【完結】転生ヒロインと転生(?)悪役令嬢は逆ハーエンドを回避したい! 〜R18禁エンドはごめんです!〜

koromachi

文字の大きさ
81 / 139

断れない!

しおりを挟む
「はあ、どうしたらいいの……」

 クラリスはベッドに入ったが、全く眠れそうになかった。

「まさか、アンソニー様とポールお兄ちゃんの二人からパーティーのパートナーにって言われるなんて」




 キッチンで、返事ができずに固まっているクラリスに、ポールはフッと笑って、握りしめていた手を離すと明るく言った。

「悪い、悪い。いきなりこんな風に言われたら困ってしまうよな。とりあえずさっさと食べちまおうぜ。大丈夫、返事は急がないからさ」



「……ポールお兄ちゃんには返事は急がないって言われたけど。アンソニー様は明日にでもっておっしゃっていたし、明日には結論を出さなきゃだよね……」


 アンソニーからあんな風に言ってもらえて正直嬉しかった。

 でも、やっぱりアンソニーの手を取ることはできない。

 今は学園にいるから学生同士ということで気軽な付き合いができているが、一歩学園を出れば、アンソニーの住む世界とクラリスの住む世界は全く違う。

 たとえ道ですれ違ったとしても、こちらからは声もかけられないような、雲の上の人なのだ。

「アンソニー様に憧れる気持ちはあるけど、この気持ちが憧れで済んでいるうちに、線を引かなきゃ……」

 そうしないと、ポールが言ったように、幸せになる道は見えない。


「それにしても、あんなポールお兄ちゃん初めて見た……知らない男の人みたいだったな……」

 今日のポールは、いつもの陽気なポールではなかった。クラリスのことを真剣に考えてくれているのが痛いほど伝わってきた。

「ふふ。ポールお兄ちゃん、パーティーなんて興味ないくせに」

 クラリスを守るためだけに、一緒に出席してくれるというポールの気持ちが嬉しかった。

 王国に戻ってきてからずっと、本当にずっと、ポールはクラリスの側にいてくれている。毎日一緒に登校し、帰りもほとんど一緒だ。食堂の手伝いもしてくれて、夕食も毎日一緒に取る。

 クラリス達家族にとって、ポールのいない生活は既に考えられなくなっていた。

「うん、やっぱりパーティーの出席はお断りしよう」

 そうすれば、誰をパートナーに、なんて悩まなくていいし、ポールに無理をさせる必要もなくなる。

「それに、一回しか着ないドレスにお金をかけるなんてもったいないもんね」

 断ると決めてしまうと、気持ちが楽になる。

 クラリスはようやく瞳を閉じて、眠りについた。


 =========================


「アリス様、申し訳ございません。パーティーには参加できません」

「ウィル、悪い、俺も欠席だ」

 昼休み、いつものようにいつものメンバーで昼食を取りながら、クラリスとポールは頭を下げた。

「アン……ト、トニー様すみません。せっかくお声がけいただきましたが、やっぱり私はパーティーの参加は辞退させていただきますので、パートナーの件も……」

 本当に申し訳なさそうに頭を下げるクラリスとポールに、ウィルが優しく微笑みながら聞いた。

「理由を聞いてもいいかな?」

「やっぱり俺達平民には王宮のパーティーなんて荷が重すぎる」

「はい。私はマナーなども何も知りませんし、アリス様やウィル様のお顔に泥を塗ってしまいます」

「確かに君達は貴族ではないが、私とアリスの大切な友人だよ。それに、ポール。君は先日騎士爵を賜ったじゃないか」



 立て籠もり事件の解決に大きく貢献したとして、ポールとエラリーの二人は騎士爵を叙爵していた。

 ポールは必要ないと固辞したが、エラリーが、ポールが辞退するなら自分も辞退すると言ってきかなかったため、結局二人揃っての叙爵となったのだった。



「騎士爵もらったところで、俺が平民なのは変わらないよ。今から衣装を準備したりして金がかかるのもごめんだしな」

 ウィルの言葉に、ポールはわざときつく返す。


「だけどさ、アリス、もうクラリス嬢の衣装も準備できてるって言ってなかった?」

 ジャンが口を挟んだ。

「そうなんですの……クラリスさんのドレスも既に仕立て済みで、後はフィッティングだけですわ……」

 クラリスに断られたショックが隠せないまま、アリスが答えた。

「ちなみに、ポールの衣装も用意できてるよ」

「はあっ?!」

 ウィルの言葉にポールが声を上げる。

「私とアリスで相談して、君達の衣装はこちらで用意させてもらったんだよ。君達のために作らせたものだから、二人が出席しないとなると、無駄になってしまうな」

 ウィルがわざとらしくため息をつく。

「で、ですが、私にはやっぱり無理で……」

「大丈夫だよー。僕達と一緒にいれば変な輩は寄ってこないよ。エラリーもいるしさ。ね」

 ジャンの言葉に、それまで蚊帳の外だったエラリーが勢い込んで言った。

「そうだ!クラリス嬢は俺が守るから安心してくれ!」

「こほん。クラリス嬢のエスコートは私ですよ」

「ダメだ、ダメだ!クラリスがパーティーに行くならパートナーは俺だ!」

 エラリーの言葉にアンソニーとポールが参戦してきた。


「クラリス嬢のパートナーについては後でゆっくり相談するとして。ひとまず二人ともパーティーには出席してもらえるということでいいかな?」  

 ウィルがとてもいい顔で笑った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「転生したら推しの悪役宰相と婚約してました!?」〜推しが今日も溺愛してきます〜 (旧題:転生したら報われない悪役夫を溺愛することになった件)

