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永遠の誓い
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「あーあ、行っちゃった。エラリーもポールもいなくなっちゃって、寂しくなるなあ」
ポールとディミトリを乗せた馬車を見送って、ジャンが伸びをしながら言う。
「さて。ウィルとアリスは僕達の馬車に乗るでしょ?」
「ああ、頼む。……トニー、王宮の馬車を使っていいぞ」
ポール達の去って行った方角を見つめたまま動けないアンソニーにウィルが声をかけた。
「え?あ?はい?それはいったい……?」
珍しく動揺を隠せないアンソニーはまだ混乱している。
「アンソニー様、しっかりしてくださいませ!大事な大事な推し……お、お友達をお任せするのですから!」
ウィルの腕から逃げられないままのアリスがアンソニーを叱咤する。
「さあ、クラリス様、アンソニー様とお話されることがおありでしょう?」
ジャンの腕からいつの間に逃れたのか、イメルダが優しくクラリスの手を取り、アンソニーの側へと導いた。
「あ、あ、あの、アンソニー様……私……」
「クラリス嬢……」
「コホン。あー、ご両親、フレデリック殿、アンソニーとクラリス嬢が二人で出かけることをお許しいただけるだろうか」
見つめあったまま動けない二人の代わりに、ウィルがクラリスの家族に許可を取った。
「はい、もちろんです!」
「……ま、まあ、アンソニー様となら……」
「……いいでしょう……クラリス、あまり遅くならないように帰ってくるんだぞ!」
クラリスの母のエリーは満面の笑みで、父のオーリーは渋々ながら、フレデリックは苦虫を噛み潰したような顔で、同意した。
「あ、ありがとうございます!で、では、クラリス嬢、馬車にどうぞ」
ようやく状況を把握したアンソニーが、フレデリック達にお礼を言い、クラリスに向かって右手を差し出した。
「は、はい!」
馬車に乗り込む前に、クラリスは振り返って皆に頭を下げた。
「皆さま、ありがとうございます!」
「クラリスちゃ、さん!アンソニー様に何か嫌なことをされたらすぐにおっしゃってくださいね!オストロー公爵家が全力で抗議いたしますから!」
「……アリス嬢。ご安心ください、私はそこのやらかし王太子とは違いますから」
アリスの言葉に、通常運転に戻ったアンソニーがにっこり微笑むと、何か言いたそうに口をパクパクさせているウィルとアリスを残して馬車の中に消えた。
=======================
「モン・デテルナへ」
アンソニーは御者に行先を告げ、少しだけ距離を開けてクラリスの隣に座った。しばらく互いに何も言えず、黙り込んだまま窓の外を眺める。
市街地を抜け、緑が増えてきた所で、アンソニーがクラリスに声をかけた。
「……クラリス嬢、モン・デテルナを訪ねたことはありますか?」
「いいえ、まだ一度も。ルーマニ時代の遺跡が眠っていると言われている丘ですよね?」
「さすが、よくご存知ですね」
クラリスの答えに、アンソニーがにっこりと微笑んだ。
「『永遠の都』と呼ばれた、ルーマニ時代の都市遺跡が埋もれていると言われていますが、規模が大き過ぎて、発掘は不可能とされています」
「もしかして、今向かっているのはそこですか?」
「ええ」
アンソニーはクラリスと目を合わせて頷いた。
「モン・デテルナの言い伝えはご存知ですか?」
「言い伝え……」
「はい。その、モン・デテルナで、あ、愛を誓い合うと、その、こ、恋人達は永遠に離れることはないという……」
「……は、はい、聞いたことがあります……」
二人とも真っ赤な顔で横を向きながら話す。
「その、これから私とそこに……」
アンソニーの言葉の途中で馬車が止まった。
「……着きましたね……一緒に来てくださいますか?」
