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想いを繋げて
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ディミトリの言葉に皆が食堂の奥を振り向いた時、階段を降りてくるフレデリックが見えた。
「フレディ、クラリスは?」
ポールが少し心配そうに尋ねる。
「ああ。今支度をしているところだ。もうすぐ降りてくるだろう……皆さま、妹がお待たせしてしまい、大変申し訳ございません」
フレデリックが深々と頭を下げた。クラリスの両親も並んで頭を下げる。
一介の平民が、王族をはじめ高位貴族の面々を待たせるなど、本来なら絶対にあってはならないことだ。
「フレデリック殿、ご両親、何も謝られることはありませんよ」
「そうそう。女性が支度するほんの少しの間も待てないような野暮な男はここにはいないよ」
アンソニーとジャンがにこやかに言い、ウィルとディミトリも微笑んで頷く。
「あら、ジャンの目にはイメルダさんと私も男性に見えているのかしら?」
ジャンの言葉にアリスが皮肉を返した。ジャンは涼しい顔でイメルダを抱き寄せる。
「アリスはともかく、僕のメルはどこからどう見ても完璧な淑女だよ」
「なんですっ……」
アリスが吠えるより早くウィルがアリスを引き寄せ、ジャンにほほ笑む。
「……ジャン?ちょっと聞き捨てならないな。私のアリスはどこに出しても恥ずかしくない完全無欠な貴婦人だが」
ジャンとウィルの二人がそれぞれイメルダとアリスの腰を抱きつつ、黒い笑顔を浮かべ、相手を牽制する。アリスとイメルダは下を向いて俯くほかない。
「皆さま!お待たせしてしまい、大変申し訳ございません!」
周囲の温度が一、二度下がったところに、クラリスが息を切らして階段を駆け降りてきた。
「クラリス!階段を走ったら危ないぞ!」
すかさずポールが階段下に移動する。
「もう、子供扱いして!」
階段を降りたところで、クラリスがポールに対して頬を膨らませた。
「ああ、いつまでたってもお前は俺の可愛い妹分だよ」
ポールがニヤッと笑うと、クラリスの頭を少し乱暴にクシャクシャと撫でた。
ポールの言葉に、クラリスが大きく目を見開く。
「ほら、みんなにちゃんと言わなきゃだろ」
「ポールお兄ちゃん……ありがとう……」
ポールに優しく背中を押され、クラリスは皆に向かって勢いよく頭を下げた。
「皆さま、お待たせしてしまい、本当に申し訳ありませんでした。重ねて申し訳ないのですが……私は、公国には行きません……!」
「クラリス嬢?!それはいったい……」
アンソニーが驚きの声をあげる。
「やっぱり王国の学園をちゃんと卒業することにしたんだよな」
ポールのフォローにクラリスが微妙な表情で頷いた。
「うん……でも、退学届と編入届を取り消さなきゃ……間に合うかな……」
「ん?編入届とはこれのことかな?」
ディミトリがにこやかに微笑みながら、懐から書類を取り出した。
「え?は、はい、そちらは確かに私が出した書類です!」
「そして、退学届はこちらかな」
今度はウィルが懐から書類を出して広げる。
「え?え?どうしてお二人がそれを……?!」
「僕がお願いしたんだ。クラリス嬢から提出される書類を止めておいて欲しいって」
ジャンがにこにこ笑いながら答えた。
「え?ジャン様が?どうしてですか?」
「俺がジャンに頼んだんだよ。ウィルとディミトリに伝えて欲しいってな」
「……ポールお兄ちゃんが?!」
「ああ。俺はお前を公国に連れて行くつもりはなかったんだ……お前が心からそう望まない限りは」
「そんな……」
「クラリス嬢、君はこのまま順当に行けば王国の学園の二年生、Sクラスの生徒になる。それでいいかな?」
呆然とするクラリスに、ウィルが優しく言い聞かせるように告げる。
「私としては、優秀な人材が一人でも多く公国に来てくれることを望むんだが。他ならぬポールの頼みとあればね。この書類はなかったものとしていいんだよね?」
ディミトリが笑みを浮かべたまま、確認した。
「ウィル様……ディミトリ様……」
「それでいいんだよな?クラリス?」
固まったまま言葉をなくしているクラリスを気遣うように、ポールがクラリスの顔を覗き込んだ。
「ポールお兄ちゃん、どうして……?」
クラリスが呆然としたまま、ポールを見上げた。
「ばーか。俺はお前の『お兄ちゃん』だぞ。お前の気持ちなんてお見通しだ。ってわけで、アンソニー。俺の妹分を頼んだぞ」
ポールは優しく笑うと、アンソニーの方にクラリスの背をポンと押した。
「これは……いったい……」
目を丸くしたまま動けないアンソニーとクラリスに優しい笑顔を向け、ポールはウィルとディミトリに頷いた。
「ウィル、ディミトリ」
ポールの頷きを受けて、ウィルとディミトリは手にしていた書類を、音を立てて破った。
「……これでいい。さ、ディミトリ、そろそろ行こうぜ」
「あ、ポール、これは僕から。念のために持っていて」
馬車に向かって歩き出したポールにジャンが頑丈そうな小箱を手渡した。
「ジャン。ありがとな」
「ポールお兄ちゃん!」
ジャンにお礼を言って馬車に乗り込もうとするポールをクラリスが引き留めた。
「ポールお兄ちゃん……ありがとう。ごめ……」
