95 / 139
もつれた糸の解き方
しおりを挟む
騒動から数日後。
「何とかしないと……」
ジャン達から話を聞いたエラリーは、居ても立っても居られず、王宮をこっそり抜け出そうとしていた。
「うっ……」
傷がまだ治り切っているわけはなく、身体を動かすと目眩がする。
「馬車より馬の方が早いか……」
目立たないように厩舎に向かったが、あいにくそこには先客がいた。咄嗟に身を隠せる場所もなく、呆気なく見つかる。
「あれ?君は確か……キンバリー伯爵のご令息の……」
「エラリーと申します。ディミトリ公世子にご挨拶申し上げます」
ブートレット公国のディミトリがそこにいた。
「ああ、エラリーだね。そんなに畏まらなくていいよ。もう動いても大丈夫なのかい?」
ディミトリが人懐こい笑顔を見せる。
「あ、いえ、少し気分転換に散歩を……」
嘘のつけないエラリーは、途端にしどろもどろになる。
「ふふ。どこか行きたい所でもあるのかな?でも、その怪我で動き回るのはあまりおすすめできないな。特に乗馬は揺れるからね、頭の傷に響くよ」
「っ!」
ディミトリにはエラリーの考えはお見通しのようだった。
「私は少し街へ行こうかと思っていたんだが……まずは君の話を聞こうか。部屋まで送るよ」
ディミトリに促され、エラリーは渋々厩舎を後にした。
==========================
「ここか」
夕食にはまだ少し早い明るい時間に、食堂の前に立つ長身の男がいた。
平民と変わらない身なりだが、どことなく品がある。
コンコン。
軽くノックすると、男は扉を開けた。
「すみません、まだ準備中なんです」
クラリスの母のエリーが応対する。
「ああ、忙しい時間にすまないね。クラリスさんとポール君はいるかな?」
「え?あの、あなたはどちら様で……?」
エリーが警戒する。
そこに、早目の夕食を終えたクラリスとポールが奥のキッチンから出てきた。
「ふぅー、食った、食った。おじさん、おばさん、今日も美味かったぜ、ご馳走さん」
「もう、ポールお兄ちゃんたら。お行儀が悪いわよ」
賑やかに出てきた二人は、エリーが対峙している男に気付かない。
「クラリス、ポール、あなた達にお客様だけど……」
エリーに言われて扉の前に立つ男に気付き、ポールが前に出る。
「おばさん、下がってて」
男は帽子を深くかぶっており、顔は見えないが、長身のポールと目線がほとんど変わらない。
「何か用ですか?」
ポールがぶっきらぼうに尋ねる。
「突然すまないね。私を覚えているかな?」
男が帽子を外すと、美しいプラチナブロンドが溢れ出た。
「!あんたは……!」
「……ディミトリ様……?!」
「覚えていてくれて嬉しいよ」
ディミトリが屈託のない笑顔を見せるが、ポールは顔を強張らせて、ディミトリを扉の向こうに押しやろうとする。
「ここはあなたの様な高貴な方が来るような所じゃありません。お引き取りください」
「ポール殿、クラリス嬢、少しだけ話をさせてくれないか」
「お話しすることは何もありません」
ディミトリが真剣な顔で頼むも、ポールはがんとして譲らない。
「ポール殿、頼む。このままでは私は国に帰れない。今回の騒動は我が愚昧の責でもあるんだ」
「……」
「ポール、ひとまず奥に。そこにお前達みたいなデカいのが突っ立っていたら、客が入ってこられない」
厨房から様子を伺っていたクラリスの父が声をかけた。
「……わかったよ」
「ありがとう、ご主人」
ポールは渋々ディミトリを中に入れる。
「ポールお兄ちゃん……」
クラリスがポールの側に来て、その服の裾をギュッと掴んだ。
「クラリス、大丈夫だ。俺がいる」
ポールが優しくクラリスの肩を抱く。
「ポール、クラリス、キッチンを使え」
オーリーの言葉に、ポールはクラリスを庇いながら、奥のキッチンへとディミトリを促した。
「あなた……いいのかしら……」
エリーが不安そうに三人を見送る。
「ポールもクラリスも、このままじゃ前に進めないだろう。あの男が誰かは知らんが、パーティーの騒動についての話なら、二人はしっかり聞くべきだ」
王宮のパーティーで何があったかは、ポールとクラリスから聞いていた。オーリーとエリーは、娘の身に起こったことに怒り、悲しんだが、友人を失って失意の底にいるクラリスとポールを見ているのも辛かった。
「あいつらはまだ若い。いくらでもやり直せる」
オーリーは突然現れた、物腰の柔らかい、誠実そうな男を信じることにした。
「何とかしないと……」
ジャン達から話を聞いたエラリーは、居ても立っても居られず、王宮をこっそり抜け出そうとしていた。
「うっ……」
傷がまだ治り切っているわけはなく、身体を動かすと目眩がする。
