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死なせない
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「さ、クラリス嬢、お手を」
ウィルとアリスが王宮の正面に停めた馬車に乗り込んだのに続き、アンソニーがクラリスの手を取り、馬車に乗り込もうとした時だった。
「アンソニー!クラリス嬢!」
一頭の馬がすごい勢いで王宮に向かってきたかと思うと、聞き覚えのある声が二人の名前を呼んだ。
「「ディミトリ様?」」
「すぐに国王陛下にお目通りを!ポールが刺された!違法薬物を摂取させられた可能性もある!」
ディミトリの緊迫した声に、馬車の中からウィルとアリスも出てきた。
「ディミトリ、どういうことだ?」
「ウィリアム、説明は後だ。急ぎ陛下に会いたい。解毒剤が必要なんだ!」
「……ポールお兄ちゃんは、無事なんですか?!」
ようやくディミトリの言葉を理解したクラリスが真っ青な顔でディミトリに縋りつく。
「今はまだ息はある。だが、予断を許さない状況だ。クラリス嬢、すまない、こんなことになるとは……」
「そんな……」
「クラリスさん!」
崩れ落ちるように地面にペタンと座り込んだクラリスの側にアリスが駆け寄った。
「アリス、クラリス嬢を頼む。公爵邸で待機していてくれ。ディミトリ、アンソニー、急ぐぞ」
ウィルの言葉に頷くと、三人は王宮に向かって駆け出した。
=======================
「クラリスさん、カモミールティーですわ。さあ、どうぞ」
「ありがとうございます……」
アリスは、真っ青になってガタガタ震えているクラリスを抱き抱えるようにして、その背中をさすっていた。
オストロー公爵家のアリスの自室で、二人はウィルからの連絡を待っていた。
「ポールさんはきっと大丈夫ですわ。まだ若くて体力もありますもの。解毒剤もありますし、絶対に助かりますわよ!」
先ほどからほとんど言葉を発さないクラリスの肩を抱きながら、アリスは懸命に慰めの言葉を紡いでいた。
「アリスお嬢様、ウィリアム王太子殿下がお見えです」
専属メイドのカイシャの声に、アリスとクラリスはソファから勢いよく立ち上がると、部屋の外に駆け出した。
「お嬢様!お行儀の悪い!」
カイシャのお小言も今日ばかりは聞いていられなかった。
「ウィル様!」
ウィルとアンソニーは公爵邸の門の前にいた。二人とも騎乗のまま話しかける。
「アリス、クラリス嬢。私とトニーはこれからブートレット公国に向かう。ディミトリが先に解毒剤を持って戻ったが、薬が足りない可能性を考えて、ドットールー侯爵家から追加の薬をもらってきた」
「馬上から失礼いたします。王宮で一番早い馬車を用意いたしました。アリス嬢とクラリス嬢はそちらをお使いください」
「公国までは馬を飛ばせば半日で着く。通常の馬車なら二日かかるが、この馬車なら一日で着くだろう」
「時間がありません。私達は先を急ぎます。お気をつけていらしてください」
「わかりました。すぐに支度しますわ!」
「ウィル様、アンソニー様、ポールお兄ちゃんをどうか、どうか、お願いします……!」
クラリスが大きな目に涙をいっぱいに溜めて、二人に訴えた。
「安心してください。ポールは絶対に死なせません」
アンソニーはクラリスを安心させるように力強く頷いた。
==========================
「ポールお兄ちゃん!」
公宮に着き、手早く旅の汚れを落としたクラリスとアリスは、大急ぎでポールが寝かされている部屋に向かった。
クラリスはポールの寝台に駆け寄ったが、ポールは目を閉じたままだった。
「クラリスちゃん?!まあ、大きくなって……わざわざ来てくれたのね」
「おばさん!ポールお兄ちゃんは?大丈夫なの?!」
「……刺されてからずっと意識が戻らないの……」
ポールの母は涙を堪えながらクラリスに告げる。
