【完結】転生ヒロインと転生(?)悪役令嬢は逆ハーエンドを回避したい! 〜R18禁エンドはごめんです!〜

koromachi

文字の大きさ
74 / 139

一網打尽(続々)

しおりを挟む
 床に頭を擦り付けんばかりに国王に向かって頭を下げるトマスの後ろから、マチルダが物凄い顔で睨んでいた。

「トマス!トマス!この裏切り者!あんなに可愛がってやったのに!実の母を売るなんて!」

 今にもトマスに掴みかかりそうなところを騎士達が力尽くで抑えている。
 だが、その声が聞こえていないかのように、トマスは頭を下げたまま微動だにしなかった。

 そんな対照的な親子を一瞥すると、国王は背後に向かって声をかけた。

「セベール、ここへ」

「はい」

 その言葉に、陰に控えていたセベールが前に進み出た。

「夫妻を地下牢に連れて行き、別々に取り調べよ。裁判に出られる程度には手加減するように」

「御意」

 セベールの顔を見た途端、マチルダはますます狂ったように暴れ出した。

「嫌!私は何も悪くない!何も悪いことなんてしていないわ!どうして私がこんな目に合わなければいけないのよ!」

 あまりの暴れように騎士達が困惑していると、セベールの後ろから特務部隊の女性隊員が現れ、マチルダの左右に立った。その一人が何事かを囁くと、マチルダは途端に大人しくなり、がっくりとうなだれた。

 クロー伯爵夫妻が地下牢へと連行されると、国王は頭を下げ続けるトマスに向かって言った。

「トマス・ド・クロー伯爵令息。その方とクロー伯爵令嬢については、ひとまず貴族牢へ収監とする」

 国王は側に控えていた騎士団長に頷いた。

「クロー伯爵令息、立ちなさい」

 騎士団長がトマスの腕を取る。

 トマスは大人しく立ち上がると、振り返って妹のメーダを見た。メーダは真っ青な顔のまま、ボロボロと涙を流しながら固まっていた。
 
「メーダ……守ってあげられなくてごめん。今更俺に謝られてもって思うだろうけど」

「お兄様……私……」

 二人はそれ以上は何も言わず、無抵抗で貴族牢へと連行された。




「さて。ようやく一つ片付いたな」

 トマスとメーダを見送って、国王はふうっと息を吐いた。

「あとは、ここにお集まりの皆さんの処分ですね」

 目の前で繰り広げられた断罪劇に、集められた貴族達は声も出ないようだった。しかし、ウィルの「処分」という言葉を聞いて、口々に喚き始めた。

「し、処分とは、どういうことですかな!」

「先ほどのクロー伯爵家と我が家は何の関係もありません!」

「違法薬物なんて知りませんわ!」

 そんな貴族達の前に、アンソニーが進み出ると、一喝した。

「静まりなさい!」

 いつにないアンソニーの鬼気迫る様子にうるさかった貴族達が一気に静かになった。

「あなた方が、メーダ嬢と一緒になって平民の少女を陥れようとしていたことはわかっています」

「あ、あれは!」

 令嬢の一人が声を上げるが、アンソニーにひと睨みされて、青くなって口をつぐんだ。

「そして、この王宮内で静養中のその少女達に害なそうとしていたのが、全てあなた方の差し金であったこともわかっています。実行犯は全員捕らえてあり、物証もあります。言い逃れはできませんよ」

