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誰だ、あの男は?!
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予鈴が鳴り、アリスは慌てて自分のクラスに移動した。
(私としたことが……あの隠しキャラの存在をすっかり忘れていたなんて……!)
授業が始まったが、今日ばかりは先生の声も全く耳に入らない。
ポール・ブランジュ。クラリスとは家が隣同士で、幼馴染。だが、彼が幼い頃に父が事故で亡くなり、生活の糧を求めて母は彼を連れて自身の実家のある隣国に引っ越してしまう。
それから12年も経ってから、すっかりいい男に成長した彼がクラリスの前に再び現れて、最初は兄としてしか見ていなかったクラリスも、ある事件をきっかけに、徐々に異性として意識しだす……
(って、王道ラブストーリーだけれども!このポールのルートは一番逆ハーエンドに進みやすいのよ!)
平民であるポールは自分よりも身分が上である他の攻略者達にあまり強く出ることができず、クラリスを独り占めすることを早々に諦めてしまうのだ。
(何よ、不甲斐ない!クラリスちゃんのことがほんとに好きなら死守しなさいよ!ダメ、逆ハー、絶対!)
ゲームを一周すると、二周目から隠しキャラとして登場するポールに、前世のアリスは何度も煮湯を飲まされたのだ。
(ダメよ、エロプロデューサーの思い通りにはさせないわ!クラリスちゃんは私が守らなければ……!)
アリスがこぶしをきつく握りしめていた頃、隣のクラスでも授業に全く身が入らず、スライム化している生徒が一人いた。
「エラリー、エラリー!大丈夫?先生が呼んでいるよ!」
隣の席に座るジャンが声をかけるが、エラリーのスライム化が解ける様子はない。
「まったく……世話の焼ける……」
小さく息を吐くと、ジャンは挙手して先生に告げる。
「先生!キンバリー君は具合が悪いようなので、僕が医務室に連れて行きます。」
「そうか、体調不良なら仕方ないな。ドットールー君、よろしく頼むよ」
「はい」
「ほら、エラリー、立てる?医務室に行くよ」
ジャンの肩を借りて、ようよう立ち上がるエラリーの顔は青く、本当に具合が悪そうに見える。
「大丈夫?しっかり掴まってね」
小柄なジャンに引きずられるように教室を出て行くその姿に、クラスメイト達は心配そうな視線を向けた。
「まあ、エラリー様、大丈夫かしら……」
「あの、いつもピシッとしたエラリー様があんなにグッタリして」
「今朝挨拶した時は元気そうだったけどな」
みな口々に心配する、その中にクラリスもいた。
「エラリー様、お顔の色が真っ青だったわ。よほど具合がお悪いのね……」
そういえば、いつもクラリスが登校すると真っ先に「おはよう」と爽やかな笑顔で声をかけてくれるエラリーが、今日は静かだった。
まさか、先程のポールの頭なでなでと、「クラリス」呼びが、エラリーに瀕死級のダメージを与えていたとは露知らず、クラリスは純粋にクラスメイトの心配をするのだった。
「キンバリー君にはドットールー君がついていてくれるから大丈夫だ。さあ、授業を続けるぞ」
エラリーを見送って、先生が授業を再開すると、クラリスもすぐに気持ちを切り替えた。
(いけない、いけない、今は授業に集中しなきゃ。ただでさえ苦手な化学だもんね!)
ポールのことなど、色々と気になることはあるが、家庭教師などつけられないクラリスにとっては、授業は大切な学びの時間だ。特待生のポジションをキープするためにも、授業中は誰よりも真剣に先生の話を聞くクラリスだった。
(エラリー様、多分、朝のクラリス様とご友人の様子にショックを受けられたのね……)
ジャンと同様にエラリーの不調の原因に気づいていたイメルダは、そっとクラリスの様子を伺っていた。
(……さすがね、クラリス様は授業に集中されてるわ。エラリー様には可哀想だけど……エラリー様のお気持ちが通じる日は遠いわね……)
まあ、ジャン様がご一緒だし、じきに戻られるでしょう。
そう結論付けると、イメルダも授業に集中するべく、気持ちを切り替えて、前を向いた。
(私としたことが……あの隠しキャラの存在をすっかり忘れていたなんて……!)
