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一網打尽(続)
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「その結果が、これだよ」
ジャンはにっこりと笑ってダムシー子爵を指差した。
「私とジャンがダムシー子爵邸に着いた時、ちょうど子爵が証拠隠滅をはかろうとしていてね。おかげで手間が省けたよ」
ディミトリもにっこりと笑う。
(あの二人の組み合わせは意外でしたが、どうやら似た者同士だったようですね)
(ああ、私も驚いたよ)
ジャンとディミトリの黒い笑顔に、ウィルとアンソニーが目で会話した。
「さて、証拠の品はこれだけではないようだな。次の証人を呼べ」
「はっ。トマス・ド・クロー伯爵令息、ここへ」
国王の言葉に宰相のアランが、トマスの名を呼んだ。
「はい」
クロー伯爵夫妻の後ろに控えていたトマスが前に出る。
「ト、トマス?!」
「トマス、あなた、何を……!」
「お、お兄様……?」
伯爵家の面々に衝撃が走る。
トマスが国王の前に跪き、頭を下げた。
「クロー伯爵令息。立て、発言を許す」
「ありがとうございます」
国王の許可を得て立ち上がったトマスにはいつもの飄々とした雰囲気はなく、真剣な表情で国王に訴える。
「私、トマス・ド・クローは、クロー伯爵夫妻の悪事の証人となります。証拠となる書類は先に国王陛下宛にお送りいたしました」
「これがその書類です」
アンソニーがトマスの隣に立ち、手にしていた書類を掲げて、皆に見せた。
「な、何の書類だというのですか?!我が家にはそんな、証拠になるようなものは何もないはず……」
クロー伯爵は、言ってからハッとしたように口を押さえた。
「語るに落ちる……ですね。これらの書類は、あなた方がコモノー男爵やアーゴク侯爵に罪をなすりつけようとして偽造したものですよ。そこのクロー伯爵令息が証拠品として提出してくださいました」
アンソニーがにこやかに言う。
「そんな……トマス、嘘でしょ……?」
マチルダが呆然とトマスを見つめるが、トマスはその目を真っ直ぐに見つめて言った。
「私は、母上が偽の書類を用意したと言ったのをこの耳ではっきりと聞きました」
「トマス!!」
マチルダが悲鳴のような声を上げる。
「その書類をお調べいただければ偽造した物であるとわかるかと思い、提出いたしました。それだけでは弱いかもしれませんが、私が証人となれば、証拠としての価値は十分かと思います」
トマスは母の声が聞こえていないかのように、淡々と告げた。
「あいわかった。これだけ証拠が揃えば、密輸の件で伯爵夫妻を裁くのには十分だろう。して、次の罪状は?」
「次ですって……?」
マチルダが呆然としたまま呟く。
「同じくトマス・ド・クロー伯爵令息からの申立てです。マチルダ・ド・クロー伯爵夫人を傷害と暴行の罪で告発したいとあります」
宰相の言葉に国王が頷いて言った。
「トマス・ド・クロー伯爵令息、説明を」
「はい。国王陛下。私は幼い頃から、母が使用人や妹にひどい虐待をしているのを知っていました。妹が地下室に監禁されたのも一度や二度ではありません。証拠を残すため、虐待のあった日時、対象者、暴行の内容を記した日記をつけておりました。それも先に証拠品として提出いたしました」
「トマス……あ、あなた、なんて事を!」
「母上。私は大人になってから、幼い頃に世話になった乳母や、あなたが追い出した使用人達を探して回ったんですよ。彼女達からも、あなたの暴行の証言が取れましたよ。中には、あなたから受けた暴行の傷が元で死んでしまった者もいましたが」
トマスの瞳には激しい怒りが浮かんでいた。
「父上。あなたは私が何度母上を止めるようにお願いしても聞く耳を持たなかった。母上に頭が上がらない理由を知りたくて、あなた達の過去も調べました。父上、あなたは若い頃、賭博場に出入りしていたんですね」
「……な!そ、それは……!」
クロー伯爵もトマスの突然の告発に驚いて、言葉が出ない。
「その賭博場で揉め事に巻き込まれたあなたは、誤って一人の男を殺してしまった。それをメッシー伯爵、お祖父様が裏工作で隠蔽したため、あなたはお祖父様に逆らえず、母上と結婚した」
「ですが、その一連の出来事が全てメッシー伯爵の策略だとしたら、父上、あなたはどうしますか?」
「どういうことだ?!」
「夜会で父上を見初めた母上は、父上との結婚をお祖父様にねだったのです。ところが、当時、父上には婚約者がいた。そこで、お祖父様は父上を賭博場に通うように人を使って誘導し、殺人の罪を着せ、それを庇うことで言うことを聞くように仕向けたのですよ」
「なっ、それは本当か?!」
クロー伯爵が真っ青な顔をマチルダに向けた。
「わ、私は何も知りませんわ!」
マチルダも顔を真っ青にして、否定した。だが、その瞳はキョロキョロと落ち着きがない。
トマスはそんな母に冷たい目を向けて言い放った。
「母上。あなたは恐ろしい人だ。自分の欲望を叶えるためなら、周りの人間がどれだけ傷つこうと気にも留めない。それどころか、自分よりも弱い立場の者を虐げることに喜びを感じている」
「国王陛下。私達クロー伯爵家は多くの人々を傷つけてきました。私達の罪は明らかです。どうぞ厳罰に処してください。ただ、妹のメーダにはどうかご慈悲を賜りますようお願い申し上げます。妹は今回の件には何も関わりがありません。確かに学園での妹の言動は許されるものではありません。ですが、まだ若く、更生が可能です。何卒寛大なご配慮を…!」