先に立ち、馬車の扉を開けると、アンソニーはクラリスに手を差し出した。クラリスは真っ赤な顔のまま頷くと、その手にそっと自身の手を重ねる。
「少し歩きます。もし疲れたらご遠慮なくおっしゃってくださいね」
「はい。大丈夫です。体力には自信がありますから!」
繋がれていない方の手で小さく握り拳を作ってみせるクラリスに、アンソニーは愛おしくて堪らないという笑顔で応えた。
=====================
「うわあ!すごい!」
樹々の間をしばらく歩くと、急に開けた場所に出た。目の前には青々とした草原が広がり、空はどこまでも高く澄み、気持ちのいい風が吹いている。
王都を一望できるほど高い丘からの眺めに、クラリスは歓声を上げた。アンソニーと繋いでいた手を放し、草原に向かって駆け出す。
「あ、そんなに走ったら危ないですよ!」
アンソニーが慌ててクラリスの後を追った。
「まったく……あなたという人はどんなにしっかり手を繋いでいても、すぐに離れて行ってしまうんですから」
少しも息を切らすことなく、易々と追いついたアンソニーが、再びクラリスの手を取る。
「あ!すみません!こんなに素晴らしい景色を見たのは初めてだったので、つい興奮して……」
「ふふ。喜んでいただけたなら何よりです」
二人は手を繋いだまま、眼下に広がる王都の情景を眺める。
「あれは王宮ですね!これだけ離れていてもすぐにわかりますね、やっぱりすごく大きいですね!」
「そうですね。あ、王宮から少し東に行ったあちら、あれが我がハートネット公爵家の王都の屋敷です。見えますか?」
「あの、緑がたくさんある所ですか?」
「そうです。亡くなった母の意向で、庭が小さな森みたいになっているんですよ」
「まあ……」
王都のど真ん中にも関わらず広大な敷地を有するハートネット公爵家の力にクラリスは圧倒される。そんなクラリスに、アンソニーは真っ直ぐに向き合った。
「……クラリス嬢。私はいずれ公爵家を継がなければなりません。宰相の地位は、必ずしも継ぐとは限りませんが、ウィル様の側近という立場を捨てることはないでしょう。私の背負っているものは決して軽くはなく、私の伴侶となる方にも重責を負わせることは間違いありません」
「アンソニー様……」
「それでも、私はあなたに隣にいて欲しいと望んでしまう……あなたが苦労することがわかりきっているのに、です」
「……」
アンソニーはクラリスの手を握ったまま跪いた。
「あなたには多くの苦労をかけてしまうと思います。ですが、それ以上の喜びを与えられるよう、この命をかけて、あなたを守ります。ですから……どうか、私と共に生きてはいただけませんか」
右手でクラリスの手を取り、左手を自身の胸に当て、アンソニーは真剣な表情でクラリスを見上げた。
「……」
クラリスはしばらく何も言えずにいたが、やがて意を決したようにアンソニーの手をギュッと握り返した。
「アンソ、……ト、トニー様。私は生まれも育ちも平民で、次期公爵様でいらっしゃるトニー様には相応しくないことはわかっています。でも、私も……それでも、トニー様と一緒にいたいんです!私を……私を……お側に置いていただけますか……?」
「!」
クラリスの答えを聞いたアンソニーが勢いよく立ち上がり、繋いでいた手を引くと、クラリスを腕の中に閉じ込めた。
「クラリス嬢……!ありがとうございます!私を選んでくださったことを、絶対に後悔はさせないと誓います……!」
「ト、トニー様こそ、後で悔やんだりなさらないでくださいね?」
「そんなことはあり得ません!あなたが私のことを嫌いになったと言っても、もう放してあげることはできませんから。覚悟しておいてくださいね?」
アンソニーは愛おしそうにクラリスを見つめ、その柔らかな頬にそっと手を当てる。
クラリスは真っ赤になった顔を隠そうとして、下を向こうとするが、アンソニーの手が優しくそれを制した。
