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旅立ちは突然に。
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ああああぁ!
わたしはすぐそばでゆらゆらと揺れる尻尾に飛びかかりたい衝動を必死に抑えている。
だって。
だって!
絶対気持ちいいんだもの!
フワフワな短い毛に覆われて、しなやかに揺れている尻尾。
きっとビロードのような手触りに違いないわ。
手のひらに包んでぎゅっとしたい。
きっとすぐにスルリと抜け出すに違いないけれど、その抜け出していく感触がまたたまらないのに違いない!!
結局、わたしは彼女の好意で『銀の雛亭』に泊まらせてもらうことになった。
しかも彼女--猫人のシルルが強引に勧めたことだからと、わたしの宿賃をシルルの上司だという人が一緒に払ってくれるという。
お金に困っていることは確かだけれど、さすがに初対面の人にそこまで甘えることはできない。
だけどシルルの上司--副隊長だという豹人らしき彼は笑って「だったらこうしない?」とわたしに一つの提案をした。
彼ら獣人は毛繕いが大好きだ。
獣の姿でブラシをかけてもらいながらリラックスするのが至福の時。
特に彼らの隊長という人が、専属のブラッシング職人を雇っているほどこだわりを持つ人らしい。
ところがその職人が老いたのを理由に最近になって退職してしまったとか。
おかげで隊長さんの機嫌がすこぶる悪く、隊のみんながほとほと困っているということ。
「だから隊長のブラッシングをしてもらって、隊長が満足したら宿賃はこっち持ち。満足しなかったら自腹、それでどう?」
なんだかヘンテコな提案。
それにブラッシングが気に入らないからって周りに迷惑をかけるほど機嫌を悪くする人だなんて、それ、もしわたしが失敗したらどうなるの?って思う。
「大丈夫。さすがに隊長だって女の子に噛みついたりはしないから。もしかしたらちょっと機嫌は悪くなるかもだけど。その時だって当たられるのは俺たちだから」
それだってわたしのせいで他の人が困るかもなんでしょう?
「や、俺たちだと、どうしても力が強すぎて隊長の好みとは違うらしくてさ。獣人って基本力が強いから。だから前の職人も人間で力の弱い年寄りだったんだ。だから人間の、しかも女の子だったら大丈夫じゃないかって思うんだよね。というかもともと隊長がそこまでこだわってるのが昔、人間の女の子にしてもらったことがあって、それが滅茶苦茶気持ち良かったって理由かららしくて」
「お願い」と手を合わせて腰を折り頭を下げられまですると、断りづらくなってしまう。
「もちろん女の子に隊長と二人きりなんてことはさせないし、なんなら宿の女将さんや親父っさんに同席してもらってもいい」
--どう?と上目遣いに見上げられた茶金の頭の左右でピクピク動く耳に視線が絡め取られる。
ブラッシングということはモフモフをさわり放題ということ?
つい、そんなことを考えてしまう。
いえ、さわり放題とまではいかないわよね。
でも、きっと。
柔らかい毛にブラシを滑らせるのはどんなに気持ちいいだろう。
『リル』のブラッシングをしてあげた時のことが頭を過る。
フワフワしていて、少し猫っ毛で、柔らかくて。
「やります!」
気がつけば、そう答えてしまっていた。
そうしてわたしはシルルの案内でその隊長さんとやらのもとに向かっている。
そうだった。
シルルの尻尾に魅了されている場合じゃなかったんだわ。
わたしはすぐそばでゆらゆらと揺れる尻尾に飛びかかりたい衝動を必死に抑えている。
だって。
だって!
絶対気持ちいいんだもの!
フワフワな短い毛に覆われて、しなやかに揺れている尻尾。
きっとビロードのような手触りに違いないわ。
手のひらに包んでぎゅっとしたい。
きっとすぐにスルリと抜け出すに違いないけれど、その抜け出していく感触がまたたまらないのに違いない!!
結局、わたしは彼女の好意で『銀の雛亭』に泊まらせてもらうことになった。
しかも彼女--猫人のシルルが強引に勧めたことだからと、わたしの宿賃をシルルの上司だという人が一緒に払ってくれるという。
お金に困っていることは確かだけれど、さすがに初対面の人にそこまで甘えることはできない。
だけどシルルの上司--副隊長だという豹人らしき彼は笑って「だったらこうしない?」とわたしに一つの提案をした。
彼ら獣人は毛繕いが大好きだ。
獣の姿でブラシをかけてもらいながらリラックスするのが至福の時。
特に彼らの隊長という人が、専属のブラッシング職人を雇っているほどこだわりを持つ人らしい。
ところがその職人が老いたのを理由に最近になって退職してしまったとか。
おかげで隊長さんの機嫌がすこぶる悪く、隊のみんながほとほと困っているということ。
「だから隊長のブラッシングをしてもらって、隊長が満足したら宿賃はこっち持ち。満足しなかったら自腹、それでどう?」
なんだかヘンテコな提案。
それにブラッシングが気に入らないからって周りに迷惑をかけるほど機嫌を悪くする人だなんて、それ、もしわたしが失敗したらどうなるの?って思う。
「大丈夫。さすがに隊長だって女の子に噛みついたりはしないから。もしかしたらちょっと機嫌は悪くなるかもだけど。その時だって当たられるのは俺たちだから」
それだってわたしのせいで他の人が困るかもなんでしょう?
「や、俺たちだと、どうしても力が強すぎて隊長の好みとは違うらしくてさ。獣人って基本力が強いから。だから前の職人も人間で力の弱い年寄りだったんだ。だから人間の、しかも女の子だったら大丈夫じゃないかって思うんだよね。というかもともと隊長がそこまでこだわってるのが昔、人間の女の子にしてもらったことがあって、それが滅茶苦茶気持ち良かったって理由かららしくて」
「お願い」と手を合わせて腰を折り頭を下げられまですると、断りづらくなってしまう。
「もちろん女の子に隊長と二人きりなんてことはさせないし、なんなら宿の女将さんや親父っさんに同席してもらってもいい」
--どう?と上目遣いに見上げられた茶金の頭の左右でピクピク動く耳に視線が絡め取られる。
ブラッシングということはモフモフをさわり放題ということ?
つい、そんなことを考えてしまう。
いえ、さわり放題とまではいかないわよね。
でも、きっと。
柔らかい毛にブラシを滑らせるのはどんなに気持ちいいだろう。
『リル』のブラッシングをしてあげた時のことが頭を過る。
フワフワしていて、少し猫っ毛で、柔らかくて。
「やります!」
気がつけば、そう答えてしまっていた。
そうしてわたしはシルルの案内でその隊長さんとやらのもとに向かっている。
そうだった。
シルルの尻尾に魅了されている場合じゃなかったんだわ。
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