(元)引きこもりダンジョンマスターが異世界生活をやり直してみた件

黒田悠月

文字の大きさ
7 / 32
ローウィル子爵領

その6

しおりを挟む
 父の消極的な賛成と、なにより次期ローウェル子爵、つまり俺の一番上の兄が賛成してくれたことで、俺の王立学校魔法科行きが決まった。
 父が消極的なのはまだ母が納得しきっていないせいだ。
 ウチの父は恐……いや愛妻家だからね。

 入学は三ヶ月後。
 期間二年間。

 一月後には誕生日がくるから、入学する頃には俺は11才になっている。
 過去をやり直してから、もうすぐ一年が経とうとしてしているのか。
 時間を意識しているからか、ずいぶん過ぎるのが早く感じる。

 王立学校への入学が決まってから、俺は馬での外出が禁止された。入学までの期間は出来るだけ家に、というか母のそばに居てあげるように、という父からのお達しで。
 なので俺は朝夕の日課と食事以外は自室に込もっている。
 ……我が母上さまは俺から寄ってかなくても向こうから来てくれるからね。
 毎日なんだかんだ持って来ては「ねえ、アイクちゃん。やっぱりやめておいた方がいいんじゃないかしら?」攻撃を仕掛けてくるのだ。
「やめておいた方が」というわりには持ってくるものは寮生活できっと必要なもの(母いわく)なんだけど。
 おかげさまで自室の一角には母が持ち込んだティーセット(お友だちを招く時のため)だの寒い夜のためのカーディガン(複数枚)だのが小山を作っている。

 ……はあ、今日もそろそろ来る頃かな?


 **************


 昼を過ぎたのに、珍しく母が顔を見せない。
 あれ?
 どうしたのかな?
 いつもならすでに三回は突入してきている時間なのに。
 今日はまだ一度も来てないぞ?
 食事にも来なかったし、具合でも悪いのだろうか。
 でも昨日は元気だったんだけどね?

 一度気になるとそわそわしてくる。
 せっかく指先に集めた魔力も気が散って拡散してしまった。

 外に出て『鑑定』を鍛えられない分、このところの俺は自室に込もっては魔力量を増加させるための訓練を行っている。
 この世界では聖霊に力を借りて魔法を行使するが、聖霊に力を借りるにはまず聖霊の存在を感じ取り認識しないといけない。
 人によって感じ方は様々だし、聖霊の種族によっても相性がある。
 俺の場合は風と火、そして闇の聖霊との相性がいい。
 どれだけ集中しても水や土、光の聖霊は希薄にしか感じ取れない、比べて風の聖霊の場合は空気のなかに常にいくつもの小さな存在が感じられる。
 風が吹くと、時折フワリと髪にいたずらしていく小さな手の感触と、楽しげな笑い声が聞こえたりする。

 魔法はまず聖霊の存在を感じ取り、ほんの少し自分の魔力をその存在に与えるということを意識することから始まる。
 聖霊が受け取ってくれたら、そこで聖霊とのリンクができる。
 リンクを通して聖霊にこうしてほしい、といったイメージを送る。聖霊の存在をしっかりと感じられているほど、そしてイメージがしっかりしているほど魔法の精度は上がるし威力も上がる。
 そこに聖霊がいるという認識や、伝えるイメージを明確にするために詠唱という形で言葉にする人も多い。
 逆に言うと認識とイメージさえしっかりしていれば言葉に出す必要はない。
 俺なんかはちょっと恥ずかしいので無詠唱派だ。

 では認識とイメージさえ出来ていればどんな魔法でも使えるのか?といえば残念ながらそうではなく、聖霊はより精度の高い強力な魔法をイメージするほど魔力という糧を喰う。
 それも大量に。

 認識とイメージがしっかりしていても与える魔力が足りなければ結局ガス欠で魔法は発動しない。
 しかも相性の悪い聖霊ほどより魔力を要求するから、相性の悪い聖霊の魔法ほど使用が難しくなる。
 おなじ生活魔法でも俺だと水を出そうとしても一回でせいぜいコップ一杯が限度。
 洗濯物を乾かす程度の熱風を吹かすのならたぶん一時間以上持続が可能だろう。
 したことないけど。

 魔力というのは世界に満ちる魔素を人間が呼吸によって酸素と共に体内に取り入れ変換しているもの。
 取り入れられる魔素の量も、変換できる魔力の量も、対内に溜め込める量も人によって違う。
 魔力量とは主にそのうちの体内に溜め込める量のことだ。
 魔力は意識して制御しないと自然と体外に洩れ出てしまう。

 自身の体内にある魔力を認識して制御することで体外に洩れ出る魔力を体内に引き留める。
 それが魔力量を増やすコツだそうな。
 体内に溜め込む量が増えると取り入れられる魔素の量も変換できる量も相対的に増えるらしい。
 俺がこの知識を知ったのはダンジョンコアに教えられたから。
 この世界に住む人間のほとんどは知らないし、魔力量は身体の成長や経験を経ることによって増加していくものだと思っている。
 実際には成長や経験を経ることで自然と魔力の認識や制御ができていくんだけどね。

 俺は体内の魔力を一点に集中させることで、魔力の認識と制御を高める訓練をしていたのだけど。
 失敗した。
 結構な集中力がいるので、しばらく休憩かな。

 さてこれからどうしようか。

 母上さまの様子を見に行く?
 う~ん、気にはなるがそれもちょっと……。

 床に座り込んでうんうん言っていると、何やら外で騒がしい物音と話し声が。

「……なんだ?」

 玄関の方のようだが。
 誰か客が来る予定だったっけ?

 そうこういううちにバタバタと小走りの足音がこの部屋に近付いてくる。

 俺はドアに近付いて、そっと隙間を開けて廊下を覗いた。
 そして廊下の向こうから駆け寄ってくる淡いプラチナブロンドの髪と薄桃色の瞳の人物を見付けて、そのまま閉めた。

 なんで!
 どうしよう。
 逃げ出したい。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

処理中です...