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呪いと真実
小話 とある魔族のお話 ③
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ユナの部屋は以前通された時とえらく変わっていた。そういえば模様替えをするとか張り切っていた気がする。
「……かんっぜんに『てれび』に影響されてるな、アイツ」
畳に箪笥にちゃぶ台。
ご丁寧に床の間まで作って--。
掛けられた掛け軸からはそっと視線を外した。
--恥ずかしい奴。
だが、こんな掛け軸を製作してしまうほど魔王に心酔していたはずのユナが消えた。
おそらくきっかけは、
「『てれび』か」
試作品の一つはユナが持ち帰っていた。
だがもう一つはライル自身の『空間収納魔法』にしまってある。
ユナはまったく気づいていなかったが、アレはこの国ではとんでもなく危険な代物だ。
間違っても他の連中--特に魔王の側近には見せられない。
でなくても自分とユナの研究は他の研究者に狙われやすい。
持ち歩くのが一番だ。
ライルはコツコツと部屋を歩きながら、残された魔力の残滓を探る。
そのついでに部屋の中を確認していく。
きれいにベッドメイクされた寝台になにやらよくわからない奇妙な人形や置物が所狭しと置かれた飾り棚、窓際に飾られた花のない花瓶。
「すみません花瓶の中身は枯れてしまうので処分しました」
ライルの視線を追ったメイドの少女が言い訳するように言う。
「あと、ユナ様がベッドの下に入れていた魔法具や人間の国の硬貨がなくなっていました。それと」
と、少女は箪笥の引き出しから一枚の紙を取り出した。
「これがあちらのテーブルに」
差し示されたのは窓のそばに置かれた小さなテーブル。
『しばらく旅に出ます。探さないで下さい』
その阿呆な文面に、ライルは唸り声を上げて片手で顔を覆った。
阿呆過ぎる。
探さないで下さいとか、逆に怪しすぎるだろ。
予想していたことだが、あまりに考えなしな消え方に頭痛がした。
使用人たちがセバスを筆頭にユナ大事の面々だったからこそこれまで面に出なかったが、そうでなければとっくに側近たちによってこの部屋は散々家捜しされ、追っ手が向けられていただろう。
だがこれでより確信できた。
ユナは逃げたのだ。
この国から、というか魔王の洗脳から。
このところ連日ユナが見ている『バラエティー番組』なるもので洗脳の『ニュース』を流していた。
呑気な顔で昼飯をたべなから見入るユナの様子に「なんでこれ見てて自分の現状に気づかないんだか」と呆れていたが、どうやら気づいたらしい。
それで即座に逃亡するあたりがユナらしいといえばらしいが。
部屋の中に『てれび』--魔法具は見当たらない。
ユナが持っていったのだろう。
ライルはユナが手紙を置いていたというテーブルに歩み寄り、膝を曲げて絨毯に指先を伸ばした。
ユナの魔力は膨大だ。
だからこそ、ユナの魔法の痕跡は辿りやすい。
他の者ならすぐに消えるようなものも、残滓としてしっかりと残るからだ。
「……これか」
そのなかでももっとも新しいもの。
そしてより多くの魔力を消費しているもの。
見つけだし、ライルはそれを辿り、解析していく。
「遠いな」
ユナが『移動』した先を推測し、軽く舌打ちする。ユナでなければ簡単に『移動』できないだけの遠距離を選んだのだろうが。
「俺だと三回はいるか」
三度の転移。
言うだけなら簡単だが、実際行うとなると一度の魔法にほとんど全ての魔力を注ぎ込むことになる。
魔力ポーションをがぶ飲みしたとしても、魔力の回復を待つとおそらくユナの移動先に着くのはおよそ一月近く。
「たくっ、しゃーねーな」
悪態をつきながら指先に魔力を流した。
「『破壊』」
魔力の痕跡を手繰り寄せ、破壊する。
その中に残る魔法の残滓、魔法陣の数式を粉々に破壊する。
魔力を辿り、解析するのは結構なコツがいる。
少ないセバスにはできなかったのだろう。
だから当てはなく探しにいった。
だが、できる者はいる。
ライル自身のように。
それは魔王の側近の中にも複数。
だから破壊した。
ユナの移動先を辿れないように。
起き上がるとクラリと目眩がした。
魔力欠乏の症状だ。
「大丈夫ですか?」
そうメイドの少女が駆け寄ってくるのを腕を振って制し、『空間収納魔法』から魔力ポーションを3本取り出すと、煽るように飲んだ。
魔力ポーションは一気に大量に取ると、酒酔いに似た酩酊状態になる。
それでも回復したのは半分にも満たない量。
一度の中距離の移動にギリギリの量。
「俺はこのままユナを追う。セバスには留守を頼むと言っておいてくれ。……あと、セバスがいない内に誰か来たら、ユナは頭の病気で寝込んでいるとでも言っておくんだな。間違ってもさっきみたいに出かけてるとか言わないでくれよ?」
「……頭、ですか?」
