(元)引きこもりダンジョンマスターが異世界生活をやり直してみた件

黒田悠月

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王立学校魔法科

その1

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 寮の部屋が一人部屋で良かった。

 クローゼットから出て来ながら、俺はそう思った。
 部屋はベットと机とクローゼットが備え付けの六畳ほどの寝室と、小さなテーブルセットとソファ、棚が置かれた八畳ほどの部屋の二つ。 
 トイレはあるけど風呂はない。
 寮の一階が食堂と共同風呂、リザクゼーションルームになっているらしい。
 寮全体としては三階建ての建物の一階が共用部分、二、三階が個室。
 食費は学費とともに振り込まれているので朝夕無料で食べられる。たたしデザートや一品付け足す場合は別料金でその場で払わなくてはならない。

 入寮時に寮母さんに聞いたところによると、寮生は13人。
 三階が二回生で二階に俺を含む一回生が入っているらしい。
 魔法科の一回生がちょうど50人。
 うち15人は女子で別の女子寮に入っているか、その他の男子生徒と同じく地元の人間か、冒険者で別に部屋を借りているか。
 寮はそれなりに設備も食事も充実している分、平民には高いというのが寮生が少ない原因だそうだ。
 おかげで一人部屋だし、人向き合いも少なくてすむから俺としては願ったりだけどね。

 荷物でいっぱいの部屋で寝たくなかったので、自宅からの荷物は全てリビング(?かな一応)に置いてある。
 そのせいでリビングの床は足の踏み場もない惨状だ。
 ちなみにリビングに置かれているテーブルセットとソファも自宅から先に送ったものである。母上さまが。

 レティにはいるものだけ出せるように、とか言ったけど、これだと何がどこにあるかもわからないな。

 最低制服だけは今日じゅうに探し出さなければ。
 明日着てかないとだからね。

「よいしょっと」

 とりあえず金物や食器の入っているらしい木箱の類いは壁際に避けて重ねて。
 制服が入っていそうな箱や袋を片っ端から開けていく。

 あ、これは茶話会用のスーツか。

 アンネローゼをエスコートする予定の茶話会用のだろうスーツ一式が出て来た。
 ハンガーに掛けられた状態で折り畳まれているので、ひとまず重ねた木箱の上に広げておく。 

 あれ?
 またスーツ?

 いや、一着あれば充分だよね?

 計三着のスーツが出て来た。
 いったいどんだけスーツ着させる気だ!
 そもそも息子が成長期だとわかってないのか?
 多分来年にはキツくなる予定だ。

 まあ救いはスーツ代の出どころが領の税金ではなく母の個人資産からということ。
 嫁にくる時に実家からそれなりの額や貴重品を持参してきたはずだからね。

 ようやく制服を探し出した頃には周りは服やら靴やら鞄やらで溢れていた。
 致し方なくそれらを寝室のクローゼットに片付けていく。

 ふう。けど、だいぶ片付いたかな?

 ちょっと休憩したい。
 レティのところへ行ってコーヒーでも淹れてもらうか。



 □□□□□□□



「オマエの陰謀か」

 俺はクローゼットからレティの庭に入るなりそう彼女を問いただした。

「はい?何ですか?」
「あのお隣さんだよ!」
「お隣さんというとあのノエルさんという人ですか?」
「そう!あの俺の古傷を抉り捲るお坊っちゃん!」

 俺の魂の叫びにレティは軽く眉をしかめて、

「失礼ですよ。それに少し以前のアイクさんに似てなくはないですけど……まあ体格とかは。でもノエルさんの方がずっと礼儀正しい感じですし、性格も良さそうです」

 それはなにか?
 俺の性格が悪いとでも?
 まあ否定しないが。

「ああそうだな。俺より性格は良さそうかもな。俺は性格悪いから、誰かさんに賽銭とか金輪際出さないかもな」
「ふにゃっ!ままま待って下さい!約束が違いますよ!」
「性格悪いから約束とかちゃんと守れないんだよなあ」
「……うう。ヒドイです。やっぱりノエルさんとは全然違いますよ」

 俺専属の女神がわかりやすく凹む。
 しかしこいつはホント人のSッ気を刺激するな。
 俺は別にその気が強いつもりはないんだけど。

 さっきから話題に出ているノエルというのは俺の寮の部屋のお隣さん。
 その名をノエル・グランド。
 わざわざお隣だからと挨拶に来てくれたのだが、これがびっくりなことに過去の俺、しかも記憶を取り戻すこともダンジョンマスターになることもなく流されるまま生きたらこうなってるよなーって感じの俺だった。

 いわく。
 ポッチャリおデブ。
 おどおどした言動。
 特徴のないボンヤリとした顔。
 いや、ボンヤリが唯一の特性か?
 甘やかされて育ってきました感が半端ない雰囲気。

 軽く挨拶を交わしただけだったけど、なんか精神的にガックリきた。

「後でリザクゼーションルームででもお話ししたいってさ」
「いいじゃないですか。お友だち第一号ですね!」

 人の気も知らずに能天気に手を叩くアホ女神。
 なにがお友だち第一号だ。
 オマエは幼稚園児か。
 こいつなら学校行くとかなったら本気で「友達100人できるかな♪」とか言ってそうだ。

「憂鬱だな」

 ノエルには悪いが、あまり楽しくお話しできる気がしない。

「とりあえず気分転換でもしておいたらどうですか?」

 そう言ってレティが出してきたのは読みかけのスラ〇だん〇。
 珍しく気がきくな。

 俺は出来立ての自宅に込もってそれを読むことにした。
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