「そんな……解毒剤は効いていないんですか?!」
クラリスの顔がまたしても真っ青になる。
「クラリス嬢、落ち着いてくれ。解毒剤の効果は出ている」
いつの間に部屋に入ってきていたのか、後ろからディミトリの声が聞こえた。
「高熱が出ていたが、解毒剤を服用してから熱は下がっている。出血も止まっているし、山は越した。そうだな?」
ディミトリは伴っていた医師に確認する。
「はい。幸い解毒剤の量にも余裕がありますし、様子を見ながら、必要に応じて追加していけます。傷口が塞がるのは時間がかかるでしょうが、若くて体力がありますしね。回復は時間の問題ですよ」
「……良かった……」
医師の説明に、クラリスは安心して気が抜けたように、ぺたんと座り込んだ。
「クラリスさん!」
そんなクラリスを見て、アリスが驚きの声を上げた。
「あ、あれ?安心したら、何か一気に涙が……」
クラリスの大きな瞳からは涙がボロボロ溢れていた。
「クラリス嬢、これを」
すかさずアンソニーが自身のハンカチを差し出す。
「あ、ありがとうございます」
クラリスは素直に礼を言って、それを受け取った。
「クラリス嬢もアリス嬢も丸一日馬車に揺られて疲れただろう。部屋を用意させてあるから、少し休むといい」
ディミトリが二人を気遣った。
「そうだな。アリス、そうさせてもらおう」
ウィルがアリスの手を取った。
「そうですわね……クラリスさん、行きましょうか」
「さあ、お手を」
アンソニーが優しくクラリスに手を差し出す。
「アリス様達は先にお休みください。私はここにいます」
だが、クラリスはその手を取らず、自分で立ち上がると、きっぱりと言った。
「おばさんもずっと看病で疲れてるでしょ?私が代わるから少し休んでて大丈夫だよ」
クラリスはまだ涙目のまま、ナタリーを気遣う。
「クラリスちゃん、クラリスちゃんこそ気を遣わないで休んできていいのよ」
「ううん。私、ポールお兄ちゃんの側にいたいの」
クラリスのその言葉に、アンソニーに衝撃が走ったが、クラリスはそれには気付かなかった。
ウィルとアリスが王宮の正面に停めた馬車に乗り込んだのに続き、アンソニーがクラリスの手を取り、馬車に乗り込もうとした時だった。
「アンソニー!クラリス嬢!」
一頭の馬がすごい勢いで王宮に向かってきたかと思うと、聞き覚えのある声が二人の名前を呼んだ。
「「ディミトリ様?」」
「すぐに国王陛下にお目通りを!ポールが刺された!違法薬物を摂取させられた可能性もある!」
ディミトリの緊迫した声に、馬車の中からウィルとアリスも出てきた。
「ディミトリ、どういうことだ?」
「ウィリアム、説明は後だ。急ぎ陛下に会いたい。解毒剤が必要なんだ!」
「……ポールお兄ちゃんは、無事なんですか?!」
ようやくディミトリの言葉を理解したクラリスが真っ青な顔でディミトリに縋りつく。
「今はまだ息はある。だが、予断を許さない状況だ。クラリス嬢、すまない、こんなことになるとは……」
「そんな……」
「クラリスさん!」
崩れ落ちるように地面にペタンと座り込んだクラリスの側にアリスが駆け寄った。
「アリス、クラリス嬢を頼む。公爵邸で待機していてくれ。ディミトリ、アンソニー、急ぐぞ」
ウィルの言葉に頷くと、三人は王宮に向かって駆け出した。
=======================
「クラリスさん、カモミールティーですわ。さあ、どうぞ」
「ありがとうございます……」
アリスは、真っ青になってガタガタ震えているクラリスを抱き抱えるようにして、その背中をさすっていた。
オストロー公爵家のアリスの自室で、二人はウィルからの連絡を待っていた。
「ポールさんはきっと大丈夫ですわ。まだ若くて体力もありますもの。解毒剤もありますし、絶対に助かりますわよ!」
先ほどからほとんど言葉を発さないクラリスの肩を抱きながら、アリスは懸命に慰めの言葉を紡いでいた。
「アリスお嬢様、ウィリアム王太子殿下がお見えです」
