27 / 32
王立学校魔法科
その10
しおりを挟む
夕暮れ時の街はいい匂いがする。
どこの家も夕飯の支度中ってわけだろう。
嗅いでると腹が減ってくる匂いだ。
俺は寮を出て、武具屋と道具屋を探して歩いている。
その手の店はダンジョンの付近にいくつも建ち並んでいるが、いい店、というのは案外少ないものだ。
いい店、というか信用のできる店、かな。
新米冒険者と見ると足元を見る店も多い。
粗悪品を高値で押し付けられたりとかは当たり前。
珍しくもない。
ポーションなんかの道具はともかく、武具だと大抵値札も付いていない。
いかにもな新米が値段を尋ねた後に別の冒険者が尋ねると先の値段の半額なんてのが普通にまかり通る。
悪いのは店主ではなく見る目のない自分、というわけだ。
では、新米は諦めて粗悪品を掴まされるしかないのか、というとそうでもない。
ギルド公認ショップ、という店がある。
そのまんまギルド公認で、主にギルドから卸された素材を使って道具や武具を作る。
ダンジョン産の安定した素材を安定した値段で手に入れられる代わりに売値も安定させなければならない。
底値よりは割高になるが、そこそこの品をそれなりの値段で手に入れられるため、まあ新米にも安心して買える店だ。
ギルド公認ショップの目印は看板に入ったギルドの意匠。
ドラゴンの横顔が描かれた盾とその前で交錯した赤と黒の剣。
俺もそれを探していた。
鑑定がもっとレベルアップしていれば鑑定で武具や道具の質をチェックできるのだが、しばらくはギルド公認ショップのお世話になるつもりだ。
と、思っていたのだが。
ーーあれ、いいな
黒いドアに黒い壁、赤い屋根。
なんとなく怪しげな外見の建物。
他が大きく窓をとって内側の商品を見せているのに対し、小さな窓からどうにか内側の商品がいくつか覗ける程度。
その窓の奥に、いかにも廚二病チックな黒のロングコート。
俺はついふらふらとドアの中へ。
まさかそこでこんな出逢いがあるとはね。
思わなかったよ、チキショーッ!
「あーら♪アイク坊っちゃんじゃない?」
聞き覚えのある野太い声に、俺はぎくしゃくと声のした方へ顔を向けた。
「お久し振りね?ウフ!」
「……えーっと」
「やあだ、忘れちゃったの?ヨハンよぉ!アンネお嬢様の護衛の♪」
「あ、もちろん覚えてるっすよ。じゃ、また」
悪れられるわけがない。
この強烈なキャラクターを。
俺はくるっと間がれ右をしようとして、筋肉ダルマに襟首を掴まれて止まった。
「あらん、待ってよ。商品を見てないじゃない!ゆっくりして行きなさいよん」
近い!
顔が近い!
ってか濃いから!
化粧も元の顔も!!
「きゃっ!可愛いお客様ね。いらっしゃい♪」
なんか出てきた。
またなんか出てきた!
店の奥から出てきたのはどう見てもヨハンのお仲間なこれも筋肉ダルマ。
ヒラヒラレースのエプロン付きだ。
ちなみに頭はスキンヘッド。
ーー……もうお腹いっぱいだよ。
「気になるものはあったかしら?」
「いや、あの、もう……」
いいです。帰ります。
そう言おうとしたが。
「んー、坊やだったらこの辺りかしら?」
そう言って、スキンヘッドが手に取ったのは俺が気になっていた廚二病なロングコートだった。
なんで?と顔に出ていたのだろう。
スキンヘッドはウフ、と気味悪く笑うと、
「長いことこういう商売してるとね、お客様を見るとその人の好みはなんとなくわかるのよ。どうぞ、合わせてみて?」
背中に合わせられて、仕方なくコートの袖に腕を通した。
スキンヘッドは俺の身体のアチコチを触りながらコートの具合を確認していく。
「少しサイズが大きいかしらね?まあ、成長期だから多少はOKとして、袖は軽く折れば大丈夫ね。長さだけ動きやすいように調整しましょうか。と、その前に。どうする?これは火に耐性もあるし、素材も丈夫。スライムの粘液くらいなら破れもしないわ。表面にペトラザウルスの皮を縫い合わせてるから。少しお高いけど素材を考えればお買い得よ?裏には隠しポケットがいっぱいだし、暗器もたっぷり仕込める。坊や可愛いから調整と端数は負けてあげる。金貨2枚でどう?」
ーー金貨2枚か。
悪くない、と思う。
高いことは高いが(だいたい金貨1枚あれば家族3人一月は余裕で暮らせる)高過ぎることはないと思う。
ペトラザウルスといえば高級素材だ。
亀型の魔物で固い甲羅が特徴だが、その下の皮もしなやかで丈夫、水も通さないし、火に耐性もある。
「心配しなくても適正価格より少し安いくらいよ。傭い主の知り合いに変なもの売らせやしないわよ!」
ヨハンの言葉によし、と頷いた。
「なら、それで買うよ。調整はどのくらいかかる?」
「簡単な調整だけだから明日には出来るわよ」
俺は懐から金貨を二枚取り出してスキンヘッドに渡した。
「じゃ、それで頼む」
「んふふ、明日も来てくれるのね。楽しみだわ」
「あら、だったら私もくるわ」
ーーなんでだよ。
俺はちょっとばかり自分の選択を後悔した。
また、明日も筋肉に挟まれるのだろうか。
どこの家も夕飯の支度中ってわけだろう。
嗅いでると腹が減ってくる匂いだ。
俺は寮を出て、武具屋と道具屋を探して歩いている。
その手の店はダンジョンの付近にいくつも建ち並んでいるが、いい店、というのは案外少ないものだ。
いい店、というか信用のできる店、かな。
