民であるポールは自分よりも身分が上である他の攻略者達にあまり強く出ることができず、クラリスを独り占めすることを早々に諦めてしまうのだ。

 (何よ、不甲斐ない!クラリスちゃんのことがほんとに好きなら死守しなさいよ!ダメ、逆ハー、絶対!)

 ゲームを一周すると、二周目から隠しキャラとして登場するポールに、前世のアリスは何度も煮湯を飲まされたのだ。

 (ダメよ、エロプロデューサーの思い通りにはさせないわ!クラリスちゃんは私が守らなければ……!)









 アリスがこぶしをきつく握りしめていた頃、隣のクラスでも授業に全く身が入らず、スライム化している生徒が一人いた。

「エラリー、エラリー!大丈夫?先生が呼んでいるよ!」

 隣の席に座るジャンが声をかけるが、エラリーのスライム化が解ける様子はない。

「まったく……世話の焼ける……」

 小さく息を吐くと、ジャンは挙手して先生に告げる。

「先生!キンバリー君は具合が悪いようなので、僕が医務室に連れて行きます。」

「そうか、体調不良なら仕方ないな。ドットールー君、よろしく頼むよ」

「はい」

「ほら、エラリー、立てる?医務室に行くよ」

 ジャンの肩を借りて、ようよう立ち上がるエラリーの顔は青く、本当に具合が悪そうに見える。

「大丈夫?しっかり掴まってね」

 小柄なジャンに引きずられるように教室を出て行くその姿に、クラスメイト達は心配そうな視線を向けた。

「まあ、エラリー様、大丈夫かしら……」

「あの、いつもピシッとしたエラリー様があんなにグッタリして」

「今朝挨拶した時は元気そうだったけどな」

 みな口々に心配する、その中にクラリスもいた。

「エラリー様、お顔の色が真っ青だったわ。よほど具合がお悪いのね……」

 そういえば、いつもクラリスが登校すると真っ先に「おはよう」と爽やかな笑顔で声をかけてくれるエラリーが、今日は静かだった。

 まさか、先程のポールの頭なでなでと、「クラリス」呼びが、エラリーに瀕死級のダメージを与えていたとは露知らず、クラリスは純粋にクラスメイトの心配をするのだった。



「キンバリー君にはドットールー君がついていてくれるから大丈夫だ。さあ、授業を続けるぞ」

 エラリーを見送って、先生が授業を再開すると、クラリスもすぐに気持ちを切り替えた。

 (いけない、いけない、今は授業に集中しなきゃ。ただでさえ苦手な化学だもんね!)


 ポールのことなど、色々と気になることはあるが、家庭教師などつけられないクラリスにとっては、授業は大切な学びの時間だ。特待生のポジションをキープするためにも、授業中は誰よりも真剣に先生の話を聞くクラリスだった。



 (エラリー様、多分、朝のクラリス様とご友人の様子にショックを受けられたのね……)

 ジャンと同様にエラリーの不調の原因に気づいていたイメルダは、そっとクラリスの様子を伺っていた。

 (……さすがね、クラリス様は授業に集中されてるわ。エラリー様には可哀想だけど……エラリー様のお気持ちが通じる日は遠いわね……)

 まあ、ジャン様がご一緒だし、じきに戻られるでしょう。


 そう結論付けると、イメルダも授業に集中するべく、気持ちを切り替えて、前を向いた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「転生したら推しの悪役宰相と婚約してました!?」〜推しが今日も溺愛してきます〜 (旧題:転生したら報われない悪役夫を溺愛することになった件)

透子(とおるこ)
恋愛
読んでいた小説の中で一番好きだった“悪役宰相グラヴィス”。 有能で冷たく見えるけど、本当は一途で優しい――そんな彼が、報われずに処刑された。 「今度こそ、彼を幸せにしてあげたい」 そう願った瞬間、気づけば私は物語の姫ジェニエットに転生していて―― しかも、彼との“政略結婚”が目前!? 婚約から始まる、再構築系・年の差溺愛ラブ。 “報われない推し”が、今度こそ幸せになるお話。

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない

陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」 デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。 そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。 いつの間にかパトロンが大量発生していた。 ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

悪役令嬢に転生するも魔法に夢中でいたら王子に溺愛されました

黒木 楓
恋愛
旧題:悪役令嬢に転生するも魔法を使えることの方が嬉しかったから自由に楽しんでいると、王子に溺愛されました  乙女ゲームの悪役令嬢リリアンに転生していた私は、転生もそうだけどゲームが始まる数年前で子供の姿となっていることに驚いていた。  これから頑張れば悪役令嬢と呼ばれなくなるのかもしれないけど、それよりもイメージすることで体内に宿る魔力を消費して様々なことができる魔法が使えることの方が嬉しい。  もうゲーム通りになるのなら仕方がないと考えた私は、レックス王子から婚約破棄を受けて没落するまで自由に楽しく生きようとしていた。  魔法ばかり使っていると魔力を使い過ぎて何度か倒れてしまい、そのたびにレックス王子が心配して数年後、ようやくヒロインのカレンが登場する。  私は公爵令嬢も今年までかと考えていたのに、レックス殿下はカレンに興味がなさそうで、常に私に構う日々が続いていた。

《完》義弟と継母をいじめ倒したら溺愛ルートに入りました。何故に?

