【完結】転生ヒロインと転生(?)悪役令嬢は逆ハーエンドを回避したい! 〜R18禁エンドはごめんです!〜

koromachi

文字の大きさ
42 / 139

胸騒ぎの放課後(続)

しおりを挟む
「それで、お話というのは?」

 生徒会室にウィルと二人取り残されたアリスは、眉間の皺を隠さないまま尋ねた。

「ふふふ。もちろん愛しい婚約者と二人きりになりたいっていう話だよ」

 言いつつウィルは生徒会長の席から、アリスの隣りに移動する。ウィルのキラキラ具合がパワーアップするのと比例して、アリスの眉間の皺が深くなる。

「ご冗談はおよしになってくださいな」

「冗談ではないんだけどね。まあ、先にしなければいけない話から済ませてしまおうか。伝えたい話が二つあるんだ。」



「まず一つ目は、先日ヤイミー嬢とメーダ嬢が保健室で話していたという内容についてだ」

 ウィルがジャンから聞いた保健室での令嬢達の会話をアリスに伝えると、アリスの手の中にある扇子がメキメキッと音を立てた。

「……何ですって。クラリスさんにそのような非道な真似を……」

「本当にひどい話だ。聞いていたエラリーもジャンも、耳を疑ったらしい。クラリス嬢にはとても聞かせられない話だ」

 先日ヤイミー嬢を問い詰めた時に詳細を明かさないようにしたのは、クラリスに聞かせないためだったのだと、アリスは悟った。

 (さすがは一国の王となる人だわ。気遣いができているのね。腹黒だけど)

「そうですわね、自分だけでなく家族まで狙われていると知れば、クラリスさんがどれだけ悲しむか」

 あれから週に一度はクラリスの実家の食堂で夕食をとっているアリスは、メルカード家の暖かい空気を思い出して、扇子を握る手に更に力を込めた。

「ヤイミー様は実行するつもりはなかったと言っていましたが、一緒にいたメーダ様は実際にクラリスさんに危害を加えようとしていたんですのよね?」

 (クラリスちゃんを娼館へ売り飛ばすなんて……考えただけでも重罪だわ。絶対に許せない……!)

「メーダ嬢がどこまでやるつもりだったのかについては調査中だ。わかり次第アリス嬢にも知らせるよ」

 アリスがこくと頷くのを見て、ウィルは話を続けた。



「二つ目の話は、例のコモノー男爵親子に関することだ」

「確か昨日の晩に捕縛されて、裁判所の地下牢送りになったのでは?」

 ようやく捕まったと聞いて胸を撫で下ろしていたのだが。

「そのはずだったんだが……今朝になって、空になった護送馬車と意識のない騎士達と御者が、途中の並木道で発見された」

 ウィルが深刻な顔で告げる。

「移送中の脱走……?! ですが、裁判所の護送馬車はかなり守りが堅いはずでは?」

 アリスが驚きに目を見開く。あの不健康そうな親子が、屈強な騎士達を倒して逃げおおせるとは、とてもじゃないが考えられなかった。

「ああ。通常なら逃げ出すことは不可能だ。だが、あの親子は違法薬物にも手を出していたらしくてね。護送の任にあたっていた二人の騎士と御者は薬物をかがされて倒れていた。騎士団の中でも腕利きの若い騎士達だったんだが、若さゆえに油断があったのかもしれない。暗闇の中で、あの親子だけで逃げられるはずがない、との思い込みもあったのかもしれないしね」

「そんな……」

 短時間で意識を失うほど強い薬を大量に嗅がされたのだとしたら、命の危険もある。全ての薬は量をまちがえると途端に毒となるが、麻酔薬の類は特に注意が必要だ。医師でもない素人がむやみやたらに使用していいものではない。

「それで、騎士の方達や御者は大丈夫なのですか?」
 
 アリスの問いにウィルは首を横に振った。

「御者の方は使われた薬の量が比較的少なかったのか、じきに意識を回復したようだ。だが、身体が元に戻るまでは時間がかかりそうだ。今は話すこともできない状態らしい」

「騎士達には余程の量の薬を使ったらしい。全く意識が戻らない。医師からは意識が戻ったとしても廃人になる可能性が高いと言われたとのことだ」

 ウィルの声に珍しく怒りが滲んでいた。

「なんてことを……ですが、あの親子が二人だけで長く逃げおおせるとはとても思えません。すぐに見つかりますわよね?」

 アリスは祈るような思いでウィルに問う。

「ああ。絶対に逃すつもりはない。今朝から王都中をくまなく捜索させている。私とアンソニーも、この後捜索に加わるつもりだよ」

「……ウィル様まで」

「アリス嬢も今日は一人にならないように気をつけて欲しい。まあ、君には公爵家の影がついているから、大丈夫だろうけどね」

「ええ、私は大丈夫ですわ。ですが、クラリスさんが心配です」

 言ってからアリスは、ハッとした。クラリスからコモノー男爵親子の話を聞いて以来、クラリスにはこっそりと影をつけていたのだが、ポールがクラリスの送り迎えをするようになり、男爵親子も店に現れなくなったことから、影を外してしまったのだ。
 