アンソニーの顔がゆっくりと近づいてくる。クラリスは逃げずに瞳を閉じると、その唇を自身の唇で受け止めた。
~~~~~~~~~~~~ to be continued
ポールとディミトリを乗せた馬車を見送って、ジャンが伸びをしながら言う。
「さて。ウィルとアリスは僕達の馬車に乗るでしょ?」
「ああ、頼む。……トニー、王宮の馬車を使っていいぞ」
ポール達の去って行った方角を見つめたまま動けないアンソニーにウィルが声をかけた。
「え?あ?はい?それはいったい……?」
珍しく動揺を隠せないアンソニーはまだ混乱している。
「アンソニー様、しっかりしてくださいませ!大事な大事な推し……お、お友達をお任せするのですから!」
ウィルの腕から逃げられないままのアリスがアンソニーを叱咤する。
「さあ、クラリス様、アンソニー様とお話されることがおありでしょう?」
ジャンの腕からいつの間に逃れたのか、イメルダが優しくクラリスの手を取り、アンソニーの側へと導いた。
「あ、あ、あの、アンソニー様……私……」
「クラリス嬢……」
「コホン。あー、ご両親、フレデリック殿、アンソニーとクラリス嬢が二人で出かけることをお許しいただけるだろうか」
見つめあったまま動けない二人の代わりに、ウィルがクラリスの家族に許可を取った。
「はい、もちろんです!」
「……ま、まあ、アンソニー様となら……」
「……いいでしょう……クラリス、あまり遅くならないように帰ってくるんだぞ!」
クラリスの母のエリーは満面の笑みで、父のオーリーは渋々ながら、フレデリックは苦虫を噛み潰したような顔で、同意した。
「あ、ありがとうございます!で、では、クラリス嬢、馬車にどうぞ」
ようやく状況を把握したアンソニーが、フレデリック達にお礼を言い、クラリスに向かって右手を差し出した。
「は、はい!」
馬車に乗り込む前に、クラリスは振り返って皆に頭を下げた。
「皆さま、ありがとうございます!」
「クラリスちゃ、さん!アンソニー様に何か嫌なことをされたらすぐにおっしゃってくださいね!オストロー公爵家が全力で抗議いたしますから!」
「……アリス嬢。ご安心ください、私はそこのやらかし王太子とは違いますから」
アリスの言葉に、通常運転に戻ったアンソニーがにっこり微笑むと、何か言いたそうに口をパクパクさせているウィルとアリスを残して馬車の中に消えた。
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「モン・デテルナへ」
アンソニーは御者に行先を告げ、少しだけ距離を開けてクラリスの隣に座った。しばらく互いに何も言えず、黙り込んだまま窓の外を眺める。
市街地を抜け、緑が増えてきた所で、アンソニーがクラリスに声をかけた。
「……クラリス嬢、モン・デテルナを訪ねたことはありますか?」
「いいえ、まだ一度も。ルーマニ時代の遺跡が眠っていると言われている丘ですよね?」
「さすが、よくご存知ですね」
クラリスの答えに、アンソニーがにっこりと微笑んだ。
「『永遠の都』と呼ばれた、ルーマニ時代の都市遺跡が埋もれていると言われていますが、規模が大き過ぎて、発掘は不可能とされています」
「もしかして、今向かっているのはそこですか?」
「ええ」
アンソニーはクラリスと目を合わせて頷いた。
「モン・デテルナの言い伝えはご存知ですか?」
「言い伝え……」
「はい。その、モン・デテルナで、あ、愛を誓い合うと、その、こ、恋人達は永遠に離れることはないという……」
「……は、はい、聞いたことがあります……」
二人とも真っ赤な顔で横を向きながら話す。
「その、これから私とそこに……」
アンソニーの言葉の途中で馬車が止まった。
「……着きましたね……一緒に来てくださいますか?」
先に立ち、馬車の扉を開けると、アンソニーはクラリスに手を差し出した。クラリスは真っ赤な顔のまま頷くと、その手にそっと自身の手を重ねる。
