73 / 139
一網打尽(続)
しおりを挟む
「その結果が、これだよ」
ジャンはにっこりと笑ってダムシー子爵を指差した。
「私とジャンがダムシー子爵邸に着いた時、ちょうど子爵が証拠隠滅をはかろうとしていてね。おかげで手間が省けたよ」
ディミトリもにっこりと笑う。
(あの二人の組み合わせは意外でしたが、どうやら似た者同士だったようですね)
(ああ、私も驚いたよ)
ジャンとディミトリの黒い笑顔に、ウィルとアンソニーが目で会話した。
「さて、証拠の品はこれだけではないようだな。次の証人を呼べ」
「はっ。トマス・ド・クロー伯爵令息、ここへ」
国王の言葉に宰相のアランが、トマスの名を呼んだ。
「はい」
クロー伯爵夫妻の後ろに控えていたトマスが前に出る。
「ト、トマス?!」
「トマス、あなた、何を……!」
「お、お兄様……?」
伯爵家の面々に衝撃が走る。
トマスが国王の前に跪き、頭を下げた。
「クロー伯爵令息。立て、発言を許す」
「ありがとうございます」
国王の許可を得て立ち上がったトマスにはいつもの飄々とした雰囲気はなく、真剣な表情で国王に訴える。
「私、トマス・ド・クローは、クロー伯爵夫妻の悪事の証人となります。証拠となる書類は先に国王陛下宛にお送りいたしました」
「これがその書類です」
アンソニーがトマスの隣に立ち、手にしていた書類を掲げて、皆に見せた。
「な、何の書類だというのですか?!我が家にはそんな、証拠になるようなものは何もないはず……」
クロー伯爵は、言ってからハッとしたように口を押さえた。
「語るに落ちる……ですね。これらの書類は、あなた方がコモノー男爵やアーゴク侯爵に罪をなすりつけようとして偽造したものですよ。そこのクロー伯爵令息が証拠品として提出してくださいました」
アンソニーがにこやかに言う。
「そんな……トマス、嘘でしょ……?」
マチルダが呆然とトマスを見つめるが、トマスはその目を真っ直ぐに見つめて言った。
「私は、母上が偽の書類を用意したと言ったのをこの耳ではっきりと聞きました」
「トマス!!」
マチルダが悲鳴のような声を上げる。
「その書類をお調べいただければ偽造した物であるとわかるかと思い、提出いたしました。それだけでは弱いかもしれませんが、私が証人となれば、証拠としての価値は十分かと思います」
トマスは母の声が聞こえていないかのように、淡々と告げた。
「あいわかった。これだけ証拠が揃えば、密輸の件で伯爵夫妻を裁くのには十分だろう。して、次の罪状は?」
「次ですって……?」
マチルダが呆然としたまま呟く。
「同じくトマス・ド・クロー伯爵令息からの申立てです。マチルダ・ド・クロー伯爵夫人を傷害と暴行の罪で告発したいとあります」
宰相の言葉に国王が頷いて言った。
「トマス・ド・クロー伯爵令息、説明を」
「はい。国王陛下。私は幼い頃から、母が使用人や妹にひどい虐待をしているのを知っていました。妹が地下室に監禁されたのも一度や二度ではありません。証拠を残すため、虐待のあった日時、対象者、暴行の内容を記した日記をつけておりました。それも先に証拠品として提出いたしました」
「トマス……あ、あなた、なんて事を!」
「母上。私は大人になってから、幼い頃に世話になった乳母や、あなたが追い出した使用人達を探して回ったんですよ。彼女達からも、あなたの暴行の証言が取れましたよ。中には、あなたから受けた暴行の傷が元で死んでしまった者もいましたが」
トマスの瞳には激しい怒りが浮かんでいた。
「父上。あなたは私が何度母上を止めるようにお願いしても聞く耳を持たなかった。母上に頭が上がらない理由を知りたくて、あなた達の過去も調べました。父上、あなたは若い頃、賭博場に出入りしていたんですね」
「……な!そ、それは……!」