「馬車より馬の方が早いか……」
目立たないように厩舎に向かったが、あいにくそこには先客がいた。咄嗟に身を隠せる場所もなく、呆気なく見つかる。
「あれ?君は確か……キンバリー伯爵のご令息の……」
「エラリーと申します。ディミトリ公世子にご挨拶申し上げます」
ブートレット公国のディミトリがそこにいた。
「ああ、エラリーだね。そんなに畏まらなくていいよ。もう動いても大丈夫なのかい?」
ディミトリが人懐こい笑顔を見せる。
「あ、いえ、少し気分転換に散歩を……」
嘘のつけないエラリーは、途端にしどろもどろになる。
「ふふ。どこか行きたい所でもあるのかな?でも、その怪我で動き回るのはあまりおすすめできないな。特に乗馬は揺れるからね、頭の傷に響くよ」
「っ!」
ディミトリにはエラリーの考えはお見通しのようだった。
「私は少し街へ行こうかと思っていたんだが……まずは君の話を聞こうか。部屋まで送るよ」
ディミトリに促され、エラリーは渋々厩舎を後にした。
==========================
「ここか」
夕食にはまだ少し早い明るい時間に、食堂の前に立つ長身の男がいた。
平民と変わらない身なりだが、どことなく品がある。
コンコン。
軽くノックすると、男は扉を開けた。
「すみません、まだ準備中なんです」
クラリスの母のエリーが応対する。
「ああ、忙しい時間にすまないね。クラリスさんとポール君はいるかな?」
「え?あの、あなたはどちら様で……?」
エリーが警戒する。
そこに、早目の夕食を終えたクラリスとポールが奥のキッチンから出てきた。
「ふぅー、食った、食った。おじさん、おばさん、今日も美味かったぜ、ご馳走さん」
「もう、ポールお兄ちゃんたら。お行儀が悪いわよ」
賑やかに出てきた二人は、エリーが対峙している男に気付かない。
「クラリス、ポール、あなた達にお客様だけど……」
エリーに言われて扉の前に立つ男に気付き、ポールが前に出る。
「おばさん、下がってて」
男は帽子を深くかぶっており、顔は見えないが、長身のポールと目線がほとんど変わらない。
「何か用ですか?」
ポールがぶっきらぼうに尋ねる。
「突然すまないね。私を覚えているかな?」
男が帽子を外すと、美しいプラチナブロンドが溢れ出た。
「!あんたは……!」
「……ディミトリ様……?!」
「覚えていてくれて嬉しいよ」
ディミトリが屈託のない笑顔を見せるが、ポールは顔を強張らせて、ディミトリを扉の向こうに押しやろうとする。
「ここはあなたの様な高貴な方が来るような所じゃありません。お引き取りください」
「ポール殿、クラリス嬢、少しだけ話をさせてくれないか」
「お話しすることは何もありません」
ディミトリが真剣な顔で頼むも、ポールはがんとして譲らない。
「ポール殿、頼む。このままでは私は国に帰れない。今回の騒動は我が愚昧の責でもあるんだ」
「……」
「ポール、ひとまず奥に。そこにお前達みたいなデカいのが突っ立っていたら、客が入ってこられない」
厨房から様子を伺っていたクラリスの父が声をかけた。
「……わかったよ」
「ありがとう、ご主人」
ポールは渋々ディミトリを中に入れる。
「ポールお兄ちゃん……」
クラリスがポールの側に来て、その服の裾をギュッと掴んだ。
「クラリス、大丈夫だ。俺がいる」
ポールが優しくクラリスの肩を抱く。
「ポール、クラリス、キッチンを使え」
オーリーの言葉に、ポールはクラリスを庇いながら、奥のキッチンへとディミトリを促した。
「あなた……いいのかしら……」
エリーが不安そうに三人を見送る。
「ポールもクラリスも、このままじゃ前に進めないだろう。あの男が誰かは知らんが、パーティーの騒動についての話なら、二人はしっかり聞くべきだ」
王宮のパーティーで何があったかは、ポールとクラリスから聞いていた。オーリーとエリーは、娘の身に起こったことに怒り、悲しんだが、友人を失って失意の底にいるクラリスとポールを見ているのも辛かった。
「あいつらはまだ若い。いくらでもやり直せる」
オーリーは突然現れた、物腰の柔らかい、誠実そうな男を信じることにした。
0
あなたにおすすめの小説
「転生したら推しの悪役宰相と婚約してました!?」〜推しが今日も溺愛してきます〜 (旧題:転生したら報われない悪役夫を溺愛することになった件)
透子(とおるこ)
恋愛
読んでいた小説の中で一番好きだった“悪役宰相グラヴィス”。
有能で冷たく見えるけど、本当は一途で優しい――そんな彼が、報われずに処刑された。
「今度こそ、彼を幸せにしてあげたい」
そう願った瞬間、気づけば私は物語の姫ジェニエットに転生していて――
しかも、彼との“政略結婚”が目前!?
