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第89話 油圧ショベルで墓穴を絶賛掘削中

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「そのままどんどん喋らせろ」
 佐野のすぐそばで作業をしているユキが、佐野だけに聞こえる声で言った。
 佐野は星崎の顔を見ながら小さくうなずく。
 橋本社長も我関せずという表情をしながら星崎とレイナを密かに観察している。
 ユキには何か策があるらしい。佐野の心はウキウキしてきた。ならばもっと調子に乗らせてやろうではないか。どうせもともと星崎に嫌われているんだ。今さら関係の修復なんて一ミリも欲していない。
 早速、佐野は故意に困った顔をつくる。人前で説教をされる、みじめな部下を装った。
 すると星崎の目が優越感で見開いた。レイナもスマホから顔を上げ、舌なめずりして佐野の『窮地』を見物し始めた。
 よしよし、いい感じだ。佐野は腹の中でほくそ笑む。
 自分もなかなかの役者ではないか。しかも根性悪ゆえ、実に楽しい。根性曲がりのユキと大差ない。
「組織ってのは上下関係を厳守してはじめて成り立つんだ。てめえはそこを全然わかってねえんだよ、このバカが!」
 おお、思惑通りにエキサイトしてきたぞ。
 佐野は視線を落とし、怯えたふりをする。
「つまり上司は神様なんだ! わかってんのかゴラアッ!」
「きゃはっ。こわーい」
 レイナがぴょんぴょん跳びはねてはしゃぐ。
「それはプライベートでも同じだ。休日だろうが夜中だろうが、部下は上司に命令されたら二つ返事で従うものなんだッ。それをてめえは仕事が忙しいからって断りやがって、何様のつもりだ!」
 星崎の右の口角が細かく痙攣している。そのうえユキに対しても遠回しに嫌味を言い始めた。
 よろしい。とても良い兆候だ。橋本建設の社長を前に、どんどん悪態をついてくれたまえ。
 今、あんたがしていることは、油圧ショベルで巨大な墓穴を掘っているのと同意語だ。
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