クロー伯爵もトマスの突然の告発に驚いて、言葉が出ない。
「その賭博場で揉め事に巻き込まれたあなたは、誤って一人の男を殺してしまった。それをメッシー伯爵、お祖父様が裏工作で隠蔽したため、あなたはお祖父様に逆らえず、母上と結婚した」
「ですが、その一連の出来事が全てメッシー伯爵の策略だとしたら、父上、あなたはどうしますか?」
「どういうことだ?!」
「夜会で父上を見初めた母上は、父上との結婚をお祖父様にねだったのです。ところが、当時、父上には婚約者がいた。そこで、お祖父様は父上を賭博場に通うように人を使って誘導し、殺人の罪を着せ、それを庇うことで言うことを聞くように仕向けたのですよ」
「なっ、それは本当か?!」
クロー伯爵が真っ青な顔をマチルダに向けた。
「わ、私は何も知りませんわ!」
マチルダも顔を真っ青にして、否定した。だが、その瞳はキョロキョロと落ち着きがない。
トマスはそんな母に冷たい目を向けて言い放った。
「母上。あなたは恐ろしい人だ。自分の欲望を叶えるためなら、周りの人間がどれだけ傷つこうと気にも留めない。それどころか、自分よりも弱い立場の者を虐げることに喜びを感じている」
「国王陛下。私達クロー伯爵家は多くの人々を傷つけてきました。私達の罪は明らかです。どうぞ厳罰に処してください。ただ、妹のメーダにはどうかご慈悲を賜りますようお願い申し上げます。妹は今回の件には何も関わりがありません。確かに学園での妹の言動は許されるものではありません。ですが、まだ若く、更生が可能です。何卒寛大なご配慮を…!」
トマスは土下座の姿勢で深く頭を下げた。
ジャンはにっこりと笑ってダムシー子爵を指差した。
「私とジャンがダムシー子爵邸に着いた時、ちょうど子爵が証拠隠滅をはかろうとしていてね。おかげで手間が省けたよ」
ディミトリもにっこりと笑う。
(あの二人の組み合わせは意外でしたが、どうやら似た者同士だったようですね)
(ああ、私も驚いたよ)
ジャンとディミトリの黒い笑顔に、ウィルとアンソニーが目で会話した。
「さて、証拠の品はこれだけではないようだな。次の証人を呼べ」
「はっ。トマス・ド・クロー伯爵令息、ここへ」
国王の言葉に宰相のアランが、トマスの名を呼んだ。
「はい」
クロー伯爵夫妻の後ろに控えていたトマスが前に出る。
「ト、トマス?!」
「トマス、あなた、何を……!」
「お、お兄様……?」
伯爵家の面々に衝撃が走る。
トマスが国王の前に跪き、頭を下げた。
「クロー伯爵令息。立て、発言を許す」
「ありがとうございます」
国王の許可を得て立ち上がったトマスにはいつもの飄々とした雰囲気はなく、真剣な表情で国王に訴える。
「私、トマス・ド・クローは、クロー伯爵夫妻の悪事の証人となります。証拠となる書類は先に国王陛下宛にお送りいたしました」
「これがその書類です」
アンソニーがトマスの隣に立ち、手にしていた書類を掲げて、皆に見せた。
「な、何の書類だというのですか?!我が家にはそんな、証拠になるようなものは何もないはず……」
クロー伯爵は、言ってからハッとしたように口を押さえた。
「語るに落ちる……ですね。これらの書類は、あなた方がコモノー男爵やアーゴク侯爵に罪をなすりつけようとして偽造したものですよ。そこのクロー伯爵令息が証拠品として提出してくださいました」
アンソニーがにこやかに言う。
「そんな……トマス、嘘でしょ……?」
マチルダが呆然とトマスを見つめるが、トマスはその目を真っ直ぐに見つめて言った。
「私は、母上が偽の書類を用意したと言ったのをこの耳ではっきりと聞きました」
「トマス!!」
マチルダが悲鳴のような声を上げる。
