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第79話 恋の悶々と警察車輌 

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 時間は二十三時になろうとしていた。結局、夕食後は何も仕事をしていない。雑談中に星崎から電話が来て、紆余曲折の末に現在へ至る。
「今日は止めだ。もう帰ろう」
 ユキが面倒くさげそう言って、机の上を片付け始めた。
 十数年前に部屋のどこかへ放置した、Aからのプレゼントについて思いを巡らせているうちにうんざりしたらしい。
「明日は元旦ですけど、通常通りですよね」
 佐野がノートパソコンをバッグにしまいながら聞く。
「ああ。元旦だけど、悪いが来てくれないか。例の突貫工事の現場にも、急に呼ばれるかもしれないし」
「もちろん喜んで。前倒し帰省をさせてもらってますし」
「そうだったな。じゃあ明日は、ガッチリ図面を書こう。星崎も、俺が手一杯に言い返したから、もうこりて電話をかけてこないだろうしな」
「あの、僕のスマホは星崎からの通話は着信拒否にしてますけど、現場事務所の固定電話へかけて来たらどうしましょう」
「無視だ。俺宛ての業務連絡は全てスマホに来るようにしている。だから事務所の電話は鳴っても放っておけ」

 年が明けた。しかし佐野にとってはいつもと変わらぬ朝である。同じ時間に部屋を出て、橋本建設の現場事務所へ向かうのだ。
 道中、ユキの部屋のどこかで今も埃をかぶっているであろう『Aとの思い出の品』についてあれこれ考える。
 ユキの説明から、Aが非常に嫌な男であったのはわかっている。でも最初に付き合った人からの贈り物が高価なブランド品であれば、二番目に付き合う人間は必然的に辛くなる。どうしても最初の男と比較されてしまうからだ。
 自分が二番目の男になれるかどうかは別として、Aは実に余計なマネをしてくれたものだ――佐野は激しく降り出した雪と相まって、憮然をしながら眉をひそめる。
 けれどそんな感情は数秒で消えた。遠目から見える現場事務所の前に、一台のパトカーが停まっていたからだ。
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