桐生桜月姫
恋愛
公爵令嬢たるクラウディア・ローズバードは自分の前に現れた天敵たる天才な義弟と継母を追い出すために、たくさんのクラウディアの思う最高のいじめを仕掛ける。 だが、義弟は地味にずれているクラウディアの意地悪を糧にしてどんどん賢くなり、継母は陰ながら?クラウディアをものすっごく微笑ましく眺めて溺愛してしまう。 「もう!どうしてなのよ!!」 クラウディアが気がつく頃には外堀が全て埋め尽くされ、大変なことに!? 天然混じりの大人びている?少女と、冷たい天才義弟、そして変わり者な継母の家族の行方はいかに!?

転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎

水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。 もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。 振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!! え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!? でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!? と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう! 前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい! だからこっちに熱い眼差しを送らないで! 答えられないんです! これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。 または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。 小説家になろうでも投稿してます。 こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。

【完結】引きこもりが異世界でお飾りの妻になったら「愛する事はない」と言った夫が溺愛してきて鬱陶しい。

千紫万紅
恋愛
男爵令嬢アイリスは15歳の若さで冷徹公爵と噂される男のお飾りの妻になり公爵家の領地に軟禁同然の生活を強いられる事になった。 だがその3年後、冷徹公爵ラファエルに突然王都に呼び出されたアイリスは「女性として愛するつもりは無いと」言っていた冷徹公爵に、「君とはこれから愛し合う夫婦になりたいと」宣言されて。 いやでも、貴方……美人な平民の恋人いませんでしたっけ……? と、お飾りの妻生活を謳歌していた 引きこもり はとても嫌そうな顔をした。

【完結】財務大臣が『経済の話だけ』と毎日訪ねてきます。婚約破棄後、前世の経営知識で辺境を改革したら、こんな溺愛が始まりました

チャビューヘ
恋愛
三度目の婚約破棄で、ようやく自由を手に入れた。 王太子から「冷酷で心がない」と糾弾され、大広間で婚約を破棄されたエリナ。しかし彼女は泣かない。なぜなら、これは三度目のループだから。前世は過労死した41歳の経営コンサル。一周目は泣き崩れ、二周目は慌てふためいた。でも三周目の今回は違う。「ありがとうございます、殿下。これで自由になれます」──優雅に微笑み、誰も予想しない行動に出る。 エリナが選んだのは、誰も欲しがらない辺境の荒れ地。人口わずか4500人、干ばつで荒廃した最悪の土地を、金貨100枚で買い取った。貴族たちは嘲笑う。「追放された令嬢が、荒れ地で野垂れ死にするだけだ」と。 だが、彼らは知らない。エリナが前世で培った、経営コンサルタントとしての圧倒的な知識を。三圃式農業、ブランド戦略、人材採用術、物流システム──現代日本の経営ノウハウを、中世ファンタジー世界で全力展開。わずか半年で領地は緑に変わり、住民たちは希望を取り戻す。一年後には人口は倍増、財政は奇跡の黒字化。「辺境の奇跡」として王国中で噂になり始めた。 そして現れたのが、王国一の冷徹さで知られる財務大臣、カイル・ヴェルナー。氷のような視線、容赦ない数字の追及。貴族たちが震え上がる彼が、なぜか月に一度の「定期視察」を提案してくる。そして月一が週一になり、やがて──「経済政策の話がしたいだけです」という言い訳とともに、毎日のように訪ねてくるようになった。 夜遅くまで経済理論を語り合い、気づけば星空の下で二人きり。「あなたは、何者なんだ」と問う彼の瞳には、もはや氷の冷たさはない。部下たちは囁く。「閣下、またフェルゼン領ですか」。本人は「重要案件だ」と言い張るが、その頬は微かに赤い。 一方、エリナを捨てた元婚約者の王太子リオンは、彼女の成功を知って後悔に苛まれる。「俺は…取り返しのつかないことを」。かつてエリナを馬鹿にした貴族たちも掌を返し、継母は「戻ってきて」と懇願する。だがエリナは冷静に微笑むだけ。「もう、過去のことです」。ざまあみろ、ではなく──もっと前を向いている。 知的で戦略的な領地経営。冷徹な財務大臣の不器用な溺愛。そして、自分を捨てた者たちへの圧倒的な「ざまぁ」。三周目だからこそ完璧に描ける、逆転と成功の物語。 経済政策で国を変え、本物の愛を見つける──これは、消去法で選ばれただけの婚約者が、自らの知恵と努力で勝ち取った、最高の人生逆転ストーリー。

処理中です...