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呪いと真実

その2

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妙な夢を見た。

酒か?酒が悪かったのか?
ちゃんと解毒ポーション飲んでおいたのに。

それとも寝ぼけてたのか。
いつになく思いっきり熟睡したからか。


私はベッドに半身を起こしてボーッとする。
ひたすらボーッとする。

うん、頭が回られぇ。
じゃない回らねえ。


夕べはクルドのベッドに『寝起きどっきり』を仕掛けたはずだったのだが、私の横には誰もいない。
しかもベッドは私のだ。
つまり私は移動してない?

枕元には鏡の魔法具が転がっている。
『イヤホーン』は付いたまま。

どういうことだろう。
つまり『寝起きどっきり』敢行の時点から夢だったのだろうか。
だとしたらえらく『りある』な夢だな。


夢の中で、私はクルドのベッドに潜り込んだ。
なんとなくすごくイケナイことをしているみたいでドキドキした。
生まれてこのかた男となんて手を繋いだことしかないのに、いきなり同衾だ。
いかん。
考え出したら私が照れてきた。

やっぱり出ようか。

怖じ気づいた私はとりあえず身体の向きを変えた。
背を向けあった状態でクルドと同じベッドに転がっている今の私。

あれ?
ふと気づいてしまった。

私はクルドを羞恥に悶えさせてやろうと思ってた。
朝起きて私を見つけて驚きに声を上げ、顔を真っ赤っかにするだろうクルドを見て笑ってやろうと思ってた。

でもそれって……。
所詮酔っ払いの浅はかすぎる思いつきではなかろうか?

これ、ホントに恥ずかしいのはどっち?


朝起きてみれば隣に美少女が寝ていたクルドか。
男のベッドに夜中に潜り込んでいる私か。

すぐ後ろで、クルドが身じろぎする気配がした。

私は上げそうになる悲鳴を口を押さえて無理やり封じ込める。
目尻にほんのり涙の感触がする。

心臓がバクバク早鐘を打っている。

どうしよう。 
このままだと私は夜中に男のベッドに潜り込む恥ずかしい女だ。

夜這い、とか痴女とか痴漢とか据え膳とか。
変態ちっくな単語の羅列が頭の中をグルングルン回っている。さっきまでの視界の回り具合にも負けてない。


Q 朝起きて可愛い女の子が同じベッドに寝ていたら、あなたはどうしますか?


[いただきまーす♡] 


いやいやいや。
さすがにこれはなかろう。
これは夕べの酒場のおっちゃんだ。  

こっちか。

Q    朝起きて可愛い女の子が同じベッドに寝ていたらどうしますか?

[追い出して痴女認定します。しばらくは汚物を見る目で見つめますね]  

こっちだ!



ヤバい!どうしよう!
戻るべきだ。今すぐ。
ハウス!! 
じゃないベッド!!
 
カムバックベッド!!

……戻ってこいベッドってなんだ。
ベッドよ戻ってこい?のが正しいのか。
わからん。何がって私の頭ん中がわからん。
意味不明だ。

違う。向こうのベッドに戻るのだ。
 
そぉっと布団を剥いで、ゆっくりと足から床につけるとこからだ。

よし行け私!
さあ行くのだ!!


……動かん。  
なんてことでしょう。
足が動きません。

ってかよく潜り込めたな私。
さすが酔っ払い。

しかも眠い。
こんな状態なのに眠い。
 
こんだけ心臓バクバクで眠いってなんだ。
目ぇパッチリ冴えてきてもいいはずだろう。


混乱する私。
そんな私をよそにまたも身じろぎするクルド!

私は身体を固くする。

「……ん」

妙に色気のある吐息はヤメレ!
背後でゴソゴソする気配。
もしかして、寝返りか?寝返りしたのか?
こっち向いてる?

起きてないよな。
起きてないよなっ!

あかん。

気になってしまう。
ちゃんと目が閉じられているのを確認したい!

私はそぉっと布団を少し手で浮かせると、慎重に慎重にじりじりと身体の向きを変えた。
完全に寝返りを敢行して、ホッと一息つく。

目の前に、クルドの胸がある。
なんでかいつもより大きい気がする。
横倒しに寝ている肩幅も、広い気がする。

ってか私の頭、クルドの胸にすっぽりはまってないか?

起こさないように細心の注意を持って顔を上げた。
すると、クルドの顔が見える。

閉じられた瞼。薄く開いた唇。
白いすべらかな肌。

クルドの顔だ。
クルドの顔なんだけど。

私の知るクルドの顔とは少しというか結構違う。

だって、これじゃ。 
まるで大人だ。














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