授業が始まったが、今日ばかりは先生の声も全く耳に入らない。
ポール・ブランジュ。クラリスとは家が隣同士で、幼馴染。だが、彼が幼い頃に父が事故で亡くなり、生活の糧を求めて母は彼を連れて自身の実家のある隣国に引っ越してしまう。
それから12年も経ってから、すっかりいい男に成長した彼がクラリスの前に再び現れて、最初は兄としてしか見ていなかったクラリスも、ある事件をきっかけに、徐々に異性として意識しだす……
(って、王道ラブストーリーだけれども!このポールのルートは一番逆ハーエンドに進みやすいのよ!)
平民であるポールは自分よりも身分が上である他の攻略者達にあまり強く出ることができず、クラリスを独り占めすることを早々に諦めてしまうのだ。
(何よ、不甲斐ない!クラリスちゃんのことがほんとに好きなら死守しなさいよ!ダメ、逆ハー、絶対!)
ゲームを一周すると、二周目から隠しキャラとして登場するポールに、前世のアリスは何度も煮湯を飲まされたのだ。
(ダメよ、エロプロデューサーの思い通りにはさせないわ!クラリスちゃんは私が守らなければ……!)
アリスがこぶしをきつく握りしめていた頃、隣のクラスでも授業に全く身が入らず、スライム化している生徒が一人いた。
「エラリー、エラリー!大丈夫?先生が呼んでいるよ!」
隣の席に座るジャンが声をかけるが、エラリーのスライム化が解ける様子はない。
「まったく……世話の焼ける……」
小さく息を吐くと、ジャンは挙手して先生に告げる。
「先生!キンバリー君は具合が悪いようなので、僕が医務室に連れて行きます。」
「そうか、体調不良なら仕方ないな。ドットールー君、よろしく頼むよ」
「はい」
「ほら、エラリー、立てる?医務室に行くよ」
ジャンの肩を借りて、ようよう立ち上がるエラリーの顔は青く、本当に具合が悪そうに見える。
「大丈夫?しっかり掴まってね」
小柄なジャンに引きずられるように教室を出て行くその姿に、クラスメイト達は心配そうな視線を向けた。
「まあ、エラリー様、大丈夫かしら……」
「あの、いつもピシッとしたエラリー様があんなにグッタリして」
「今朝挨拶した時は元気そうだったけどな」
みな口々に心配する、その中にクラリスもいた。
「エラリー様、お顔の色が真っ青だったわ。よほど具合がお悪いのね……」
そういえば、いつもクラリスが登校すると真っ先に「おはよう」と爽やかな笑顔で声をかけてくれるエラリーが、今日は静かだった。
まさか、先程のポールの頭なでなでと、「クラリス」呼びが、エラリーに瀕死級のダメージを与えていたとは露知らず、クラリスは純粋にクラスメイトの心配をするのだった。
「キンバリー君にはドットールー君がついていてくれるから大丈夫だ。さあ、授業を続けるぞ」
エラリーを見送って、先生が授業を再開すると、クラリスもすぐに気持ちを切り替えた。
(いけない、いけない、今は授業に集中しなきゃ。ただでさえ苦手な化学だもんね!)
ポールのことなど、色々と気になることはあるが、家庭教師などつけられないクラリスにとっては、授業は大切な学びの時間だ。特待生のポジションをキープするためにも、授業中は誰よりも真剣に先生の話を聞くクラリスだった。
(エラリー様、多分、朝のクラリス様とご友人の様子にショックを受けられたのね……)
ジャンと同様にエラリーの不調の原因に気づいていたイメルダは、そっとクラリスの様子を伺っていた。
(……さすがね、クラリス様は授業に集中されてるわ。エラリー様には可哀想だけど……エラリー様のお気持ちが通じる日は遠いわね……)
まあ、ジャン様がご一緒だし、じきに戻られるでしょう。
そう結論付けると、イメルダも授業に集中するべく、気持ちを切り替えて、前を向いた。
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