(元)引きこもりダンジョンマスターが異世界生活をやり直してみた件

黒田悠月

文字の大きさ
10 / 32
ローウィル子爵領

その9

しおりを挟む
 朝のランニングを2周増やしてみた。

 いや、夢見が悪かったんでね。
 早く目が覚めたからちょっとだけ長く走ってみただけです。

 ランニングにも慣れてきたな。
 2周増やしても全然イケる。
 今日からは7周にしていこうか。

 朝の日課をこなして、食堂に向かう。
 もちろん汗はしっかり拭き取って、服も着替えてある。
 朝ごはんはすっきりして食べたいから、これも日課の一つだ。

「へえ、ホントに朝もちゃんと起きてるのね。前は昼過ぎまで出てこなかったのに」

 テーブルにつくと、先に着いていたアンネローゼにそんなことを言われた。

 昼過ぎまで寝ていたのは一年ほど前までだよ。

 二人でパンとサラダ、スープの朝食を食べて一緒に部屋を出る。
 いつもはともに朝食を取る母は名家の奥様方と食事会とやらで朝から出掛けている。
 アンネローゼがおみやげに持参してくれたお菓子やお茶を持っていったみたいだ。
 たぶん珍しい茶葉があったみたいだから自慢しに行ったんだろうな。
 貰い物だけど。

「とってもいいものを頂いたの」

 おほほ、と口に手をあてて笑う姿が目に見えるようだ。

 隣を歩くアンネローゼは長い髪を頭のてっぺんで丸めて、服も動きやすいようにだろう、珍しくズボンを履いている。
 足下は膝下まで隠れるブーツ。

「ホントに自分で乗るんだ?」
「もちろん!乗馬は貴族の嗜みの一つだもの。最近では女性も一人で乗るのが当たり前よ」

 母が独身の頃は女性が馬に一人で乗るなんてはしたないってことだったらしいけどね。
 姉が昔乗りたがってケンカになったというのを聞いたことがある。

 今日はアンネローゼの願いで二人で馬で遠乗りをする。
 遠乗りって言っても領の外までは出ないけど。
 子供のころに馬車を出してもらってよく遊びに行った場所に向かう。

 ローウェル領の南の端に花の栽培地があるのだ。
 季節によって様々な花が栽培されていて、中でもアンネローゼがお気に入りだったのが少し離れた小高い丘の上から見下ろす光景。
 ウチに来るたびに毎回通うのに付き合わされてた。

 キレイなんだけど、同じ季節に何度も通うからさすがに飽きてくる。

 アンネローゼが来なくなってからは通うこともなくなったから、久し振りだけど。
 馬で毎日出掛けるようになっても、そういえばあそこには行っていない。
 気づかなかった。
 無意識に避けていたということか。

 あそこは、あの花を栽培して生活を立てる小さな集落は、アンネローゼが過去の世界で命を落とした場所だ。
 小高い丘の向こうには緑の生い茂る森が広がる。
 集落の名前は『カルギ村』。
 俺のダンジョンのと同じ名前の村だ。

 あの日。
 飛び出したアンネローゼを迎えの兵士でも、他の大人たちでもなく俺が見つけられたのはこの場所を知っていたから。
 大人たちは子供の足では遠すぎるからと、除外していたようだったが。

 案外子供っていうのは大人が思うよりもずっと歩く。
 それこそ大人が当たり前に馬車や馬を使う距離でも。
 まあ、ウチから村までは子供の足でも、半日と少しといったところ。
 決して歩けない距離ではない、かな?
 俺はもうごめんだけど。

 外に出ると、もう家の前に3頭の馬と護衛の兵士が準備万端だった。
 俺一人ならともかくアンネローゼも一緒だから、領内とはいえ護衛が付く。

 伯爵領からアンネローゼの護衛として付き従っていたうちの一人だそう。
 背が高く筋肉質な男で、何故かえらく上着の胸元が開いていてムキムキな胸筋が目に痛い。
 冬なのに。

 アンネローゼのお気に入りの護衛らしいが。
 なんだろう。
 嫌な予感がするぞ?

「あら、貴方が例のお坊ちゃまね。お嬢様からお噂はかねがね聞いてるわよん♪ヨハンです、今日はよろしくね」

 胸筋をふるふるさせながら挨拶してくれた、が。

 おい。
 大事なお嬢様の護衛がコレでいいのか?
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

処理中です...