トマスは土下座の姿勢で深く頭を下げた。
ジャンはにっこりと笑ってダムシー子爵を指差した。
「私とジャンがダムシー子爵邸に着いた時、ちょうど子爵が証拠隠滅をはかろうとしていてね。おかげで手間が省けたよ」
ディミトリもにっこりと笑う。
(あの二人の組み合わせは意外でしたが、どうやら似た者同士だったようですね)
(ああ、私も驚いたよ)
ジャンとディミトリの黒い笑顔に、ウィルとアンソニーが目で会話した。
「さて、証拠の品はこれだけではないようだな。次の証人を呼べ」
「はっ。トマス・ド・クロー伯爵令息、ここへ」
国王の言葉に宰相のアランが、トマスの名を呼んだ。
「はい」
クロー伯爵夫妻の後ろに控えていたトマスが前に出る。
「ト、トマス?!」
「トマス、あなた、何を……!」
「お、お兄様……?」
伯爵家の面々に衝撃が走る。
トマスが国王の前に跪き、頭を下げた。
「クロー伯爵令息。立て、発言を許す」
「ありがとうございます」
国王の許可を得て立ち上がったトマスにはいつもの飄々とした雰囲気はなく、真剣な表情で国王に訴える。
「私、トマス・ド・クローは、クロー伯爵夫妻の悪事の証人となります。証拠となる書類は先に国王陛下宛にお送りいたしました」
「これがその書類です」
アンソニーがトマスの隣に立ち、手にしていた書類を掲げて、皆に見せた。
「な、何の書類だというのですか?!我が家にはそんな、証拠になるようなものは何もないはず……」
クロー伯爵は、言ってからハッとしたように口を押さえた。
「語るに落ちる……ですね。これらの書類は、あなた方がコモノー男爵やアーゴク侯爵に罪をなすりつけようとして偽造したものですよ。そこのクロー伯爵令息が証拠品として提出してくださいました」
アンソニーがにこやかに言う。
「そんな……トマス、嘘でしょ……?」
マチルダが呆然とトマスを見つめるが、トマスはその目を真っ直ぐに見つめて言った。
「私は、母上が偽の書類を用意したと言ったのをこの耳ではっきりと聞きました」
「トマス!!」
マチルダが悲鳴のような声を上げる。
「その書類をお調べいただければ偽造した物であるとわかるかと思い、提出いたしました。それだけでは弱いかもしれませんが、私が証人となれば、証拠としての価値は十分かと思います」
トマスは母の声が聞こえていないかのように、淡々と告げた。
「あいわかった。これだけ証拠が揃えば、密輸の件で伯爵夫妻を裁くのには十分だろう。して、次の罪状は?」
「次ですって……?」
マチルダが呆然としたまま呟く。
「同じくトマス・ド・クロー伯爵令息からの申立てです。マチルダ・ド・クロー伯爵夫人を傷害と暴行の罪で告発したいとあります」
宰相の言葉に国王が頷いて言った。
「トマス・ド・クロー伯爵令息、説明を」
「はい。国王陛下。私は幼い頃から、母が使用人や妹にひどい虐待をしているのを知っていました。妹が地下室に監禁されたのも一度や二度ではありません。証拠を残すため、虐待のあった日時、対象者、暴行の内容を記した日記をつけておりました。それも先に証拠品として提出いたしました」
「トマス……あ、あなた、なんて事を!」
「母上。私は大人になってから、幼い頃に世話になった乳母や、あなたが追い出した使用人達を探して回ったんですよ。彼女達からも、あなたの暴行の証言が取れましたよ。中には、あなたから受けた暴行の傷が元で死んでしまった者もいましたが」
トマスの瞳には激しい怒りが浮かんでいた。
「父上。あなたは私が何度母上を止めるようにお願いしても聞く耳を持たなかった。母上に頭が上がらない理由を知りたくて、あなた達の過去も調べました。父上、あなたは若い頃、賭博場に出入りしていたんですね」
「……な!そ、それは……!」
クロー伯爵もトマスの突然の告発に驚いて、言葉が出ない。
「その賭博場で揉め事に巻き込まれたあなたは、誤って一人の男を殺してしまった。それをメッシー伯爵、お祖父様が裏工作で隠蔽したため、あなたはお祖父様に逆らえず、母上と結婚した」
「ですが、その一連の出来事が全てメッシー伯爵の策略だとしたら、父上、あなたはどうしますか?」
「どういうことだ?!」
「夜会で父上を見初めた母上は、父上との結婚をお祖父様にねだったのです。ところが、当時、父上には婚約者がいた。そこで、お祖父様は父上を賭博場に通うように人を使って誘導し、殺人の罪を着せ、それを庇うことで言うことを聞くように仕向けたのですよ」
「なっ、それは本当か?!」
クロー伯爵が真っ青な顔をマチルダに向けた。
「わ、私は何も知りませんわ!」
マチルダも顔を真っ青にして、否定した。だが、その瞳はキョロキョロと落ち着きがない。
トマスはそんな母に冷たい目を向けて言い放った。
「母上。あなたは恐ろしい人だ。自分の欲望を叶えるためなら、周りの人間がどれだけ傷つこうと気にも留めない。それどころか、自分よりも弱い立場の者を虐げることに喜びを感じている」
「国王陛下。私達クロー伯爵家は多くの人々を傷つけてきました。私達の罪は明らかです。どうぞ厳罰に処してください。ただ、妹のメーダにはどうかご慈悲を賜りますようお願い申し上げます。妹は今回の件には何も関わりがありません。確かに学園での妹の言動は許されるものではありません。ですが、まだ若く、更生が可能です。何卒寛大なご配慮を…!」
トマスは土下座の姿勢で深く頭を下げた。
応援ありがとうございます!
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