(私が)酔って襲った氷の貴公子様にいつの間にか外堀を埋められてました。

黒田悠月

文字の大きさ
12 / 12

トラウマ

しおりを挟む
人間、パニックだったり泥酔してたりってしているその最中はたいがい恥ずかしい真似をしていても結構平気だったりする。
何故ならそこまで頭回ってないから。

そして後になって、後悔したり羞恥に悶たりするのだ。


ーー今現在の私みたいに。





…………って、コレどうしたらいいの?

おかげ様でまともに息が出来るようになって、身体も楽になってすると頭も回るようになって。
自分自身の状況も理解できるようなできないようなーーうむ、なんちゅーか、今度は違う意味でパニックになりかけている私。
ルーディン・ルールー18才。未婚の恋人なし。

ただいま男性に膝抱っこされています。


いや、なに自分を状況を解説してるんだか。
収まってきていたはずの心臓がまたバクバク言っている。

アル様の胸ってこんなにがっしりとして広かったっけ?
この前抱き込まれた時も感じたことだけれど、アル様の腕の中はちゃんと大人の男の人なんだって感じがする。
しっかりと筋肉がついた腕に胸。膝を乗せた太腿も感触は硬い。
ほのかに香ってくるコロンの匂いは昔と同じかな?
けどほんのり甘い匂いの中に前は感じなかったどこか男臭い、汗?みたいな匂いも混ざっている気がする。

ギュッと抱きしめられていると、何かを思い出す気がした。なんだろう?と思ってすぐに思い当たったものに焦る。

ーー夢だ。

つい最近身でしまった恥ずかしすぎる夢。
なんだって現実のあれこれは忘れているクセに夢のあれこれは忘れないんだ、私。

うにゃあああ……っと頭を抱えたくなって、ついでにいたたまれなさに全身うずうずモゾモゾして、アル様の胸の中でゴソゴソしてたら、

「ルー?」

と名を呼ばれた。
ほんの少し抱き込まれていた腕が緩んで、隙間が空いたと思えば間近に顔を覗き込まれる。

昔よりも精悍になって色っぽくもなったその見目麗しい尊顔にやっぱり大人の男の人を感じてしまって頭に血が上る。
鏡を見なくても自分の顔が耳まで真っ赤になっているのがわかった。

「ぁ、ア……アリュ、アル、さま」
「うん?」

……やめれっ!
妙に色っぽく目を細めるのは反則だからっ!
一定水準以上のイケメンのそれはもはや女子にとって兇器だからっ!!

そして腰に回していた手を頬に移動させるのもやめてくださいっ!

他人の顔を上向かせるなっ!近づいてくんなっ!


オデコとオデコでツンとかすんな~!!!!


ーーもう私のライフはゼロよ。

からっきしだよ、と私は空ろな目でアル様を見上げた。


「……ルー?」
「はへ?」

あんまり私が抜け殻になっているからか、いまだにオデコとオデコごっちんなまんまのアル様が訝しそうに私を呼んだ。

「大丈夫か?ーー熱はないようだが」

熱?ああ熱ね。これ、オデコで熱を測ってたのか。
ならそろそろ離してよろしいんでないかね。

昔、私はああなった後によく熱を出していた。
そのまま数日間寝込むこともあって、その度にレニーとアル様とお嬢様に交互に熱を測られたのを思い出す。

私はこの屋敷に来るよりも少し前からとこの屋敷に来て数年ほど、さっきみたいな症状というか発作というかに頻繁に襲われていた。
私のアレは病気というわけではなく、むしろ身体的には健康優良児で、では何かというと精神的なもの。

いわゆるトラウマから来るものであるらしい。

狭くて暗い場所。
一人きり。

それらが合わさってそれを私がそうと認識し、意識した途端。勝手に頭はパニックになって身体はどうしようもなく震えて苦しくて息が上手く出来なくなる。
それは私たち姉弟がこの屋敷に来ることになった要因で、
私たち姉弟が以来ただの一度も家族の元に帰っていないことの要因だ。

10年以上前。
まだ子供だった私の我儘が、私の家族に修復のできないヒビを入れた。

母を殺し、父を壊し、兄を壊し、私を壊し、弟を歪ませた。

私の家族というドールハウスの入った硝子瓶は隙間もないほどヒビ割れほんの少しの衝撃を与えるだけで粉々に壊れるところだった。

寸前で、アル様の父親ーーハルトバレル候爵家の旦那様が行儀見習いという名目で私とレニーを半ば無理矢理に連れ出してくれたから、たぶん私はギリギリ私を保っていられたのだと思う。