透子(とおるこ)
恋愛
読んでいた小説の中で一番好きだった“悪役宰相グラヴィス”。 有能で冷たく見えるけど、本当は一途で優しい――そんな彼が、報われずに処刑された。 「今度こそ、彼を幸せにしてあげたい」 そう願った瞬間、気づけば私は物語の姫ジェニエットに転生していて―― しかも、彼との“政略結婚”が目前!? 婚約から始まる、再構築系・年の差溺愛ラブ。 “報われない推し”が、今度こそ幸せになるお話。

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない

陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」 デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。 そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。 いつの間にかパトロンが大量発生していた。 ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?

【完結】転生白豚令嬢☆前世を思い出したので、ブラコンではいられません!

白雨 音
恋愛
エリザ=デュランド伯爵令嬢は、学院入学時に転倒し、頭を打った事で前世を思い出し、 《ここ》が嘗て好きだった小説の世界と似ている事に気付いた。 しかも自分は、義兄への恋を拗らせ、ヒロインを貶める為に悪役令嬢に加担した挙句、 義兄と無理心中バッドエンドを迎えるモブ令嬢だった! バッドエンドを回避する為、義兄への恋心は捨て去る事にし、 前世の推しである悪役令嬢の弟エミリアンに狙いを定めるも、義兄は気に入らない様で…??  異世界転生:恋愛 ※魔法無し  《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、ありがとうございます☆

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

悪役令嬢に転生するも魔法に夢中でいたら王子に溺愛されました

黒木 楓
恋愛
旧題:悪役令嬢に転生するも魔法を使えることの方が嬉しかったから自由に楽しんでいると、王子に溺愛されました  乙女ゲームの悪役令嬢リリアンに転生していた私は、転生もそうだけどゲームが始まる数年前で子供の姿となっていることに驚いていた。  これから頑張れば悪役令嬢と呼ばれなくなるのかもしれないけど、それよりもイメージすることで体内に宿る魔力を消費して様々なことができる魔法が使えることの方が嬉しい。  もうゲーム通りになるのなら仕方がないと考えた私は、レックス王子から婚約破棄を受けて没落するまで自由に楽しく生きようとしていた。  魔法ばかり使っていると魔力を使い過ぎて何度か倒れてしまい、そのたびにレックス王子が心配して数年後、ようやくヒロインのカレンが登場する。  私は公爵令嬢も今年までかと考えていたのに、レックス殿下はカレンに興味がなさそうで、常に私に構う日々が続いていた。

《完》義弟と継母をいじめ倒したら溺愛ルートに入りました。何故に?

桐生桜月姫
恋愛
公爵令嬢たるクラウディア・ローズバードは自分の前に現れた天敵たる天才な義弟と継母を追い出すために、たくさんのクラウディアの思う最高のいじめを仕掛ける。 だが、義弟は地味にずれているクラウディアの意地悪を糧にしてどんどん賢くなり、継母は陰ながら?クラウディアをものすっごく微笑ましく眺めて溺愛してしまう。 「もう!どうしてなのよ!!」 クラウディアが気がつく頃には外堀が全て埋め尽くされ、大変なことに!? 天然混じりの大人びている?少女と、冷たい天才義弟、そして変わり者な継母の家族の行方はいかに!?

転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎

水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。 もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。 振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!! え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!? でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!? と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう! 前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい! だからこっちに熱い眼差しを送らないで! 答えられないんです! これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。 または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。 小説家になろうでも投稿してます。 こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。

【完結】引きこもりが異世界でお飾りの妻になったら「愛する事はない」と言った夫が溺愛してきて鬱陶しい。

千紫万紅
恋愛
男爵令嬢アイリスは15歳の若さで冷徹公爵と噂される男のお飾りの妻になり公爵家の領地に軟禁同然の生活を強いられる事になった。 だがその3年後、冷徹公爵ラファエルに突然王都に呼び出されたアイリスは「女性として愛するつもりは無いと」言っていた冷徹公爵に、「君とはこれから愛し合う夫婦になりたいと」宣言されて。 いやでも、貴方……美人な平民の恋人いませんでしたっけ……? と、お飾りの妻生活を謳歌していた 引きこもり はとても嫌そうな顔をした。

処理中です...