専属メイドのカイシャの声に、アリスとクラリスはソファから勢いよく立ち上がると、部屋の外に駆け出した。
「お嬢様!お行儀の悪い!」
カイシャのお小言も今日ばかりは聞いていられなかった。
「ウィル様!」
ウィルとアンソニーは公爵邸の門の前にいた。二人とも騎乗のまま話しかける。
「アリス、クラリス嬢。私とトニーはこれからブートレット公国に向かう。ディミトリが先に解毒剤を持って戻ったが、薬が足りない可能性を考えて、ドットールー侯爵家から追加の薬をもらってきた」
「馬上から失礼いたします。王宮で一番早い馬車を用意いたしました。アリス嬢とクラリス嬢はそちらをお使いください」
「公国までは馬を飛ばせば半日で着く。通常の馬車なら二日かかるが、この馬車なら一日で着くだろう」
「時間がありません。私達は先を急ぎます。お気をつけていらしてください」
「わかりました。すぐに支度しますわ!」
「ウィル様、アンソニー様、ポールお兄ちゃんをどうか、どうか、お願いします……!」
クラリスが大きな目に涙をいっぱいに溜めて、二人に訴えた。
「安心してください。ポールは絶対に死なせません」
アンソニーはクラリスを安心させるように力強く頷いた。
==========================
「ポールお兄ちゃん!」
公宮に着き、手早く旅の汚れを落としたクラリスとアリスは、大急ぎでポールが寝かされている部屋に向かった。
クラリスはポールの寝台に駆け寄ったが、ポールは目を閉じたままだった。
「クラリスちゃん?!まあ、大きくなって……わざわざ来てくれたのね」
「おばさん!ポールお兄ちゃんは?大丈夫なの?!」
「……刺されてからずっと意識が戻らないの……」
ポールの母は涙を堪えながらクラリスに告げる。
「そんな……解毒剤は効いていないんですか?!」
クラリスの顔がまたしても真っ青になる。
「クラリス嬢、落ち着いてくれ。解毒剤の効果は出ている」
いつの間に部屋に入ってきていたのか、後ろからディミトリの声が聞こえた。
「高熱が出ていたが、解毒剤を服用してから熱は下がっている。出血も止まっているし、山は越した。そうだな?」
ディミトリは伴っていた医師に確認する。
「はい。幸い解毒剤の量にも余裕がありますし、様子を見ながら、必要に応じて追加していけます。傷口が塞がるのは時間がかかるでしょうが、若くて体力がありますしね。回復は時間の問題ですよ」
「……良かった……」
医師の説明に、クラリスは安心して気が抜けたように、ぺたんと座り込んだ。
「クラリスさん!」
そんなクラリスを見て、アリスが驚きの声を上げた。
「あ、あれ?安心したら、何か一気に涙が……」
クラリスの大きな瞳からは涙がボロボロ溢れていた。
「クラリス嬢、これを」
すかさずアンソニーが自身のハンカチを差し出す。
「あ、ありがとうございます」
クラリスは素直に礼を言って、それを受け取った。
「クラリス嬢もアリス嬢も丸一日馬車に揺られて疲れただろう。部屋を用意させてあるから、少し休むといい」
ディミトリが二人を気遣った。
「そうだな。アリス、そうさせてもらおう」
ウィルがアリスの手を取った。
「そうですわね……クラリスさん、行きましょうか」
「さあ、お手を」
アンソニーが優しくクラリスに手を差し出す。
「アリス様達は先にお休みください。私はここにいます」
だが、クラリスはその手を取らず、自分で立ち上がると、きっぱりと言った。
「おばさんもずっと看病で疲れてるでしょ?私が代わるから少し休んでて大丈夫だよ」
クラリスはまだ涙目のまま、ナタリーを気遣う。
「クラリスちゃん、クラリスちゃんこそ気を遣わないで休んできていいのよ」
「ううん。私、ポールお兄ちゃんの側にいたいの」
クラリスのその言葉に、アンソニーに衝撃が走ったが、クラリスはそれには気付かなかった。
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