「身体の病気よりはずっと信憑性がある」
そう言ってライルは『移動』した。
自身の魔力の痕跡は、しっかりと破壊しながら。
ユナの後を追って--。
「……かんっぜんに『てれび』に影響されてるな、アイツ」
畳に箪笥にちゃぶ台。
ご丁寧に床の間まで作って--。
掛けられた掛け軸からはそっと視線を外した。
--恥ずかしい奴。
だが、こんな掛け軸を製作してしまうほど魔王に心酔していたはずのユナが消えた。
おそらくきっかけは、
「『てれび』か」
試作品の一つはユナが持ち帰っていた。
だがもう一つはライル自身の『空間収納魔法』にしまってある。
ユナはまったく気づいていなかったが、アレはこの国ではとんでもなく危険な代物だ。
間違っても他の連中--特に魔王の側近には見せられない。
でなくても自分とユナの研究は他の研究者に狙われやすい。
持ち歩くのが一番だ。
ライルはコツコツと部屋を歩きながら、残された魔力の残滓を探る。
そのついでに部屋の中を確認していく。
きれいにベッドメイクされた寝台になにやらよくわからない奇妙な人形や置物が所狭しと置かれた飾り棚、窓際に飾られた花のない花瓶。
「すみません花瓶の中身は枯れてしまうので処分しました」
ライルの視線を追ったメイドの少女が言い訳するように言う。
「あと、ユナ様がベッドの下に入れていた魔法具や人間の国の硬貨がなくなっていました。それと」
と、少女は箪笥の引き出しから一枚の紙を取り出した。
「これがあちらのテーブルに」
差し示されたのは窓のそばに置かれた小さなテーブル。
『しばらく旅に出ます。探さないで下さい』
その阿呆な文面に、ライルは唸り声を上げて片手で顔を覆った。
阿呆過ぎる。
探さないで下さいとか、逆に怪しすぎるだろ。
予想していたことだが、あまりに考えなしな消え方に頭痛がした。
使用人たちがセバスを筆頭にユナ大事の面々だったからこそこれまで面に出なかったが、そうでなければとっくに側近たちによってこの部屋は散々家捜しされ、追っ手が向けられていただろう。
だがこれでより確信できた。
ユナは逃げたのだ。
この国から、というか魔王の洗脳から。
このところ連日ユナが見ている『バラエティー番組』なるもので洗脳の『ニュース』を流していた。
呑気な顔で昼飯をたべなから見入るユナの様子に「なんでこれ見てて自分の現状に気づかないんだか」と呆れていたが、どうやら気づいたらしい。
それで即座に逃亡するあたりがユナらしいといえばらしいが。
部屋の中に『てれび』--魔法具は見当たらない。
ユナが持っていったのだろう。
ライルはユナが手紙を置いていたというテーブルに歩み寄り、膝を曲げて絨毯に指先を伸ばした。
ユナの魔力は膨大だ。
だからこそ、ユナの魔法の痕跡は辿りやすい。
他の者ならすぐに消えるようなものも、残滓としてしっかりと残るからだ。
「……これか」
そのなかでももっとも新しいもの。
そしてより多くの魔力を消費しているもの。
見つけだし、ライルはそれを辿り、解析していく。
「遠いな」
ユナが『移動』した先を推測し、軽く舌打ちする。ユナでなければ簡単に『移動』できないだけの遠距離を選んだのだろうが。
「俺だと三回はいるか」
三度の転移。
言うだけなら簡単だが、実際行うとなると一度の魔法にほとんど全ての魔力を注ぎ込むことになる。
魔力ポーションをがぶ飲みしたとしても、魔力の回復を待つとおそらくユナの移動先に着くのはおよそ一月近く。
「たくっ、しゃーねーな」
悪態をつきながら指先に魔力を流した。
「『破壊』」
魔力の痕跡を手繰り寄せ、破壊する。
その中に残る魔法の残滓、魔法陣の数式を粉々に破壊する。
魔力を辿り、解析するのは結構なコツがいる。
少ないセバスにはできなかったのだろう。
だから当てはなく探しにいった。
だが、できる者はいる。
ライル自身のように。
それは魔王の側近の中にも複数。
だから破壊した。
ユナの移動先を辿れないように。
起き上がるとクラリと目眩がした。
魔力欠乏の症状だ。
「大丈夫ですか?」
そうメイドの少女が駆け寄ってくるのを腕を振って制し、『空間収納魔法』から魔力ポーションを3本取り出すと、煽るように飲んだ。
魔力ポーションは一気に大量に取ると、酒酔いに似た酩酊状態になる。
それでも回復したのは半分にも満たない量。
一度の中距離の移動にギリギリの量。
「俺はこのままユナを追う。セバスには留守を頼むと言っておいてくれ。……あと、セバスがいない内に誰か来たら、ユナは頭の病気で寝込んでいるとでも言っておくんだな。間違ってもさっきみたいに出かけてるとか言わないでくれよ?」
「……頭、ですか?」
「身体の病気よりはずっと信憑性がある」
そう言ってライルは『移動』した。
自身の魔力の痕跡は、しっかりと破壊しながら。
ユナの後を追って--。
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