新米冒険者と見ると足元を見る店も多い。
粗悪品を高値で押し付けられたりとかは当たり前。
珍しくもない。
ポーションなんかの道具はともかく、武具だと大抵値札も付いていない。
いかにもな新米が値段を尋ねた後に別の冒険者が尋ねると先の値段の半額なんてのが普通にまかり通る。
悪いのは店主ではなく見る目のない自分、というわけだ。
では、新米は諦めて粗悪品を掴まされるしかないのか、というとそうでもない。
ギルド公認ショップ、という店がある。
そのまんまギルド公認で、主にギルドから卸された素材を使って道具や武具を作る。
ダンジョン産の安定した素材を安定した値段で手に入れられる代わりに売値も安定させなければならない。
底値よりは割高になるが、そこそこの品をそれなりの値段で手に入れられるため、まあ新米にも安心して買える店だ。
ギルド公認ショップの目印は看板に入ったギルドの意匠。
ドラゴンの横顔が描かれた盾とその前で交錯した赤と黒の剣。
俺もそれを探していた。
鑑定がもっとレベルアップしていれば鑑定で武具や道具の質をチェックできるのだが、しばらくはギルド公認ショップのお世話になるつもりだ。
と、思っていたのだが。
ーーあれ、いいな
黒いドアに黒い壁、赤い屋根。
なんとなく怪しげな外見の建物。
他が大きく窓をとって内側の商品を見せているのに対し、小さな窓からどうにか内側の商品がいくつか覗ける程度。
その窓の奥に、いかにも廚二病チックな黒のロングコート。
俺はついふらふらとドアの中へ。
まさかそこでこんな出逢いがあるとはね。
思わなかったよ、チキショーッ!
「あーら♪アイク坊っちゃんじゃない?」
聞き覚えのある野太い声に、俺はぎくしゃくと声のした方へ顔を向けた。
「お久し振りね?ウフ!」
「……えーっと」
「やあだ、忘れちゃったの?ヨハンよぉ!アンネお嬢様の護衛の♪」
「あ、もちろん覚えてるっすよ。じゃ、また」
悪れられるわけがない。
この強烈なキャラクターを。
俺はくるっと間がれ右をしようとして、筋肉ダルマに襟首を掴まれて止まった。
「あらん、待ってよ。商品を見てないじゃない!ゆっくりして行きなさいよん」
近い!
顔が近い!
ってか濃いから!
化粧も元の顔も!!
「きゃっ!可愛いお客様ね。いらっしゃい♪」
なんか出てきた。
またなんか出てきた!
店の奥から出てきたのはどう見てもヨハンのお仲間なこれも筋肉ダルマ。
ヒラヒラレースのエプロン付きだ。
ちなみに頭はスキンヘッド。
ーー……もうお腹いっぱいだよ。
「気になるものはあったかしら?」
「いや、あの、もう……」
いいです。帰ります。
そう言おうとしたが。
「んー、坊やだったらこの辺りかしら?」
そう言って、スキンヘッドが手に取ったのは俺が気になっていた廚二病なロングコートだった。
なんで?と顔に出ていたのだろう。
スキンヘッドはウフ、と気味悪く笑うと、
「長いことこういう商売してるとね、お客様を見るとその人の好みはなんとなくわかるのよ。どうぞ、合わせてみて?」
背中に合わせられて、仕方なくコートの袖に腕を通した。
スキンヘッドは俺の身体のアチコチを触りながらコートの具合を確認していく。
「少しサイズが大きいかしらね?まあ、成長期だから多少はOKとして、袖は軽く折れば大丈夫ね。長さだけ動きやすいように調整しましょうか。と、その前に。どうする?これは火に耐性もあるし、素材も丈夫。スライムの粘液くらいなら破れもしないわ。表面にペトラザウルスの皮を縫い合わせてるから。少しお高いけど素材を考えればお買い得よ?裏には隠しポケットがいっぱいだし、暗器もたっぷり仕込める。坊や可愛いから調整と端数は負けてあげる。金貨2枚でどう?」
ーー金貨2枚か。
悪くない、と思う。
高いことは高いが(だいたい金貨1枚あれば家族3人一月は余裕で暮らせる)高過ぎることはないと思う。
ペトラザウルスといえば高級素材だ。
亀型の魔物で固い甲羅が特徴だが、その下の皮もしなやかで丈夫、水も通さないし、火に耐性もある。
「心配しなくても適正価格より少し安いくらいよ。傭い主の知り合いに変なもの売らせやしないわよ!」
ヨハンの言葉によし、と頷いた。
「なら、それで買うよ。調整はどのくらいかかる?」
「簡単な調整だけだから明日には出来るわよ」
俺は懐から金貨を二枚取り出してスキンヘッドに渡した。
「じゃ、それで頼む」
「んふふ、明日も来てくれるのね。楽しみだわ」
「あら、だったら私もくるわ」
ーーなんでだよ。
俺はちょっとばかり自分の選択を後悔した。
また、明日も筋肉に挟まれるのだろうか。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~
空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。
もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。
【お知らせ】6/22 完結しました!
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです
NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる