(元)引きこもりダンジョンマスターが異世界生活をやり直してみた件

黒田悠月

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王立学校魔法科

その10

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 夕暮れ時の街はいい匂いがする。

 どこの家も夕飯の支度中ってわけだろう。
 嗅いでると腹が減ってくる匂いだ。

 俺は寮を出て、武具屋と道具屋を探して歩いている。
 その手の店はダンジョンの付近にいくつも建ち並んでいるが、いい店、というのは案外少ないものだ。

 いい店、というか信用のできる店、かな。

 新米冒険者と見ると足元を見る店も多い。
 粗悪品を高値で押し付けられたりとかは当たり前。
 珍しくもない。
 ポーションなんかの道具はともかく、武具だと大抵値札も付いていない。
 いかにもな新米が値段を尋ねた後に別の冒険者が尋ねると先の値段の半額なんてのが普通にまかり通る。
 悪いのは店主ではなく見る目のない自分、というわけだ。

 では、新米は諦めて粗悪品を掴まされるしかないのか、というとそうでもない。
 ギルド公認ショップ、という店がある。
 そのまんまギルド公認で、主にギルドから卸された素材を使って道具や武具を作る。

 ダンジョン産の安定した素材を安定した値段で手に入れられる代わりに売値も安定させなければならない。
 底値よりは割高になるが、そこそこの品をそれなりの値段で手に入れられるため、まあ新米にも安心して買える店だ。

 ギルド公認ショップの目印は看板に入ったギルドの意匠。
 ドラゴンの横顔が描かれた盾とその前で交錯した赤と黒の剣。

 俺もそれを探していた。
 鑑定がもっとレベルアップしていれば鑑定で武具や道具の質をチェックできるのだが、しばらくはギルド公認ショップのお世話になるつもりだ。

 と、思っていたのだが。

 ーーあれ、いいな

 黒いドアに黒い壁、赤い屋根。
 なんとなく怪しげな外見の建物。
 他が大きく窓をとって内側の商品を見せているのに対し、小さな窓からどうにか内側の商品がいくつか覗ける程度。
 その窓の奥に、いかにも廚二病チックな黒のロングコート。

 俺はついふらふらとドアの中へ。

 まさかそこでこんな出逢いがあるとはね。
 思わなかったよ、チキショーッ!

「あーら♪アイク坊っちゃんじゃない?」

 聞き覚えのある野太い声に、俺はぎくしゃくと声のした方へ顔を向けた。

「お久し振りね?ウフ!」
「……えーっと」
「やあだ、忘れちゃったの?ヨハンよぉ!アンネお嬢様の護衛の♪」
「あ、もちろん覚えてるっすよ。じゃ、また」

 悪れられるわけがない。
 この強烈なキャラクターを。

 俺はくるっと間がれ右をしようとして、筋肉ダルマに襟首を掴まれて止まった。

「あらん、待ってよ。商品を見てないじゃない!ゆっくりして行きなさいよん」

 近い!
 顔が近い!
 ってか濃いから!
 化粧も元の顔も!!

「きゃっ!可愛いお客様ね。いらっしゃい♪」

 なんか出てきた。
 またなんか出てきた!

 店の奥から出てきたのはどう見てもヨハンのお仲間なこれも筋肉ダルマ。
 ヒラヒラレースのエプロン付きだ。
 ちなみに頭はスキンヘッド。

 ーー……もうお腹いっぱいだよ。

「気になるものはあったかしら?」
「いや、あの、もう……」

 いいです。帰ります。
 そう言おうとしたが。

「んー、坊やだったらこの辺りかしら?」

 そう言って、スキンヘッドが手に取ったのは俺が気になっていた廚二病なロングコートだった。
 なんで?と顔に出ていたのだろう。
 スキンヘッドはウフ、と気味悪く笑うと、

「長いことこういう商売してるとね、お客様を見るとその人の好みはなんとなくわかるのよ。どうぞ、合わせてみて?」

 背中に合わせられて、仕方なくコートの袖に腕を通した。
 スキンヘッドは俺の身体のアチコチを触りながらコートの具合を確認していく。

「少しサイズが大きいかしらね?まあ、成長期だから多少はOKとして、袖は軽く折れば大丈夫ね。長さだけ動きやすいように調整しましょうか。と、その前に。どうする?これは火に耐性もあるし、素材も丈夫。スライムの粘液くらいなら破れもしないわ。表面にペトラザウルスの皮を縫い合わせてるから。少しお高いけど素材を考えればお買い得よ?裏には隠しポケットがいっぱいだし、暗器もたっぷり仕込める。坊や可愛いから調整と端数は負けてあげる。金貨2枚でどう?」

 ーー金貨2枚か。

 悪くない、と思う。
 高いことは高いが(だいたい金貨1枚あれば家族3人一月は余裕で暮らせる)高過ぎることはないと思う。

 ペトラザウルスといえば高級素材だ。
 亀型の魔物で固い甲羅が特徴だが、その下の皮もしなやかで丈夫、水も通さないし、火に耐性もある。

「心配しなくても適正価格より少し安いくらいよ。傭い主の知り合いに変なもの売らせやしないわよ!」

 ヨハンの言葉によし、と頷いた。

「なら、それで買うよ。調整はどのくらいかかる?」
「簡単な調整だけだから明日には出来るわよ」

 俺は懐から金貨を二枚取り出してスキンヘッドに渡した。

「じゃ、それで頼む」
「んふふ、明日も来てくれるのね。楽しみだわ」
「あら、だったら私もくるわ」

 ーーなんでだよ。

 俺はちょっとばかり自分の選択を後悔した。
 また、明日も筋肉に挟まれるのだろうか。
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