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贖罪の場
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「まさかまたここに来ることになるとはな。クラリス、大丈夫か?」
「うん。私は大丈夫よ」
ウィルとアンソニーに請われ、クラリスとポールは王の間に来ていた。
クラリスにとっては嫌な思い出のある場所ではないかと、ポールは小声でクラリスを気遣ったが、クラリスは気丈に微笑んだ。
「クラリス嬢、ポール、今日は呼び立てしてすまない。畏まらずに、楽にしてくれ」
跪き、頭を下げる二人に国王が声をかける。
「「ありがとうございます」」
二人が立ち上がり、顔を上げると、国王が話を続けた。
「セベールが二人に謝罪したいと言うのでな、今日はわざわざ来てもらったのだが、謝罪を受けてもらえるだろうか」
「……謝罪の内容によりますね」
ポールが国王を真っ直ぐ見据えたまま答える。
「それはそうだな……セベールをここへ」
国王はポールの言葉に頷くと、振り返って護衛の騎士に命じた。
「連れて参りました」
「ご苦労。セベールよ、この二人に何か言うことはないか」
「はい。この度は、そちらのお嬢様の身を危険にさらしてしまったことをお詫びいたします」
セベールがいつになく神妙な面持ちで深く頭を下げた。
「クラリス、謝罪を受け入れるかどうかはお前が決めた方がいいだろう。俺はひとまず、一発殴らねえと気がすまないがな」
ポールは右手の拳を左手のひらで受け止めながら、一歩前に出た。
「……待って、ポールお兄ちゃん」
「殴るのは駄目だっていうのか?全くクラリスは優し過ぎーー」
セベールに掴み掛かろうとするポールを引き止め、クラリスがつかつかと前に進み出たかと思うと、真っ直ぐにセベールの前に立った。
「お顔をお上げください」
パシーン!
クラリスの言葉にセベールが顔を上げる。と、その美しい顔に、クラリスのビンタが飛んだ。
「「「「「 !!!!!! 」」」」」
予想外のことに、その場にいた全員が驚きで固まる。
「今のは私の分です」
言って、クラリスがセベールの反対の頬を叩く。
バシッ
「これはポールお兄ちゃんの分」
バシッ
「これはエラリー様の分」
バシッ
「そして、これは、私のお友達みんなの分です」
合計四発のビンタをセベールの頬にお見舞いしたクラリスの右手は真っ赤になっていた。もちろん、色白のセベールの頬も真っ赤になっている。
「セベール様のなさったことは私達を傷つけました。ですが、この国の膿を出し切るためには必要なことだったのだと理解しています。ですから、今回のことはこれで終わりにします」
「……寛大なお言葉、感謝いたします」
最初は何が起きたのかわからず、ポカンとしていたセベールだったが、クラリスの言葉を理解すると、その前に跪き、再度首を垂れた。
「……フフフ……ハッハッハッ!」
呆然とその様子を見ていた国王が、次第に堪えられないといった様子で笑い出した。
「ま、まさか、クラリス嬢がセベールを張り倒すとは!いやあ、驚いた!ワッハッハッハッハ」
「い、いやあ、ポールがセベールを殴ることは予想していましたが、まさか、クラリス嬢が……」
笑いが止まらない国王の側で、宰相のアランは呆気に取られたまま呟く。
「ク、クラリス、お前、人を殴れたんだな……」
ポールも自分の目が信じられないといった様子で呆然としている。
「いや、これは驚いた」
ウィルも目を丸くしてクラリスを見つめる。
「……クラリス嬢、手が!」
皆と同様に呆気に取られていたアンソニーだったが、クラリスの右手が赤くなっていることに気づき、側に駆け寄る。
「手が真っ赤になっているじゃありませんか!ーー何か冷やす物を!」
クラリスの手を取ると、周りに控えている護衛達に命じる。
アンソニーは、護衛が持ってきた冷たい水で濡らした布をクラリスの右手に当てると、心配そうにクラリスを見つめた。
「ああ、こんなに熱を持って。クラリス嬢、こんな無茶をしなくても、言ってくだされば私がいくらでも代わりに殴ったのに」
アンソニーの物騒な言葉に、クラリスは小さく微笑んだ。
「他の誰にも代われません。この怒りは私のものですから。でも、叩いてすっきりしました」
「クラリス嬢……」
そう言って晴れやかに笑うクラリスから、アンソニーは目が離せなかった。
「それで、ポール、その方はもういいのか」
ようやく笑い止んだ国王がポールに問いかける。
「……あ、ああ。俺の出る幕はなさそうだ」
「そうか。クラリス嬢は他に何か言うことはあるか?」
「いいえ、陛下。今日はこのような機会を設けていただき、ありがとうございました」
アンソニーに手を取られたまま、クラリスが頭を下げる。
「あ、アンソニー、お前、いつまでクラリスの手を握ってるんだよ!」
我にかえったポールがアンソニーに噛みつくが、アンソニーはその手を放そうとはしなかった。
「早く冷やさないと腫れてしまいますから」
「それを言うなら、セベール殿の顔の方だと思うが」
今日は珍しく影が薄いウィルが、もっともなことを言った。
「王太子殿下、お気遣いいただき、ありがとうございます。ですが、これが私に与えられた罰なのであれば、甘んじて受けましょう」
セベールが至極大真面目に頷いた。
「そうだな。この程度で済んだのだ、クラリス嬢には感謝しろ」