「その書類をお調べいただければ偽造した物であるとわかるかと思い、提出いたしました。それだけでは弱いかもしれませんが、私が証人となれば、証拠としての価値は十分かと思います」
トマスは母の声が聞こえていないかのように、淡々と告げた。
「あいわかった。これだけ証拠が揃えば、密輸の件で伯爵夫妻を裁くのには十分だろう。して、次の罪状は?」
「次ですって……?」
マチルダが呆然としたまま呟く。
「同じくトマス・ド・クロー伯爵令息からの申立てです。マチルダ・ド・クロー伯爵夫人を傷害と暴行の罪で告発したいとあります」
宰相の言葉に国王が頷いて言った。
「トマス・ド・クロー伯爵令息、説明を」
「はい。国王陛下。私は幼い頃から、母が使用人や妹にひどい虐待をしているのを知っていました。妹が地下室に監禁されたのも一度や二度ではありません。証拠を残すため、虐待のあった日時、対象者、暴行の内容を記した日記をつけておりました。それも先に証拠品として提出いたしました」
「トマス……あ、あなた、なんて事を!」
「母上。私は大人になってから、幼い頃に世話になった乳母や、あなたが追い出した使用人達を探して回ったんですよ。彼女達からも、あなたの暴行の証言が取れましたよ。中には、あなたから受けた暴行の傷が元で死んでしまった者もいましたが」
トマスの瞳には激しい怒りが浮かんでいた。
「父上。あなたは私が何度母上を止めるようにお願いしても聞く耳を持たなかった。母上に頭が上がらない理由を知りたくて、あなた達の過去も調べました。父上、あなたは若い頃、賭博場に出入りしていたんですね」
「……な!そ、それは……!」
クロー伯爵もトマスの突然の告発に驚いて、言葉が出ない。
「その賭博場で揉め事に巻き込まれたあなたは、誤って一人の男を殺してしまった。それをメッシー伯爵、お祖父様が裏工作で隠蔽したため、あなたはお祖父様に逆らえず、母上と結婚した」
「ですが、その一連の出来事が全てメッシー伯爵の策略だとしたら、父上、あなたはどうしますか?」
「どういうことだ?!」
「夜会で父上を見初めた母上は、父上との結婚をお祖父様にねだったのです。ところが、当時、父上には婚約者がいた。そこで、お祖父様は父上を賭博場に通うように人を使って誘導し、殺人の罪を着せ、それを庇うことで言うことを聞くように仕向けたのですよ」
「なっ、それは本当か?!」
クロー伯爵が真っ青な顔をマチルダに向けた。
「わ、私は何も知りませんわ!」
マチルダも顔を真っ青にして、否定した。だが、その瞳はキョロキョロと落ち着きがない。
トマスはそんな母に冷たい目を向けて言い放った。
「母上。あなたは恐ろしい人だ。自分の欲望を叶えるためなら、周りの人間がどれだけ傷つこうと気にも留めない。それどころか、自分よりも弱い立場の者を虐げることに喜びを感じている」
「国王陛下。私達クロー伯爵家は多くの人々を傷つけてきました。私達の罪は明らかです。どうぞ厳罰に処してください。ただ、妹のメーダにはどうかご慈悲を賜りますようお願い申し上げます。妹は今回の件には何も関わりがありません。確かに学園での妹の言動は許されるものではありません。ですが、まだ若く、更生が可能です。何卒寛大なご配慮を…!」
トマスは土下座の姿勢で深く頭を下げた。
0
あなたにおすすめの小説
「転生したら推しの悪役宰相と婚約してました!?」〜推しが今日も溺愛してきます〜 (旧題:転生したら報われない悪役夫を溺愛することになった件)
透子(とおるこ)
恋愛
読んでいた小説の中で一番好きだった“悪役宰相グラヴィス”。
有能で冷たく見えるけど、本当は一途で優しい――そんな彼が、報われずに処刑された。
「今度こそ、彼を幸せにしてあげたい」
そう願った瞬間、気づけば私は物語の姫ジェニエットに転生していて――
しかも、彼との“政略結婚”が目前!?