 ウィルがアンソニーの隣に立ち、真っ青になっている貴族達に冷たい視線を向けた。

「君達は、王家の推進する改革案にことごとく反対してきたようだが、その挙げ句に何の罪もない少女を傷つけようとするなんてね。貴族の風上にもおけない」

「殿下!我々はこの国のことを思って!」

「そうです!」 

「貴族と平民が同じ扱いをされるなど許されません!」

 数名の貴族が、この期に及んで苦しい言い訳をする。

「黙れ。見苦しい」

 その声を黙らせると、国王は周囲を取り囲んでいる騎士団に命じた。

「ここにいる者達を全員罪人用の牢へ連れて行け」

「……なっ!」

「どうして!」

「嫌よ!牢屋なんて嫌!」

 数十名の貴族達がギャアギャアとうるさく喚きながら、騎士達に連行されていく。



 ようやく謁見の間が、静かになったところで、ディミトリに拘束されていたダムシー子爵を特務部隊に預け、王族達はふうっと息を吐いた。

「これでひとまず今回の件はひと段落着きましたね」

 宰相が国王に微笑んだ。

「そうだな。まあ、これから裁判続きにはなるがな」

 国王も疲れた笑顔を見せた。

「その裁判が終われば、次はオストロー公爵達の調べで浮かんできた不満分子達の調査ですね」

 ウィルがオストロー公爵とドットールー侯爵を見ながら言った。

「そうですね。今回の件には関わっていなかったものの、怪しい動きをしている者達が、我々の再調査で浮上してきましたからね」

 ドットールー侯爵が頷く。

「皆の者。ご苦労だった。ひとまず今日のところはこれで幕引きとしよう。昼食を用意させてあるから、食堂に移動してくれ」

 国王の言葉に全員が一礼し、その場を後にした。




「ウィル様、先に行っていてください。私もすぐに追いかけます」

「ん?わかった」

 アンソニーはウィルに小声で囁くと、食堂とは反対方向に足を向けた。その姿を見てウィルはふっと笑った。

「クラリス嬢か……」




 アンソニーは足早にクラリスのいる客室に向かった。どうしてもクラリスの無事な姿を確認しておきたかった。


 コンコン


 扉の前で息を整え、声をかける。

「私です。アンソニーです」

 ほどなくして、扉が開く。

「クラリス嬢?!あなたお一人ですか?」

 恐る恐るドアを開けたクラリスに、アンソニーは慌てた。

「あ、いえ、ミミさんは今昼食を取りに行ってくださっていて、すぐ戻られると思うのですが」

「フレデリック殿は?」

「少し疲れが出ているようで、隣室で休んでいます」

 アンソニーは室内に素早く視線を走らせ、影が護衛していることを確認すると、クラリスに気づかれないように小さく息を吐いた。

「そうですか……では、あなたお一人しかいない部屋に入るわけにはいきませんね。調子はどうですか?何か困ったことはありませんか?」

「い、いえ、私は大丈夫です!私よりも……アンソ、トニー様の方こそ大丈夫ですか?何だかとてもお疲れのようですが」

 クラリスは心配そうに、長身のアンソニーを見上げていた。

「!(だ、だから、上目遣いは……!)」

 アンソニーは慌てて手で口を押さえると赤い顔を隠そうと横を向いた。

「お仕事がお忙しいんですか?私が何かお手伝いできることがあればいいんですけど……お世話になるばかりで、何もできなくて申し訳ないです」

 クラリスがしゅんと下を向いた。

 そのあまりの可愛らしさに、気づけばアンソニーはクラリスの手を引き、自身の腕の中にその小さな体を閉じ込めていた。

「ア、アンソニー様?!」

「すみません。少しだけこのままで」

「$^#*€+!!」

 数秒の後、一瞬だけきつく抱き締め直してから、アンソニーは名残惜しそうにクラリスを離した。

「ありがとうございます。おかげで元気になりました」

 甘い笑顔を見せるアンソニーはすっかり元気になっていたが、クラリスの方は突然の抱擁に大パニックだった。

「これからは私が疲れた時にはこうして癒してくださいね」

「な、な、な……」

「あ、先ほど私の名前を間違えていましたよ。これはその罰です」

 そう言うと、アンソニーは素早くクラリスの額にキスを落とした。

「€*%#$£+~~~!!!!」

 クラリスはもう沸騰寸前だった。そんなクラリスを見て満足そうに笑うアンソニーの後ろから、事務的な声が聞こえた。 

「アンソニー様。どうされましたか?」

 昼食を運んできたミミに渋々場所を譲り、アンソニーはクラリスに手を振って食堂へと急いだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「転生したら推しの悪役宰相と婚約してました!?」〜推しが今日も溺愛してきます〜 (旧題:転生したら報われない悪役夫を溺愛することになった件)

透子(とおるこ)
恋愛
読んでいた小説の中で一番好きだった“悪役宰相グラヴィス”。 有能で冷たく見えるけど、本当は一途で優しい――そんな彼が、報われずに処刑された。 「今度こそ、彼を幸せにしてあげたい」 そう願った瞬間、気づけば私は物語の姫ジェニエットに転生していて―― しかも、彼との“政略結婚”が目前!? 婚約から始まる、再構築系・年の差溺愛ラブ。 “報われない推し”が、今度こそ幸せになるお話。

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない

陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」 デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。 そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。 いつの間にかパトロンが大量発生していた。 ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?