「少し歩きます。もし疲れたらご遠慮なくおっしゃってくださいね」
「はい。大丈夫です。体力には自信がありますから!」
繋がれていない方の手で小さく握り拳を作ってみせるクラリスに、アンソニーは愛おしくて堪らないという笑顔で応えた。
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「うわあ!すごい!」
樹々の間をしばらく歩くと、急に開けた場所に出た。目の前には青々とした草原が広がり、空はどこまでも高く澄み、気持ちのいい風が吹いている。
王都を一望できるほど高い丘からの眺めに、クラリスは歓声を上げた。アンソニーと繋いでいた手を放し、草原に向かって駆け出す。
「あ、そんなに走ったら危ないですよ!」
アンソニーが慌ててクラリスの後を追った。
「まったく……あなたという人はどんなにしっかり手を繋いでいても、すぐに離れて行ってしまうんですから」
少しも息を切らすことなく、易々と追いついたアンソニーが、再びクラリスの手を取る。
「あ!すみません!こんなに素晴らしい景色を見たのは初めてだったので、つい興奮して……」
「ふふ。喜んでいただけたなら何よりです」
二人は手を繋いだまま、眼下に広がる王都の情景を眺める。
「あれは王宮ですね!これだけ離れていてもすぐにわかりますね、やっぱりすごく大きいですね!」
「そうですね。あ、王宮から少し東に行ったあちら、あれが我がハートネット公爵家の王都の屋敷です。見えますか?」
「あの、緑がたくさんある所ですか?」
「そうです。亡くなった母の意向で、庭が小さな森みたいになっているんですよ」
「まあ……」
王都のど真ん中にも関わらず広大な敷地を有するハートネット公爵家の力にクラリスは圧倒される。そんなクラリスに、アンソニーは真っ直ぐに向き合った。
「……クラリス嬢。私はいずれ公爵家を継がなければなりません。宰相の地位は、必ずしも継ぐとは限りませんが、ウィル様の側近という立場を捨てることはないでしょう。私の背負っているものは決して軽くはなく、私の伴侶となる方にも重責を負わせることは間違いありません」
「アンソニー様……」
「それでも、私はあなたに隣にいて欲しいと望んでしまう……あなたが苦労することがわかりきっているのに、です」
「……」
アンソニーはクラリスの手を握ったまま跪いた。
「あなたには多くの苦労をかけてしまうと思います。ですが、それ以上の喜びを与えられるよう、この命をかけて、あなたを守ります。ですから……どうか、私と共に生きてはいただけませんか」
右手でクラリスの手を取り、左手を自身の胸に当て、アンソニーは真剣な表情でクラリスを見上げた。
「……」
クラリスはしばらく何も言えずにいたが、やがて意を決したようにアンソニーの手をギュッと握り返した。
「アンソ、……ト、トニー様。私は生まれも育ちも平民で、次期公爵様でいらっしゃるトニー様には相応しくないことはわかっています。でも、私も……それでも、トニー様と一緒にいたいんです!私を……私を……お側に置いていただけますか……?」
「!」
クラリスの答えを聞いたアンソニーが勢いよく立ち上がり、繋いでいた手を引くと、クラリスを腕の中に閉じ込めた。
「クラリス嬢……!ありがとうございます!私を選んでくださったことを、絶対に後悔はさせないと誓います……!」
「ト、トニー様こそ、後で悔やんだりなさらないでくださいね?」
「そんなことはあり得ません!あなたが私のことを嫌いになったと言っても、もう放してあげることはできませんから。覚悟しておいてくださいね?」
アンソニーは愛おしそうにクラリスを見つめ、その柔らかな頬にそっと手を当てる。
クラリスは真っ赤になった顔を隠そうとして、下を向こうとするが、アンソニーの手が優しくそれを制した。
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