婚約から始まる、再構築系・年の差溺愛ラブ。
“報われない推し”が、今度こそ幸せになるお話。
悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない
陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」
デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。
そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。
いつの間にかパトロンが大量発生していた。
ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?
【完結】転生白豚令嬢☆前世を思い出したので、ブラコンではいられません!
白雨 音
恋愛
エリザ=デュランド伯爵令嬢は、学院入学時に転倒し、頭を打った事で前世を思い出し、
《ここ》が嘗て好きだった小説の世界と似ている事に気付いた。
しかも自分は、義兄への恋を拗らせ、ヒロインを貶める為に悪役令嬢に加担した挙句、
義兄と無理心中バッドエンドを迎えるモブ令嬢だった!
バッドエンドを回避する為、義兄への恋心は捨て去る事にし、
前世の推しである悪役令嬢の弟エミリアンに狙いを定めるも、義兄は気に入らない様で…??
異世界転生:恋愛 ※魔法無し
《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、ありがとうございます☆
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
悪役令嬢に転生するも魔法に夢中でいたら王子に溺愛されました
黒木 楓
恋愛
旧題:悪役令嬢に転生するも魔法を使えることの方が嬉しかったから自由に楽しんでいると、王子に溺愛されました
乙女ゲームの悪役令嬢リリアンに転生していた私は、転生もそうだけどゲームが始まる数年前で子供の姿となっていることに驚いていた。
これから頑張れば悪役令嬢と呼ばれなくなるのかもしれないけど、それよりもイメージすることで体内に宿る魔力を消費して様々なことができる魔法が使えることの方が嬉しい。
もうゲーム通りになるのなら仕方がないと考えた私は、レックス王子から婚約破棄を受けて没落するまで自由に楽しく生きようとしていた。
魔法ばかり使っていると魔力を使い過ぎて何度か倒れてしまい、そのたびにレックス王子が心配して数年後、ようやくヒロインのカレンが登場する。
私は公爵令嬢も今年までかと考えていたのに、レックス殿下はカレンに興味がなさそうで、常に私に構う日々が続いていた。
《完》義弟と継母をいじめ倒したら溺愛ルートに入りました。何故に?
桐生桜月姫
恋愛
公爵令嬢たるクラウディア・ローズバードは自分の前に現れた天敵たる天才な義弟と継母を追い出すために、たくさんのクラウディアの思う最高のいじめを仕掛ける。
だが、義弟は地味にずれているクラウディアの意地悪を糧にしてどんどん賢くなり、継母は陰ながら?クラウディアをものすっごく微笑ましく眺めて溺愛してしまう。
「もう!どうしてなのよ!!」
クラウディアが気がつく頃には外堀が全て埋め尽くされ、大変なことに!?
天然混じりの大人びている?少女と、冷たい天才義弟、そして変わり者な継母の家族の行方はいかに!?
【完結】引きこもりが異世界でお飾りの妻になったら「愛する事はない」と言った夫が溺愛してきて鬱陶しい。
千紫万紅
恋愛
男爵令嬢アイリスは15歳の若さで冷徹公爵と噂される男のお飾りの妻になり公爵家の領地に軟禁同然の生活を強いられる事になった。
だがその3年後、冷徹公爵ラファエルに突然王都に呼び出されたアイリスは「女性として愛するつもりは無いと」言っていた冷徹公爵に、「君とはこれから愛し合う夫婦になりたいと」宣言されて。
いやでも、貴方……美人な平民の恋人いませんでしたっけ……?
と、お飾りの妻生活を謳歌していた 引きこもり はとても嫌そうな顔をした。
悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。
槙村まき
恋愛
スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。
それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。
挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。
そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……!
第二章以降は、11時と23時に更新予定です。
他サイトにも掲載しています。
よろしくお願いします。
25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる