【完結】転生ヒロインと転生(?)悪役令嬢は逆ハーエンドを回避したい! 〜R18禁エンドはごめんです!〜

koromachi

文字の大きさ
128 / 139

決着の時

しおりを挟む
「さて、今日で約一月か……このまま続ければどのぐらいで死に至るのか、あるいは昏睡状態がどれほど続くのか……よし、次は少し薬の量を増やしてみるか」

 ブートレット公宮内の医務局で、一人の男が、点滴液の入った瓶を手に何やらブツブツと呟いている。

 瓶の蓋を開け、懐から取り出した透明な液体を入れようとした、その時だった。


 ガシッ


 どこから現れたのか、顔を隠した男が薬瓶を持つ男の手を捕まえた。

「なっ、何?!お前ら、どこから?!」


「アンソニー様!」

 男と一緒に現れたミミが大声で主の名を呼び、医務局の扉を大きく開けた。

「よし、今です!」

 アンソニーに続き、ジャン、ディミトリ、ウィル、そして公国の騎士達と一緒にセベールが部屋に駆け入ってきた。

 年老いた医師の周りを素早く囲み、万が一にも逃げられないようにする。

「犯人はあなただったんだね」

 ジャンが医師に近づくと、影に掴まれて動かせない医師の手から薬瓶を奪い取った。

「これは、ダムシー子爵家で作られていた違法薬物だよね?どうしてこんな物を点滴液に入れようとしてるのかな?」

 ジャンの口調からはいつもの軽い調子が消えていた。

「わ、私は、ただ、栄養剤を追加しようとしていただけです!違法薬物など!」

「栄養剤ねえ。この液体を調べればすぐにわかることだけどね」

「ほ、本当です!ポールさんの治療に役立ちそうな薬を探していた時に、いい薬があると聞いて購入したんです!」

「ふーん。その薬を売っていたのはこの男かな?」

 ジャンの言葉に全員が振り向いた。そこには、糸目の男が後ろ手に縛られた男を連行してきていた。

「ギリギリ間に合いましたね。もう少しで売人に逃げられてしまう所でしたよ」

 抵抗を諦めた男を前に押し出しながら、トマスが言う。

「よくやってくれた。トマス」

「王命とあらば、この命に替えても」

 ウィルの労いにトマスの糸目が更に細められた。


「それで、そこの爺さんに見覚えは?」

 トマスが連行している男に問う。

「ああ。一月ほど前に俺が薬を売った相手だ。結構な値段をふっかけたが、ダムシー子爵邸から出てきた物だと言ったら、喜んで大金をはたいていたからな。よく覚えているぜ」

「わしは知らん!こんな男など知らん!ええい、放せ!わしは大公家お抱えの筆頭医師だぞ!」

 騎士達に拘束されまいと、暴れて抵抗する医師にセベールが優しく語りかけた。

「その大公家から、あなたを拷問にかける許可をいただきましたよ。お年寄りにあまり非道いことはしたくありませんので、できるだけ素直にお話いただいた方がいいと思いますよ」