【完結】転生白豚令嬢☆前世を思い出したので、ブラコンではいられません!

白雨 音
恋愛
エリザ=デュランド伯爵令嬢は、学院入学時に転倒し、頭を打った事で前世を思い出し、 《ここ》が嘗て好きだった小説の世界と似ている事に気付いた。 しかも自分は、義兄への恋を拗らせ、ヒロインを貶める為に悪役令嬢に加担した挙句、 義兄と無理心中バッドエンドを迎えるモブ令嬢だった! バッドエンドを回避する為、義兄への恋心は捨て去る事にし、 前世の推しである悪役令嬢の弟エミリアンに狙いを定めるも、義兄は気に入らない様で…??  異世界転生:恋愛 ※魔法無し  《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、ありがとうございます☆

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

悪役令嬢に転生するも魔法に夢中でいたら王子に溺愛されました

黒木 楓
恋愛
旧題:悪役令嬢に転生するも魔法を使えることの方が嬉しかったから自由に楽しんでいると、王子に溺愛されました  乙女ゲームの悪役令嬢リリアンに転生していた私は、転生もそうだけどゲームが始まる数年前で子供の姿となっていることに驚いていた。  これから頑張れば悪役令嬢と呼ばれなくなるのかもしれないけど、それよりもイメージすることで体内に宿る魔力を消費して様々なことができる魔法が使えることの方が嬉しい。  もうゲーム通りになるのなら仕方がないと考えた私は、レックス王子から婚約破棄を受けて没落するまで自由に楽しく生きようとしていた。  魔法ばかり使っていると魔力を使い過ぎて何度か倒れてしまい、そのたびにレックス王子が心配して数年後、ようやくヒロインのカレンが登場する。  私は公爵令嬢も今年までかと考えていたのに、レックス殿下はカレンに興味がなさそうで、常に私に構う日々が続いていた。

《完》義弟と継母をいじめ倒したら溺愛ルートに入りました。何故に?

桐生桜月姫
恋愛
公爵令嬢たるクラウディア・ローズバードは自分の前に現れた天敵たる天才な義弟と継母を追い出すために、たくさんのクラウディアの思う最高のいじめを仕掛ける。 だが、義弟は地味にずれているクラウディアの意地悪を糧にしてどんどん賢くなり、継母は陰ながら?クラウディアをものすっごく微笑ましく眺めて溺愛してしまう。 「もう!どうしてなのよ!!」 クラウディアが気がつく頃には外堀が全て埋め尽くされ、大変なことに!? 天然混じりの大人びている?少女と、冷たい天才義弟、そして変わり者な継母の家族の行方はいかに!?

転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎

水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。 もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。 振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!! え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!? でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!? と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう! 前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい! だからこっちに熱い眼差しを送らないで! 答えられないんです! これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。 または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。 小説家になろうでも投稿してます。 こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。

【完結】引きこもりが異世界でお飾りの妻になったら「愛する事はない」と言った夫が溺愛してきて鬱陶しい。

千紫万紅
恋愛
男爵令嬢アイリスは15歳の若さで冷徹公爵と噂される男のお飾りの妻になり公爵家の領地に軟禁同然の生活を強いられる事になった。 だがその3年後、冷徹公爵ラファエルに突然王都に呼び出されたアイリスは「女性として愛するつもりは無いと」言っていた冷徹公爵に、「君とはこれから愛し合う夫婦になりたいと」宣言されて。 いやでも、貴方……美人な平民の恋人いませんでしたっけ……? と、お飾りの妻生活を謳歌していた 引きこもり はとても嫌そうな顔をした。

処理中です...