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トラウマ
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人間、パニックだったり泥酔してたりってしているその最中はたいがい恥ずかしい真似をしていても結構平気だったりする。
何故ならそこまで頭回ってないから。
そして後になって、後悔したり羞恥に悶たりするのだ。
ーー今現在の私みたいに。
…………って、コレどうしたらいいの?
おかげ様でまともに息が出来るようになって、身体も楽になってすると頭も回るようになって。
自分自身の状況も理解できるようなできないようなーーうむ、なんちゅーか、今度は違う意味でパニックになりかけている私。
ルーディン・ルールー18才。未婚の恋人なし。
ただいま男性に膝抱っこされています。
いや、なに自分を状況を解説してるんだか。
収まってきていたはずの心臓がまたバクバク言っている。
アル様の胸ってこんなにがっしりとして広かったっけ?
この前抱き込まれた時も感じたことだけれど、アル様の腕の中はちゃんと大人の男の人なんだって感じがする。
しっかりと筋肉がついた腕に胸。膝を乗せた太腿も感触は硬い。
ほのかに香ってくるコロンの匂いは昔と同じかな?
けどほんのり甘い匂いの中に前は感じなかったどこか男臭い、汗?みたいな匂いも混ざっている気がする。
ギュッと抱きしめられていると、何かを思い出す気がした。なんだろう?と思ってすぐに思い当たったものに焦る。
ーー夢だ。
つい最近身でしまった恥ずかしすぎる夢。
なんだって現実のあれこれは忘れているクセに夢のあれこれは忘れないんだ、私。
うにゃあああ……っと頭を抱えたくなって、ついでにいたたまれなさに全身うずうずモゾモゾして、アル様の胸の中でゴソゴソしてたら、
「ルー?」
と名を呼ばれた。
ほんの少し抱き込まれていた腕が緩んで、隙間が空いたと思えば間近に顔を覗き込まれる。
昔よりも精悍になって色っぽくもなったその見目麗しい尊顔にやっぱり大人の男の人を感じてしまって頭に血が上る。
鏡を見なくても自分の顔が耳まで真っ赤になっているのがわかった。
「ぁ、ア……アリュ、アル、さま」
「うん?」
……やめれっ!
妙に色っぽく目を細めるのは反則だからっ!
一定水準以上のイケメンのそれはもはや女子にとって兇器だからっ!!
そして腰に回していた手を頬に移動させるのもやめてくださいっ!
他人の顔を上向かせるなっ!近づいてくんなっ!
オデコとオデコでツンとかすんな~!!!!
ーーもう私のライフはゼロよ。
からっきしだよ、と私は空ろな目でアル様を見上げた。
「……ルー?」
「はへ?」
あんまり私が抜け殻になっているからか、いまだにオデコとオデコごっちんなまんまのアル様が訝しそうに私を呼んだ。
「大丈夫か?ーー熱はないようだが」
熱?ああ熱ね。これ、オデコで熱を測ってたのか。
ならそろそろ離してよろしいんでないかね。
昔、私はああなった後によく熱を出していた。
そのまま数日間寝込むこともあって、その度にレニーとアル様とお嬢様に交互に熱を測られたのを思い出す。
私はこの屋敷に来るよりも少し前からとこの屋敷に来て数年ほど、さっきみたいな症状というか発作というかに頻繁に襲われていた。
私のアレは病気というわけではなく、むしろ身体的には健康優良児で、では何かというと精神的なもの。
いわゆるトラウマから来るものであるらしい。
狭くて暗い場所。
一人きり。
それらが合わさってそれを私がそうと認識し、意識した途端。勝手に頭はパニックになって身体はどうしようもなく震えて苦しくて息が上手く出来なくなる。
それは私たち姉弟がこの屋敷に来ることになった要因で、
私たち姉弟が以来ただの一度も家族の元に帰っていないことの要因だ。
10年以上前。
まだ子供だった私の我儘が、私の家族に修復のできないヒビを入れた。
母を殺し、父を壊し、兄を壊し、私を壊し、弟を歪ませた。
私の家族というドールハウスの入った硝子瓶は隙間もないほどヒビ割れほんの少しの衝撃を与えるだけで粉々に壊れるところだった。
寸前で、アル様の父親ーーハルトバレル候爵家の旦那様が行儀見習いという名目で私とレニーを半ば無理矢理に連れ出してくれたから、たぶん私はギリギリ私を保っていられたのだと思う。
どうせ忘れるのなら、あの記憶こそを忘れさせてくれればいいのに。
母親を、父にとっての妻を殺した私の罪はそう簡単には私を許してはくれないらしい。
だってその証拠に私の身体は折に触れてこうして思い出せと責めたててくる。
あるいはすべてを忘れてしまえば忘れられるのだろうか。
私の一番深い深い記憶の一番奥深くにあるものならば、他のすべてを忘れてしまって、そうしてようやく忘れられるのだろうか。
あぁそうか。と私はアル様の顔を見上げながら思う。
全部忘れてしまったらもうーー捨てられることも怖くないんだ。
それはきっと、すごく、すごく楽なことなのかも知れない。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
タグに(時々シリアス)を追加しました。
何故ならそこまで頭回ってないから。
そして後になって、後悔したり羞恥に悶たりするのだ。
ーー今現在の私みたいに。
…………って、コレどうしたらいいの?
