(元)引きこもりダンジョンマスターが異世界生活をやり直してみた件

黒田悠月

文字の大きさ
3 / 32
ローウィル子爵領

その2

しおりを挟む
過去に戻って半年が過ぎた。

 朝夕のランニングはずいぶん慣れてきて、近頃は5周ずつ走っている。
 脂肪の塊だった身体もデブから少しポッチャリ気味、程度に絞られてきている。
 それでも元が元だったもので、まだまだポッチャリではあるのだけど。

 だが、確実に体力はついてきたと思う。
 たまに行う乗馬の練習も一日で暗くなる前に領内全てを回ることができるようになってきた。
 以前なら3日はかかっていた距離だ。
 馬が、とかスピードとか、技術的なものではなく、以前の俺には一日馬を駆るだけの体力も根性もなかったという理由で。
 ま、とりあえず。

「これで先に進めるかな?」

 俺は走らせていた馬を止めてじっくりと周りを見回した。
 ウチは辺境の山沿いにある土地だから、少し馬を走らせると人里一つない山の中や裾野の森に入り込むことができる。
 特に今いるような場所は大人でも一人では近づかない。
 ちゃんと来る途中に『この先獣魔出現キケン!立ち入り禁止!』って立て札もあったしね。

 獣魔っていうのは獣が魔素に侵されて魔物化したもので、ダンジョンの魔物とは根本的に別物である。
 見た目も普通の獣が二倍程大きくなったり本来角を持たない獣に角が生えてることがあるくらい。 
 魔物のように魔法を使用したり個体によっては武器を使用したりなんてのもない、あくまでもただの獣だ。
 魔素の強い自然の多い場所によく現れる。
 逆に化工されたものが多い人里なんかには少ない。
 王都みたいな都会に住んでる人だと生まれて死ぬまで見たことがないなんて人もいるらしい。
 田舎者からしたら羨ましい話である。
 獣魔は普通の獣よりも寿命は短くて数ヵ月ないくらいだけど、普通の獣よりもずっと狂暴で危険だから。
 一度でも獣魔が出た場所はそれを討伐してもまた別の個体が獣魔化することが多い。
 そのためここみたいに立て札を立てたり、より危険視される場所だと完全に柵で封鎖されたりする。

 最も今の俺みたいに人目につきたくない人間には都合のいい場所だ。

 俺は過去に戻る際『アイテム』と『スキル』を一つずつ持ち帰っている。
 けど、これまで一度も使用はおろか確認すらしていない。

 何故か。

『アイテム』にせよ『スキル』にせよ発動させるにはそれなりの魔力や生命力が消費されるからだ。
 半年前の過去に戻ったばかりの俺では使用どころか発現させるだけでぶっ倒れていたのは間違いない。

 朝夕のランニングは引きこもり解消とこれらを発現させるための体力づくりであった。

「さて、まずはスキルかな?」

 俺が持ち帰ったアイテムは魔力を膨大に喰う。
 今の俺の魔力量ではまた使えない。

 馬を適当な木に繋いで、しばらく歩く。
 歩きながら頭のなかで俺が持ち帰ったスキル『鑑定』を発現させる。

 ……うぐっ!
 やっぱりまだキツいか。

『鑑定』を発現させた途端目眩と頭痛で地面に突っ伏した。
 発現だけでこれでは、発動させたら頭を抱えて転げ回るはめになりそうだ。

 スキルってのはこの世界の人間なら誰もが一つは持っている。
 ただし赤子がスキルを使用することはない。
 身体がきちんと出来上がっていない子供のうちにスキルを使用してしまうと、倒れるどころか寿命を縮めることだってある。
 そのため本来なら14才で成人の儀を教会で受けるまではスキルは発現せずに核として眠っているものなのだ。

 俺が14才で発現させたスキルは二つ。
『錬金術』『合成』
 これらはまた14才の成人の儀に発現されるはずだ。

 今俺が発現させた『鑑定』はダンジョンマスターになってから得たスキルで、まあゲームやチートもののラノベなんかでは定番だろう。ダンジョンマスターになって自身にスキルを付与できるようになってすぐに発現させたんだけど、最初は「なにこのクソスキル」な能力で。

『鑑定』

 頭のなかで発動させると、視界に入る物全てに文字が浮かび上がる。

『土』『土』『石』『草』『草』『土』『木の根』

 なんて感じだ。
 頭痛に吐き気に目眩ときているところに文字の氾濫。
 もうマジ気持ち悪い……。

 いったんスキルを解除して地面に転がった。
 久しぶりの感覚。
 前の時も初めて発動させた時はこうだったな。
 人目のない場所にしておいて良かった。
 誰かに見られたら騒ぎになってるところだ。
 子供がいきなり苦しみだして倒れたってね。

 あまり知られていないけどスキルってのは成長する。『鑑定』のスキルはそれが特に顕著でレベルの低い内はほとんど役にたたない。その分成長していけばこれナシではやっていけないというほどのお役立ちスキルに変貌する。
 けどレベルを上げるにはスキルをとにかく使い続けるしかない。

「……うぷ」

 頑張れ!
 頑張れ!俺!

 よし、やるぜ!『鑑定』!!

「$&#\*%#&\>\@$#>~*」

 ダメだ。

 ……死ぬーー。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...