その美しい顔が明日になったらどのようになっているのか、想像するとまた笑いが止まらなくなる国王だった。
「うん。私は大丈夫よ」
ウィルとアンソニーに請われ、クラリスとポールは王の間に来ていた。
クラリスにとっては嫌な思い出のある場所ではないかと、ポールは小声でクラリスを気遣ったが、クラリスは気丈に微笑んだ。
「クラリス嬢、ポール、今日は呼び立てしてすまない。畏まらずに、楽にしてくれ」
跪き、頭を下げる二人に国王が声をかける。
「「ありがとうございます」」
二人が立ち上がり、顔を上げると、国王が話を続けた。
「セベールが二人に謝罪したいと言うのでな、今日はわざわざ来てもらったのだが、謝罪を受けてもらえるだろうか」
「……謝罪の内容によりますね」
ポールが国王を真っ直ぐ見据えたまま答える。
「それはそうだな……セベールをここへ」
国王はポールの言葉に頷くと、振り返って護衛の騎士に命じた。
「連れて参りました」
「ご苦労。セベールよ、この二人に何か言うことはないか」
「はい。この度は、そちらのお嬢様の身を危険にさらしてしまったことをお詫びいたします」
セベールがいつになく神妙な面持ちで深く頭を下げた。
「クラリス、謝罪を受け入れるかどうかはお前が決めた方がいいだろう。俺はひとまず、一発殴らねえと気がすまないがな」
ポールは右手の拳を左手のひらで受け止めながら、一歩前に出た。
「……待って、ポールお兄ちゃん」
「殴るのは駄目だっていうのか?全くクラリスは優し過ぎーー」
セベールに掴み掛かろうとするポールを引き止め、クラリスがつかつかと前に進み出たかと思うと、真っ直ぐにセベールの前に立った。
「お顔をお上げください」
パシーン!
クラリスの言葉にセベールが顔を上げる。と、その美しい顔に、クラリスのビンタが飛んだ。
「「「「「 !!!!!! 」」」」」
予想外のことに、その場にいた全員が驚きで固まる。
「今のは私の分です」
言って、クラリスがセベールの反対の頬を叩く。
バシッ
「これはポールお兄ちゃんの分」
バシッ
「これはエラリー様の分」
バシッ
「そして、これは、私のお友達みんなの分です」
合計四発のビンタをセベールの頬にお見舞いしたクラリスの右手は真っ赤になっていた。もちろん、色白のセベールの頬も真っ赤になっている。
「セベール様のなさったことは私達を傷つけました。ですが、この国の膿を出し切るためには必要なことだったのだと理解しています。ですから、今回のことはこれで終わりにします」
「……寛大なお言葉、感謝いたします」
最初は何が起きたのかわからず、ポカンとしていたセベールだったが、クラリスの言葉を理解すると、その前に跪き、再度首を垂れた。
「……フフフ……ハッハッハッ!」
呆然とその様子を見ていた国王が、次第に堪えられないといった様子で笑い出した。
「ま、まさか、クラリス嬢がセベールを張り倒すとは!いやあ、驚いた!ワッハッハッハッハ」
「い、いやあ、ポールがセベールを殴ることは予想していましたが、まさか、クラリス嬢が……」
笑いが止まらない国王の側で、宰相のアランは呆気に取られたまま呟く。
「ク、クラリス、お前、人を殴れたんだな……」
ポールも自分の目が信じられないといった様子で呆然としている。
「いや、これは驚いた」
ウィルも目を丸くしてクラリスを見つめる。
「……クラリス嬢、手が!」
皆と同様に呆気に取られていたアンソニーだったが、クラリスの右手が赤くなっていることに気づき、側に駆け寄る。
「手が真っ赤になっているじゃありませんか!ーー何か冷やす物を!」
クラリスの手を取ると、周りに控えている護衛達に命じる。
アンソニーは、護衛が持ってきた冷たい水で濡らした布をクラリスの右手に当てると、心配そうにクラリスを見つめた。
「ああ、こんなに熱を持って。クラリス嬢、こんな無茶をしなくても、言ってくだされば私がいくらでも代わりに殴ったのに」
アンソニーの物騒な言葉に、クラリスは小さく微笑んだ。
「他の誰にも代われません。この怒りは私のものですから。でも、叩いてすっきりしました」
「クラリス嬢……」
そう言って晴れやかに笑うクラリスから、アンソニーは目が離せなかった。
「それで、ポール、その方はもういいのか」
ようやく笑い止んだ国王がポールに問いかける。
「……あ、ああ。俺の出る幕はなさそうだ」
「そうか。クラリス嬢は他に何か言うことはあるか?」
「いいえ、陛下。今日はこのような機会を設けていただき、ありがとうございました」
アンソニーに手を取られたまま、クラリスが頭を下げる。
「あ、アンソニー、お前、いつまでクラリスの手を握ってるんだよ!」
我にかえったポールがアンソニーに噛みつくが、アンソニーはその手を放そうとはしなかった。
「早く冷やさないと腫れてしまいますから」
「それを言うなら、セベール殿の顔の方だと思うが」
今日は珍しく影が薄いウィルが、もっともなことを言った。
「王太子殿下、お気遣いいただき、ありがとうございます。ですが、これが私に与えられた罰なのであれば、甘んじて受けましょう」
セベールが至極大真面目に頷いた。
「そうだな。この程度で済んだのだ、クラリス嬢には感謝しろ」
その美しい顔が明日になったらどのようになっているのか、想像するとまた笑いが止まらなくなる国王だった。
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