おかげ様でまともに息が出来るようになって、身体も楽になってすると頭も回るようになって。
自分自身の状況も理解できるようなできないようなーーうむ、なんちゅーか、今度は違う意味でパニックになりかけている私。
ルーディン・ルールー18才。未婚の恋人なし。
ただいま男性に膝抱っこされています。
いや、なに自分を状況を解説してるんだか。
収まってきていたはずの心臓がまたバクバク言っている。
アル様の胸ってこんなにがっしりとして広かったっけ?
この前抱き込まれた時も感じたことだけれど、アル様の腕の中はちゃんと大人の男の人なんだって感じがする。
しっかりと筋肉がついた腕に胸。膝を乗せた太腿も感触は硬い。
ほのかに香ってくるコロンの匂いは昔と同じかな?
けどほんのり甘い匂いの中に前は感じなかったどこか男臭い、汗?みたいな匂いも混ざっている気がする。
ギュッと抱きしめられていると、何かを思い出す気がした。なんだろう?と思ってすぐに思い当たったものに焦る。
ーー夢だ。
つい最近身でしまった恥ずかしすぎる夢。
なんだって現実のあれこれは忘れているクセに夢のあれこれは忘れないんだ、私。
うにゃあああ……っと頭を抱えたくなって、ついでにいたたまれなさに全身うずうずモゾモゾして、アル様の胸の中でゴソゴソしてたら、
「ルー?」
と名を呼ばれた。
ほんの少し抱き込まれていた腕が緩んで、隙間が空いたと思えば間近に顔を覗き込まれる。
昔よりも精悍になって色っぽくもなったその見目麗しい尊顔にやっぱり大人の男の人を感じてしまって頭に血が上る。
鏡を見なくても自分の顔が耳まで真っ赤になっているのがわかった。
「ぁ、ア……アリュ、アル、さま」
「うん?」
……やめれっ!
妙に色っぽく目を細めるのは反則だからっ!
一定水準以上のイケメンのそれはもはや女子にとって兇器だからっ!!
そして腰に回していた手を頬に移動させるのもやめてくださいっ!
他人の顔を上向かせるなっ!近づいてくんなっ!
オデコとオデコでツンとかすんな~!!!!
ーーもう私のライフはゼロよ。
からっきしだよ、と私は空ろな目でアル様を見上げた。
「……ルー?」
「はへ?」
あんまり私が抜け殻になっているからか、いまだにオデコとオデコごっちんなまんまのアル様が訝しそうに私を呼んだ。
「大丈夫か?ーー熱はないようだが」
熱?ああ熱ね。これ、オデコで熱を測ってたのか。
ならそろそろ離してよろしいんでないかね。
昔、私はああなった後によく熱を出していた。
そのまま数日間寝込むこともあって、その度にレニーとアル様とお嬢様に交互に熱を測られたのを思い出す。
私はこの屋敷に来るよりも少し前からとこの屋敷に来て数年ほど、さっきみたいな症状というか発作というかに頻繁に襲われていた。
私のアレは病気というわけではなく、むしろ身体的には健康優良児で、では何かというと精神的なもの。
いわゆるトラウマから来るものであるらしい。
狭くて暗い場所。
一人きり。
それらが合わさってそれを私がそうと認識し、意識した途端。勝手に頭はパニックになって身体はどうしようもなく震えて苦しくて息が上手く出来なくなる。
それは私たち姉弟がこの屋敷に来ることになった要因で、
私たち姉弟が以来ただの一度も家族の元に帰っていないことの要因だ。
10年以上前。
まだ子供だった私の我儘が、私の家族に修復のできないヒビを入れた。
母を殺し、父を壊し、兄を壊し、私を壊し、弟を歪ませた。
私の家族というドールハウスの入った硝子瓶は隙間もないほどヒビ割れほんの少しの衝撃を与えるだけで粉々に壊れるところだった。
寸前で、アル様の父親ーーハルトバレル候爵家の旦那様が行儀見習いという名目で私とレニーを半ば無理矢理に連れ出してくれたから、たぶん私はギリギリ私を保っていられたのだと思う。
どうせ忘れるのなら、あの記憶こそを忘れさせてくれればいいのに。
母親を、父にとっての妻を殺した私の罪はそう簡単には私を許してはくれないらしい。
だってその証拠に私の身体は折に触れてこうして思い出せと責めたててくる。
あるいはすべてを忘れてしまえば忘れられるのだろうか。
私の一番深い深い記憶の一番奥深くにあるものならば、他のすべてを忘れてしまって、そうしてようやく忘れられるのだろうか。
あぁそうか。と私はアル様の顔を見上げながら思う。
全部忘れてしまったらもうーー捨てられることも怖くないんだ。
それはきっと、すごく、すごく楽なことなのかも知れない。
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