どうせ忘れるのなら、あの記憶こそを忘れさせてくれればいいのに。

母親を、父にとっての妻を殺した私の罪はそう簡単には私を許してはくれないらしい。
だってその証拠に私の身体は折に触れてこうして思い出せと責めたててくる。

あるいはすべてを忘れてしまえば忘れられるのだろうか。
私の一番深い深い記憶の一番奥深くにあるものならば、他のすべてを忘れてしまって、そうしてようやく忘れられるのだろうか。

あぁそうか。と私はアル様の顔を見上げながら思う。
全部忘れてしまったらもうーー捨てられることも怖くないんだ。

それはきっと、すごく、すごく楽なことなのかも知れない。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


タグに(時々シリアス)を追加しました。

しおりを挟む
感想 34

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(34件)

あしろ
2022.12.29 あしろ

ずっと更新されてないんですね。続きが気になりすぎるのですが…!

解除
れんにゅう
2022.02.22 れんにゅう

更新待ってます

解除
泉
2019.10.31

そのままパクッとщ(゚д゚щ)カモーン

解除

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。 右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。 そんな乙女ゲームのようなお話。

押しつけられた身代わり婚のはずが、最上級の溺愛生活が待っていました

cheeery
恋愛
名家・御堂家の次女・澪は、一卵性双生の双子の姉・零と常に比較され、冷遇されて育った。社交界で華やかに振る舞う姉とは対照的に、澪は人前に出されることもなく、ひっそりと生きてきた。 そんなある日、姉の零のもとに日本有数の財閥・凰条一真との縁談が舞い込む。しかし凰条一真の悪いウワサを聞きつけた零は、「ブサイクとの結婚なんて嫌」と当日に逃亡。 双子の妹、澪に縁談を押し付ける。 両親はこんな機会を逃すわけにはいかないと、顔が同じ澪に姉の代わりになるよう言って送り出す。 「はじめまして」 そうして出会った凰条一真は、冷徹で金に汚いという噂とは異なり、端正な顔立ちで品位のある落ち着いた物腰の男性だった。 なんてカッコイイ人なの……。 戸惑いながらも、澪は姉の零として振る舞うが……澪は一真を好きになってしまって──。 「澪、キミを探していたんだ」 「キミ以外はいらない」

結婚結婚煩いので、愛人持ちの幼馴染と偽装結婚してみた

夏菜しの
恋愛
 幼馴染のルーカスの態度は、年頃になっても相変わらず気安い。  彼のその変わらぬ態度のお陰で、周りから男女の仲だと勘違いされて、公爵令嬢エーデルトラウトの相手はなかなか決まらない。  そんな現状をヤキモキしているというのに、ルーカスの方は素知らぬ顔。  彼は思いのままに平民の娘と恋人関係を持っていた。  いっそそのまま結婚してくれれば、噂は間違いだったと知れるのに、あちらもやっぱり公爵家で、平民との結婚など許さんと反対されていた。  のらりくらりと躱すがもう限界。  いよいよ親が煩くなってきたころ、ルーカスがやってきて『偽装結婚しないか?』と提案された。  彼の愛人を黙認する代わりに、贅沢と自由が得られる。  これで煩く言われないとすると、悪くない提案じゃない?  エーデルトラウトは軽い気持ちでその提案に乗った。

完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました

らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。 そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。 しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような… 完結決定済み

公爵様のバッドエンドを回避したいだけだったのに、なぜか溺愛されています

六花心碧
恋愛
お気に入り小説の世界で名前すら出てこないモブキャラに転生してしまった! 『推しのバッドエンドを阻止したい』 そう思っただけなのに、悪女からは脅されるし、小説の展開はどんどん変わっていっちゃうし……。 推しキャラである公爵様の反逆を防いで、見事バッドエンドを回避できるのか……?! ゆるくて、甘くて、ふわっとした溺愛ストーリーです➴⡱ ◇2025.3 日間・週間1位いただきました!HOTランキングは最高3位いただきました!  皆様のおかげです、本当にありがとうございました(ˊᗜˋ*) (外部URLで登録していたものを改めて登録しました! ◇他サイト様でも公開中です)

【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~

降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。