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王の采配

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「ようやくクロー伯爵夫妻の処分が下されたか」

 国王と宰相、そして特務部隊副隊長のセベールの三人が王の執務室で、顔を合わせていた。

「はい。元クロー伯爵は元メッシー伯爵夫妻と同じく炭鉱送り、元伯爵夫人はセベールの要望が通り、特務部隊預かりと決まりました」

「あれだけのことをしたのですから、簡単に殺してしまってはもったいないですからね」

 宰相の言葉にセベールは優雅に微笑む。



「元コモノー男爵令息はまだ生きているのか?」

「いえ、残念ながら、加減を知らない新人が殺してしまいました」

「まあ、あやつにとっては救いであっただろうがな」

 四肢を失い、視力と声を失ってなお、アグリーは地下牢で生かされていた。
 だが、新人研修の際に、力加減を誤った隊員のおかげでようやく死ぬことができたのだった。

「して、元クロー伯爵夫人をどうするつもりだ?」

「彼女には、彼女の姉と同様に、自身の罪をその身に刻んでいただこうかと」


 メッシー伯爵夫人であるマリーネの尋問を担当したのもセベールだった。全く反省する様子もなく、尋問にも知らぬ存ぜずで言い逃れようとするマリーネに、セベールはかつて彼女が使用人にそうしたようにその顔を火箸で焼いた。


「元クロー伯爵夫人も、使用人にはかなり酷く当たっていたようですからね。彼女がしたことをそのままお返ししようかと思っていますよ。それに新しく試してみたい精神的な拷問もありますし」

 セベールが楽しみで堪らないという顔で答える。

「まあ、それはお前の裁量に委ねよう。それより、今回、まだ裁判にかけられるほどの証拠が集まっていなかった者達が数名残っているな?」

 いささか理解に苦しむという顔でセベールの話を聞いていた国王は、宰相のアランに話を振った。

「はい。オストロー公爵達の再調査で名前が上がった者のうち、二、三名ほどは裁判にもかけられていません」

「その者達は今度のウィリアム達の婚約披露パーティーには出席するのか?」

「その予定です」

「では、そこで何らかの動きがあるやもしれんな」

「可能性はありますね」

 国王の問いに宰相が答えていく。


「陛下、今回のパーティーには平民が二人参加すると聞きましたが」

 二人の会話にセベールが割って入る。

「ああ。正確には、一人は先日騎士爵を授爵した準貴族だが」

「では、その二人に囮になってもらうのはどうでしょう」

 セベールの言葉に国王と宰相の二人は眉を顰める。

「囮か……」

「囮ですか……」


 クラリスとフレデリックが王宮に滞在していた約一ヶ月、二人を狙う者達が毎日のように現れた。その実行犯を捕らえることにより、王家に不満を持つ反乱分子をまとめて始末することができた。

 結果的に二人を囮として使うことになったのだが、そのことに対してウィルとアンソニーの二人から猛抗議を受けることになった。


 国王と宰相はその時のことを思い出し、あまり気乗りしない返事をしたのだが、セベールはそんな二人の様子に頓着せず、話し続ける。

「もちろん、絶対に傷つけられることのないよう、我が特務部隊をあげて警備を万全にいたします。それに騎士団と公爵家の影が加われば、何も心配はいらないかと存じますが」

「だがしかし、囮にされたと二人が知ればいい気持ちはしないだろうし、第一、ウィリアムやアリス嬢が許すまい」

「そうです。めでたいお祝いの席です。今回は何事もなく平和に終わるのが一番かと」  

 結局、国王と宰相の二人が首を縦にふることはなかった。 

「いずれにしても、パーティーの警備は厳重に頼む。不埒な輩が入り込まぬよう警戒してくれ」

「御意」

 国王の言葉にセベールは軽く頷くと、優雅に一礼して王の部屋を辞した。




「トマス、いるか」

「はい。こちらに」

 国王の問いかけに、どこからともなく姿を現したのは、元クロー伯爵家嫡男のトマスだった。
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