婚約から始まる、再構築系・年の差溺愛ラブ。
“報われない推し”が、今度こそ幸せになるお話。
悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない
陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」
デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。
そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。
いつの間にかパトロンが大量発生していた。
ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?
【完結】転生白豚令嬢☆前世を思い出したので、ブラコンではいられません!
白雨 音
恋愛
エリザ=デュランド伯爵令嬢は、学院入学時に転倒し、頭を打った事で前世を思い出し、
《ここ》が嘗て好きだった小説の世界と似ている事に気付いた。
しかも自分は、義兄への恋を拗らせ、ヒロインを貶める為に悪役令嬢に加担した挙句、
義兄と無理心中バッドエンドを迎えるモブ令嬢だった!
バッドエンドを回避する為、義兄への恋心は捨て去る事にし、
前世の推しである悪役令嬢の弟エミリアンに狙いを定めるも、義兄は気に入らない様で…??
異世界転生:恋愛 ※魔法無し
《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、ありがとうございます☆
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
悪役令嬢に転生するも魔法に夢中でいたら王子に溺愛されました
黒木 楓
恋愛
旧題:悪役令嬢に転生するも魔法を使えることの方が嬉しかったから自由に楽しんでいると、王子に溺愛されました
乙女ゲームの悪役令嬢リリアンに転生していた私は、転生もそうだけどゲームが始まる数年前で子供の姿となっていることに驚いていた。
これから頑張れば悪役令嬢と呼ばれなくなるのかもしれないけど、それよりもイメージすることで体内に宿る魔力を消費して様々なことができる魔法が使えることの方が嬉しい。
もうゲーム通りになるのなら仕方がないと考えた私は、レックス王子から婚約破棄を受けて没落するまで自由に楽しく生きようとしていた。
魔法ばかり使っていると魔力を使い過ぎて何度か倒れてしまい、そのたびにレックス王子が心配して数年後、ようやくヒロインのカレンが登場する。
私は公爵令嬢も今年までかと考えていたのに、レックス殿下はカレンに興味がなさそうで、常に私に構う日々が続いていた。
《完》義弟と継母をいじめ倒したら溺愛ルートに入りました。何故に?
桐生桜月姫
恋愛
公爵令嬢たるクラウディア・ローズバードは自分の前に現れた天敵たる天才な義弟と継母を追い出すために、たくさんのクラウディアの思う最高のいじめを仕掛ける。
だが、義弟は地味にずれているクラウディアの意地悪を糧にしてどんどん賢くなり、継母は陰ながら?クラウディアをものすっごく微笑ましく眺めて溺愛してしまう。
「もう!どうしてなのよ!!」
クラウディアが気がつく頃には外堀が全て埋め尽くされ、大変なことに!?
天然混じりの大人びている?少女と、冷たい天才義弟、そして変わり者な継母の家族の行方はいかに!?
転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎
水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。
もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。
振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!!
え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!?
でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!?
と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう!
前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい!
だからこっちに熱い眼差しを送らないで!
答えられないんです!
これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。
または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。
小説家になろうでも投稿してます。
こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。
【完結】引きこもりが異世界でお飾りの妻になったら「愛する事はない」と言った夫が溺愛してきて鬱陶しい。
千紫万紅
恋愛
男爵令嬢アイリスは15歳の若さで冷徹公爵と噂される男のお飾りの妻になり公爵家の領地に軟禁同然の生活を強いられる事になった。
だがその3年後、冷徹公爵ラファエルに突然王都に呼び出されたアイリスは「女性として愛するつもりは無いと」言っていた冷徹公爵に、「君とはこれから愛し合う夫婦になりたいと」宣言されて。
いやでも、貴方……美人な平民の恋人いませんでしたっけ……?
と、お飾りの妻生活を謳歌していた 引きこもり はとても嫌そうな顔をした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる