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準備万端(続)
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ウィルとジャンは日が暮れる頃に公宮に着いた。手早く湯浴みを済ませて身支度を整えると、急いでポールのいる部屋へと向かう。
ポールの横にはエラリーとアンソニーがいた。
「ポールの様子は?」
挨拶もそこそこに、ウィルはポールの状態を確認する。
「変わらずですね」
「今日は医師達の診察は?」
ジャンがポールの脈を測りながら確認する。
「これまでと同様です。先ほど今日の最後の診察が終わったところです」
「点滴も交換していった?」
「はい。特におかしな様子はありませんでした」
ウィルとジャンの質問にアンソニーが答える。
「クラリス嬢の姿が見えないが、まだ休んでいるのか?」
一昨日のことを思い出したのか、ウィルが心配そうに尋ねる。
「クラリス嬢なら続き部屋に。医師達と顔を合わせると態度に出てしまいそうだからと、診察の時はご自分から席を外されていました」
「そうか。少し落ち着いたようだな」
「はい。もともと聡明でしっかりした方ですから」
ウィルとアンソニーの声が聞こえたかのように、クラリスが続き部屋から顔を出した。
「ウィル様、ジャン様。もうお戻りになったんですね」
僅か二、三日の間に公国と王国を行ったり来たりしている二人に、クラリスは驚きを隠せない。
「クラリス嬢。少し顔色がよくなったようだね」
「クラリス嬢……一昨日のことはメルから聞いたよ……もう少しだよ、明日で全て解決するはずだから」
ウィルとジャンが優しく声をかける。
「……すみません、私、皆様にご心配ばかりおかけしてしまって……」
「クラリス嬢が気にすることは何もないぞ」
クラリスの申し訳なさそうな様子に、それまで黙っていたエラリーが首をブンブンと横に振る。
「……ありがとうございます、エラリー様。あの、それでジャン様、検査の結果は……?」
「クロだったよ」
「っ!やっぱりこの点滴に毒物が……」
言いながら、クラリスがポールの側に駆け寄った。アンソニーとエラリーが慌ててクラリスと点滴の間に壁を作る。
「……大丈夫です。一昨日のようなことはいたしません」
自身の行動を思い返したのか、クラリスが少し赤面しながら言った。
「安心して。これは普通の点滴液のはずだよ。ね?アンソニー?」
ジャンがにっこり笑って言った。
「はい。影が医師達を見張り、毒物を混入させる所を確認しました。毒物入りの点滴液は回収し、無害な物と交換済みです。昨日と今日の分は毒物の入っていない物のはずです」
「物証も押さえられたし、後は明日の応援部隊の到着を待って、現行犯で取り押さえるだけだな」
ウィルの言葉に、皆が表情を引き締め、頷いた。
====================
「公世子殿下。カリーラン王国よりお客人が到着されました」
公宮の侍従がポールの眠る客室のドアをノックし、アリス達の到着を告げた。
「わかった。今行く」
ディミトリは短く答えると、ウィルの顔を見た。
「愛しの婚約者殿がご到……」
「すぐに迎えに行こう」
「急いでメルを補給しなきゃ!」
ディミトリの言葉が終わるのを待たずに、ウィルとジャンはさっさと扉を開けて出ていく。
「全く……」
その後ろに呆れた様子のディミトリが続いた。
「……いよいよなんですね」
クラリスが緊張した面持ちで呟いた。
「ようやくケリをつけられるな」
エラリーも厳しい顔で三人の出て行った扉を見つめる。
「クラリス嬢、何があるかわかりませんので、今日は私達の側を離れないでくださいね」
アンソニーの真剣な声に、クラリスがこくりと頷いた。
「ポールお兄ちゃん、もうすぐだからね。もうすぐ全部明らかになるから、だから、ポールお兄ちゃんも早く目を覚まして」
クラリスは、眠り続けるポールの手を握り、語りかける。
そんなクラリスの背中をアンソニーが少し寂しそうに見つめていることにエラリーは気づいたが、かける言葉は見つからなかった。
ガチャリ
扉が開き、少しうんざりした顔のディミトリが入ってきた。
その後ろに、イメルダにピッタリくっついたジャンと、アリスにピッタリくっついたウィルが続く。アリスとイメルダの顔はもちろん真っ赤に染まっている。
「……王国では『補給』と言って、ところ構わず婚約者に密着するのが流行りなのかい?」
ディミトリがため息をつきながら、誰にともなく聞く。
「……いいえ。そこの二人だけですよ」
アンソニーが久しぶりのジト目で答えた。
と、その時、開いたままの扉からほっそりとした人影が見え、涼やかな声が聞こえた。
「ディミトリ公世子殿下にご挨拶申し上げます」
「久しぶりだね、セベール殿」
ディミトリが微笑みながら答える。
「兄上?!」
「やあ、エラリー、元気だった?」
そこにいたのは、王国の特務部隊副隊長のセベールだった。セベールの後ろには数人の部下が付き従っている。
「応援部隊というのは、兄上達のことだったのか……」
詳しいことを知らされていなかったエラリーは驚きを隠せない。
「さすがに、他国の宮殿に何十人もの騎士を連れて来るわけにはいかないからね。少数精鋭で、となると、自ずと適任者は限られてくるというわけだよ」
ウィルがエラリーに説明する。
「それに、私はクラリス嬢には大きな借りがあるからね」
セベールがクラリスに向かって微笑みかけた。
「セベール様……」
クラリスはセベールの美しい笑顔を呆然と見つめる。