「今日もポール様が一緒だとは思いますが……ウィル様、私、ちょっと図書館に行って参りますわ!」

 急いで生徒会室を出ようとするアリスにウィルがドアを開ける。

「私も一緒に行くよ」

 と、そこにクラリスを送って戻ってきたアンソニーと、まだハニワ化が解けないエラリーがいた。

「トニー。クラリス嬢は図書館に?」

「ええ、確かに送り届けました」

「では、クラリスさんはお一人ではないのですよね?」

「ええ。ジャンもイメルダ嬢も……、(残念ながら)ポールもいましたから」

 少し面白くなさそうにアンソニーは答えた。

「それでしたらいいんですけど……」


 何故だかアリスは胸騒ぎがした。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「転生したら推しの悪役宰相と婚約してました!?」〜推しが今日も溺愛してきます〜 (旧題:転生したら報われない悪役夫を溺愛することになった件)

透子(とおるこ)
恋愛
読んでいた小説の中で一番好きだった“悪役宰相グラヴィス”。 有能で冷たく見えるけど、本当は一途で優しい――そんな彼が、報われずに処刑された。 「今度こそ、彼を幸せにしてあげたい」 そう願った瞬間、気づけば私は物語の姫ジェニエットに転生していて―― しかも、彼との“政略結婚”が目前!? 婚約から始まる、再構築系・年の差溺愛ラブ。 “報われない推し”が、今度こそ幸せになるお話。

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない

陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」 デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。 そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。 いつの間にかパトロンが大量発生していた。 ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?

【完結】転生白豚令嬢☆前世を思い出したので、ブラコンではいられません!

白雨 音
恋愛
エリザ=デュランド伯爵令嬢は、学院入学時に転倒し、頭を打った事で前世を思い出し、 《ここ》が嘗て好きだった小説の世界と似ている事に気付いた。 しかも自分は、義兄への恋を拗らせ、ヒロインを貶める為に悪役令嬢に加担した挙句、 義兄と無理心中バッドエンドを迎えるモブ令嬢だった! バッドエンドを回避する為、義兄への恋心は捨て去る事にし、 前世の推しである悪役令嬢の弟エミリアンに狙いを定めるも、義兄は気に入らない様で…??  異世界転生:恋愛 ※魔法無し  《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、ありがとうございます☆

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

悪役令嬢に転生するも魔法に夢中でいたら王子に溺愛されました

黒木 楓
恋愛
旧題:悪役令嬢に転生するも魔法を使えることの方が嬉しかったから自由に楽しんでいると、王子に溺愛されました  乙女ゲームの悪役令嬢リリアンに転生していた私は、転生もそうだけどゲームが始まる数年前で子供の姿となっていることに驚いていた。  これから頑張れば悪役令嬢と呼ばれなくなるのかもしれないけど、それよりもイメージすることで体内に宿る魔力を消費して様々なことができる魔法が使えることの方が嬉しい。  もうゲーム通りになるのなら仕方がないと考えた私は、レックス王子から婚約破棄を受けて没落するまで自由に楽しく生きようとしていた。  魔法ばかり使っていると魔力を使い過ぎて何度か倒れてしまい、そのたびにレックス王子が心配して数年後、ようやくヒロインのカレンが登場する。  私は公爵令嬢も今年までかと考えていたのに、レックス殿下はカレンに興味がなさそうで、常に私に構う日々が続いていた。

《完》義弟と継母をいじめ倒したら溺愛ルートに入りました。何故に?

桐生桜月姫
恋愛
公爵令嬢たるクラウディア・ローズバードは自分の前に現れた天敵たる天才な義弟と継母を追い出すために、たくさんのクラウディアの思う最高のいじめを仕掛ける。 だが、義弟は地味にずれているクラウディアの意地悪を糧にしてどんどん賢くなり、継母は陰ながら?クラウディアをものすっごく微笑ましく眺めて溺愛してしまう。 「もう!どうしてなのよ!!」 クラウディアが気がつく頃には外堀が全て埋め尽くされ、大変なことに!? 天然混じりの大人びている?少女と、冷たい天才義弟、そして変わり者な継母の家族の行方はいかに!?

転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎

水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。 もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。 振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!! え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!? でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!? と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう! 前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい! だからこっちに熱い眼差しを送らないで! 答えられないんです! これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。 または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。 小説家になろうでも投稿してます。 こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。

悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。

槙村まき
恋愛
 スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。  それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。  挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。  そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……! 第二章以降は、11時と23時に更新予定です。 他サイトにも掲載しています。 よろしくお願いします。 25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!

処理中です...