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第43話 前途多難の恋路と知る

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「ごめんね。うちの店ではそういうことは憶測も含めて、話さないルールにしてるんです」
 オーナーは佐野の質問にちょっと困った顔をしたあと、優しい口調でそう言った。
「あー……ですよね。ははは」
 佐野は恥ずかしさを誤魔化すために肩をすくめ、頭をかく。
「でも、ケイさんのお気持ちは、とてもわかります」
「え?」
「かなりの数の人が今と同じことを私に聞いてきますので。ユキさん、モテますから」
 やっぱりな。あんなにかっこよくて性格もよかったら、誰でも強く惹かれてしまう。自分だってそうだから。
「で――ユキさんの方も、誰が本命なのか一切言わないし、そういう素振りも絶対に見せないんです。お店では全ての人へ紳士的に対応します。もちろんプレーボーイ気取りな態度ではありません」
「そうなんですか」
 となれば、本人にいくら探りを入れても空振りに終わる。さらに、ユキの言動から自分のことをどう思っているか読み取るのも不可能だ。
 今まで必死でユキを観察しては、あれこれと予想していた。でもそれらは完全なる徒労であった。
 でも、ユキを取り巻く状況はわかった。また、ユキが本心もプライバシーもひた隠しにしていることも。なぜそうしているのかは知る由もない。けれどきっとそれがユキの恋愛哲学なのだろう。
 つまりこれらを集約すると、自分とユキの間には想像を絶する高さの堅牢な壁が立ちはだかっているということだ。
 それゆえこの恋は前途多難。ライバルが多数いるうえにユキが本音を明かさないからだ。
 よし、ひとまずはこれで退散しよう。これ以上、長話をしていたらユキが訝る。焦りにまかせて突っ走り、色々と失敗したが、得るものもあったのが救いである。でもその前に――
「あの、すみませんが今僕が聞いたこと、ユキさんにも誰にも言わないで欲しいのですが」
 小心者の証拠隠滅作業。けれどこれをしないと不安で夜も眠れない
「もちろんです。安心してください」
 オーナーは佐野の目をしっかりと見て、深くうなずく。
「ありがとうございます。では、お水のおかわりをよろしくお願いします」
 佐野はオーナーへ一礼すると、ユキが待つ個室へ足早に戻った。
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