「ばーか。謝ることは何もないよ。……元気でな。クラリス」
「ん!」
クラリスは涙を堪えて笑顔を見せた。
「フレディ、クラリスは?」
ポールが少し心配そうに尋ねる。
「ああ。今支度をしているところだ。もうすぐ降りてくるだろう……皆さま、妹がお待たせしてしまい、大変申し訳ございません」
フレデリックが深々と頭を下げた。クラリスの両親も並んで頭を下げる。
一介の平民が、王族をはじめ高位貴族の面々を待たせるなど、本来なら絶対にあってはならないことだ。
「フレデリック殿、ご両親、何も謝られることはありませんよ」
「そうそう。女性が支度するほんの少しの間も待てないような野暮な男はここにはいないよ」
アンソニーとジャンがにこやかに言い、ウィルとディミトリも微笑んで頷く。
「あら、ジャンの目にはイメルダさんと私も男性に見えているのかしら?」
ジャンの言葉にアリスが皮肉を返した。ジャンは涼しい顔でイメルダを抱き寄せる。
「アリスはともかく、僕のメルはどこからどう見ても完璧な淑女だよ」
「なんですっ……」
アリスが吠えるより早くウィルがアリスを引き寄せ、ジャンにほほ笑む。
「……ジャン?ちょっと聞き捨てならないな。私のアリスはどこに出しても恥ずかしくない完全無欠な貴婦人だが」
ジャンとウィルの二人がそれぞれイメルダとアリスの腰を抱きつつ、黒い笑顔を浮かべ、相手を牽制する。アリスとイメルダは下を向いて俯くほかない。
「皆さま!お待たせしてしまい、大変申し訳ございません!」
周囲の温度が一、二度下がったところに、クラリスが息を切らして階段を駆け降りてきた。
「クラリス!階段を走ったら危ないぞ!」
すかさずポールが階段下に移動する。
「もう、子供扱いして!」
階段を降りたところで、クラリスがポールに対して頬を膨らませた。
「ああ、いつまでたってもお前は俺の可愛い妹分だよ」
ポールがニヤッと笑うと、クラリスの頭を少し乱暴にクシャクシャと撫でた。
ポールの言葉に、クラリスが大きく目を見開く。
「ほら、みんなにちゃんと言わなきゃだろ」
「ポールお兄ちゃん……ありがとう……」
ポールに優しく背中を押され、クラリスは皆に向かって勢いよく頭を下げた。
「皆さま、お待たせしてしまい、本当に申し訳ありませんでした。重ねて申し訳ないのですが……私は、公国には行きません……!」
「クラリス嬢?!それはいったい……」
アンソニーが驚きの声をあげる。
「やっぱり王国の学園をちゃんと卒業することにしたんだよな」
ポールのフォローにクラリスが微妙な表情で頷いた。
「うん……でも、退学届と編入届を取り消さなきゃ……間に合うかな……」
「ん?編入届とはこれのことかな?」
ディミトリがにこやかに微笑みながら、懐から書類を取り出した。
「え?は、はい、そちらは確かに私が出した書類です!」
「そして、退学届はこちらかな」
今度はウィルが懐から書類を出して広げる。
「え?え?どうしてお二人がそれを……?!」
「僕がお願いしたんだ。クラリス嬢から提出される書類を止めておいて欲しいって」
ジャンがにこにこ笑いながら答えた。
「え?ジャン様が?どうしてですか?」
「俺がジャンに頼んだんだよ。ウィルとディミトリに伝えて欲しいってな」
「……ポールお兄ちゃんが?!」
「ああ。俺はお前を公国に連れて行くつもりはなかったんだ……お前が心からそう望まない限りは」
「そんな……」
「クラリス嬢、君はこのまま順当に行けば王国の学園の二年生、Sクラスの生徒になる。それでいいかな?」
呆然とするクラリスに、ウィルが優しく言い聞かせるように告げる。
「私としては、優秀な人材が一人でも多く公国に来てくれることを望むんだが。他ならぬポールの頼みとあればね。この書類はなかったものとしていいんだよね?」
ディミトリが笑みを浮かべたまま、確認した。
「ウィル様……ディミトリ様……」
「それでいいんだよな?クラリス?」
固まったまま言葉をなくしているクラリスを気遣うように、ポールがクラリスの顔を覗き込んだ。
「ポールお兄ちゃん、どうして……?」
クラリスが呆然としたまま、ポールを見上げた。
「ばーか。俺はお前の『お兄ちゃん』だぞ。お前の気持ちなんてお見通しだ。ってわけで、アンソニー。俺の妹分を頼んだぞ」
ポールは優しく笑うと、アンソニーの方にクラリスの背をポンと押した。
「これは……いったい……」
目を丸くしたまま動けないアンソニーとクラリスに優しい笑顔を向け、ポールはウィルとディミトリに頷いた。
「ウィル、ディミトリ」
ポールの頷きを受けて、ウィルとディミトリは手にしていた書類を、音を立てて破った。
「……これでいい。さ、ディミトリ、そろそろ行こうぜ」
「あ、ポール、これは僕から。念のために持っていて」
馬車に向かって歩き出したポールにジャンが頑丈そうな小箱を手渡した。
「ジャン。ありがとな」
「ポールお兄ちゃん!」
ジャンにお礼を言って馬車に乗り込もうとするポールをクラリスが引き留めた。
「ポールお兄ちゃん……ありがとう。ごめ……」
「ばーか。謝ることは何もないよ。……元気でな。クラリス」
「ん!」
クラリスは涙を堪えて笑顔を見せた。
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