「そ、そんな!公世子殿下!これは何かの間違いです!私は無実です!」

「ふっ、舐められたものだな。大公家の足下でこのような大罪を犯すとは。……連れて行け!」

 ディミトリの命令に騎士達とセベールが老医師を部屋から連れ出す。公宮の廊下には医師の怒号が響き渡っていた。


 =======================


 老医師のことはセベールに任せ、一同は一度ポールの眠る部屋に戻った。

「トニー様!」

「ウィル様!」

「ジャン様!」

 クラリス、アリス、イメルダの三人が開いた扉に駆け寄る。

「犯人は無事捕縛したよ。メル、ごめんね、急ぎで薬の成分を分析しなきゃいけないんだ。アリス、一緒に来てくれる?」

 イメルダをぎゅうぎゅうに抱きしめながらジャンがアリスを見た。

「わかりました。すぐに用意いたします!」

 ジャンの言葉に、ウィルの側に行こうとしていたアリスが踵を返した。

「……ジャン……自分だけずるいぞ」

 ウィルの恨めしそうな声を無視して、ジャンがアンソニーとエラリーに告げる。

「僕とアリスは王国から連れてきた研究員達と一緒に、犯人から没収した薬物の解析をしてくる。エラリーとアンソニーはここでメルとクラリス嬢とポールを守って」

「わかりました」

「わかった」

「まだ何か危険なことがあるんですか?」

 緊迫した空気に、クラリスが不安そうに尋ねる。

「犯人が一人だとは限らないからね。仲間がまだ公宮内にいるかもしれないし、追い詰められた奴は何をするかわからないからね」

 ジャンが厳しい口調で答えた。

「ディミトリ、ディミトリも一緒に研究所に来てもらえる?君がいれば、抑止力になる」

「あまり有難い役目ではないがね……承知した」

「ウィルも一緒に来るんでしょ?」

 ジャンが思い出したようにウィルに声をかける。

「もちろんだ。アリスを守るのは私だからね」

「さあ、支度できましたわ!急ぎましょう!」

 準備を整えたアリスの号令に、皆が一斉に頷いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない

陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」 デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。 そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。 いつの間にかパトロンが大量発生していた。 ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

悪役令嬢に転生するも魔法に夢中でいたら王子に溺愛されました

黒木 楓
恋愛
旧題:悪役令嬢に転生するも魔法を使えることの方が嬉しかったから自由に楽しんでいると、王子に溺愛されました  乙女ゲームの悪役令嬢リリアンに転生していた私は、転生もそうだけどゲームが始まる数年前で子供の姿となっていることに驚いていた。  これから頑張れば悪役令嬢と呼ばれなくなるのかもしれないけど、それよりもイメージすることで体内に宿る魔力を消費して様々なことができる魔法が使えることの方が嬉しい。  もうゲーム通りになるのなら仕方がないと考えた私は、レックス王子から婚約破棄を受けて没落するまで自由に楽しく生きようとしていた。  魔法ばかり使っていると魔力を使い過ぎて何度か倒れてしまい、そのたびにレックス王子が心配して数年後、ようやくヒロインのカレンが登場する。  私は公爵令嬢も今年までかと考えていたのに、レックス殿下はカレンに興味がなさそうで、常に私に構う日々が続いていた。

《完》義弟と継母をいじめ倒したら溺愛ルートに入りました。何故に?

桐生桜月姫
恋愛
公爵令嬢たるクラウディア・ローズバードは自分の前に現れた天敵たる天才な義弟と継母を追い出すために、たくさんのクラウディアの思う最高のいじめを仕掛ける。 だが、義弟は地味にずれているクラウディアの意地悪を糧にしてどんどん賢くなり、継母は陰ながら?クラウディアをものすっごく微笑ましく眺めて溺愛してしまう。 「もう!どうしてなのよ!!」 クラウディアが気がつく頃には外堀が全て埋め尽くされ、大変なことに!? 天然混じりの大人びている?少女と、冷たい天才義弟、そして変わり者な継母の家族の行方はいかに!?

転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎

水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。 もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。 振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!! え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!? でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!? と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう! 前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい! だからこっちに熱い眼差しを送らないで! 答えられないんです! これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。 または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。 小説家になろうでも投稿してます。 こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。

【完結】引きこもりが異世界でお飾りの妻になったら「愛する事はない」と言った夫が溺愛してきて鬱陶しい。

千紫万紅
恋愛
男爵令嬢アイリスは15歳の若さで冷徹公爵と噂される男のお飾りの妻になり公爵家の領地に軟禁同然の生活を強いられる事になった。 だがその3年後、冷徹公爵ラファエルに突然王都に呼び出されたアイリスは「女性として愛するつもりは無いと」言っていた冷徹公爵に、「君とはこれから愛し合う夫婦になりたいと」宣言されて。 いやでも、貴方……美人な平民の恋人いませんでしたっけ……? と、お飾りの妻生活を謳歌していた 引きこもり はとても嫌そうな顔をした。

「転生したら推しの悪役宰相と婚約してました!?」〜推しが今日も溺愛してきます〜 (旧題:転生したら報われない悪役夫を溺愛することになった件)

透子(とおるこ)
恋愛
読んでいた小説の中で一番好きだった“悪役宰相グラヴィス”。 有能で冷たく見えるけど、本当は一途で優しい――そんな彼が、報われずに処刑された。 「今度こそ、彼を幸せにしてあげたい」 そう願った瞬間、気づけば私は物語の姫ジェニエットに転生していて―― しかも、彼との“政略結婚”が目前!? 婚約から始まる、再構築系・年の差溺愛ラブ。 “報われない推し”が、今度こそ幸せになるお話。

悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。

槙村まき
恋愛
 スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。  それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。  挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。  そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……! 第二章以降は、11時と23時に更新予定です。 他サイトにも掲載しています。 よろしくお願いします。 25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!

処理中です...