「さあ、役者は揃ったね。今日、決着をつけるよ!」
ようやくイメルダを解放したジャンが、キリッとした表情で全員を見渡しながら高らかに宣言した。
ポールの横にはエラリーとアンソニーがいた。
「ポールの様子は?」
挨拶もそこそこに、ウィルはポールの状態を確認する。
「変わらずですね」
「今日は医師達の診察は?」
ジャンがポールの脈を測りながら確認する。
「これまでと同様です。先ほど今日の最後の診察が終わったところです」
「点滴も交換していった?」
「はい。特におかしな様子はありませんでした」
ウィルとジャンの質問にアンソニーが答える。
「クラリス嬢の姿が見えないが、まだ休んでいるのか?」
一昨日のことを思い出したのか、ウィルが心配そうに尋ねる。
「クラリス嬢なら続き部屋に。医師達と顔を合わせると態度に出てしまいそうだからと、診察の時はご自分から席を外されていました」
「そうか。少し落ち着いたようだな」
「はい。もともと聡明でしっかりした方ですから」
ウィルとアンソニーの声が聞こえたかのように、クラリスが続き部屋から顔を出した。
「ウィル様、ジャン様。もうお戻りになったんですね」
僅か二、三日の間に公国と王国を行ったり来たりしている二人に、クラリスは驚きを隠せない。
「クラリス嬢。少し顔色がよくなったようだね」
「クラリス嬢……一昨日のことはメルから聞いたよ……もう少しだよ、明日で全て解決するはずだから」
ウィルとジャンが優しく声をかける。
「……すみません、私、皆様にご心配ばかりおかけしてしまって……」
「クラリス嬢が気にすることは何もないぞ」
クラリスの申し訳なさそうな様子に、それまで黙っていたエラリーが首をブンブンと横に振る。
「……ありがとうございます、エラリー様。あの、それでジャン様、検査の結果は……?」
「クロだったよ」
「っ!やっぱりこの点滴に毒物が……」
言いながら、クラリスがポールの側に駆け寄った。アンソニーとエラリーが慌ててクラリスと点滴の間に壁を作る。
「……大丈夫です。一昨日のようなことはいたしません」
自身の行動を思い返したのか、クラリスが少し赤面しながら言った。
「安心して。これは普通の点滴液のはずだよ。ね?アンソニー?」
ジャンがにっこり笑って言った。
「はい。影が医師達を見張り、毒物を混入させる所を確認しました。毒物入りの点滴液は回収し、無害な物と交換済みです。昨日と今日の分は毒物の入っていない物のはずです」
「物証も押さえられたし、後は明日の応援部隊の到着を待って、現行犯で取り押さえるだけだな」
ウィルの言葉に、皆が表情を引き締め、頷いた。
====================
「公世子殿下。カリーラン王国よりお客人が到着されました」
公宮の侍従がポールの眠る客室のドアをノックし、アリス達の到着を告げた。
「わかった。今行く」
ディミトリは短く答えると、ウィルの顔を見た。
「愛しの婚約者殿がご到……」
「すぐに迎えに行こう」
「急いでメルを補給しなきゃ!」
ディミトリの言葉が終わるのを待たずに、ウィルとジャンはさっさと扉を開けて出ていく。
「全く……」
その後ろに呆れた様子のディミトリが続いた。
「……いよいよなんですね」
クラリスが緊張した面持ちで呟いた。
「ようやくケリをつけられるな」
エラリーも厳しい顔で三人の出て行った扉を見つめる。
「クラリス嬢、何があるかわかりませんので、今日は私達の側を離れないでくださいね」
アンソニーの真剣な声に、クラリスがこくりと頷いた。
「ポールお兄ちゃん、もうすぐだからね。もうすぐ全部明らかになるから、だから、ポールお兄ちゃんも早く目を覚まして」
クラリスは、眠り続けるポールの手を握り、語りかける。
そんなクラリスの背中をアンソニーが少し寂しそうに見つめていることにエラリーは気づいたが、かける言葉は見つからなかった。
ガチャリ
扉が開き、少しうんざりした顔のディミトリが入ってきた。
その後ろに、イメルダにピッタリくっついたジャンと、アリスにピッタリくっついたウィルが続く。アリスとイメルダの顔はもちろん真っ赤に染まっている。
「……王国では『補給』と言って、ところ構わず婚約者に密着するのが流行りなのかい?」
ディミトリがため息をつきながら、誰にともなく聞く。
「……いいえ。そこの二人だけですよ」
アンソニーが久しぶりのジト目で答えた。
と、その時、開いたままの扉からほっそりとした人影が見え、涼やかな声が聞こえた。
「ディミトリ公世子殿下にご挨拶申し上げます」
「久しぶりだね、セベール殿」
ディミトリが微笑みながら答える。
「兄上?!」
「やあ、エラリー、元気だった?」
そこにいたのは、王国の特務部隊副隊長のセベールだった。セベールの後ろには数人の部下が付き従っている。
「応援部隊というのは、兄上達のことだったのか……」
詳しいことを知らされていなかったエラリーは驚きを隠せない。
「さすがに、他国の宮殿に何十人もの騎士を連れて来るわけにはいかないからね。少数精鋭で、となると、自ずと適任者は限られてくるというわけだよ」
ウィルがエラリーに説明する。
「それに、私はクラリス嬢には大きな借りがあるからね」
セベールがクラリスに向かって微笑みかけた。
「セベール様……」
クラリスはセベールの美しい笑顔を呆然と見つめる。
「さあ、役者は揃ったね。今日、決着をつけるよ!」
ようやくイメルダを解放したジャンが、キリッとした表情で全員を見渡しながら高らかに宣言した。
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