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第171話 怒髪天を衝く
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「だから今すぐ会社に来い。土下座の練習もしなきゃならんからな」
星崎が半笑いの声で言う。けれど佐野は返事をしない。体も微動だにせず、ただ手中のスマホを凝視している。
「ああ、そうだ、捨て駒の佐野クン。土下座したあとで橋本建設のお偉方連中の靴を舐めて回るってのはどうかなあ?」
「――」
「うむ。これは名案だ。許しを乞うにはそれくらいしたほうがいいからな。ひゃっはっは!」
「――」
「おい、何で黙っている?」
「――」
「返事くらいしたらどうだ。オレ様がここまで懇切丁寧に説明してやってんだぞ!」
そこでようやく佐野が動いた。ゆっくりとスマホを持ち上げ、通話口に顔を近づけ――
「ふざけんな、バカヤローッ!」
喉が痛くなるほどの大声で佐野は怒鳴った。己の声量と激怒で頭がくらくらする。でもそんなことはどうでもよかった。
自分が会社の捨て駒にされているのも腹が立つが、それよりユキへの陰湿な復讐に対して堪忍袋の緒が切れたのだ。
「こんな性根の腐った人間が牛耳るクソ会社なんぞ、今ここで辞めてやる!」
「はあー? そんなチョロい脅しをしたって、シナリオは撤回しないぜ」
星崎があざ笑う。
「脅しじゃねえ!」
「え? お、おい」
突然の佐野の変化と剣幕に星崎は戸惑う。
「おい、じゃねえよ。この鬼畜野郎! だから今、乗ってる社有車は会社の駐車場に今日中に戻す。鍵は郵便受けに入れておく。私物は全部捨てろ。その中でめぼしいものがあれば使えばいい。いつもあんたがしているように、社員の机やロッカーを勝手に開けては欲しい物を盗んでいるようにな! この泥棒がッ!」
「て、てめえ……!」
「てめえもクソもあるか! とにかく、もうそっちへは行かないからな。総務部へは、あとでこっちから連絡する」
「ほう、そうか。ならば自己都合退職にして大損させてやるからな!」
「望むところだ。あんたの顔なんかもう二度と見たくないし、キャバ嬢がウロチョロする会社なんかに勤めたくもない。言っておくが、ほとんどのゼネコンは古山建設を見切っている。だから売り上げが激減するのは時間の問題だ。まあ、せいぜいレイナといちゃつきながら、『下請が元請を選ぶ時代』とやらを実践すればいい。じゃあ、話はこれで終わりだ!」
佐野は通話終了のボタンを乱雑に押す。そして天井を仰ぎ見て、大きなため息をついた。
「あっけないもんだ……この作業服とも、この業界とも、今日でお別れか」
小さく呟き、スマホを内ポケットに入れる。
「そして、ユキとも――でも、悔いはない」
再び深いため息をつくと、今度はハンドルにドサリと突っ伏した。
星崎が半笑いの声で言う。けれど佐野は返事をしない。体も微動だにせず、ただ手中のスマホを凝視している。
「ああ、そうだ、捨て駒の佐野クン。土下座したあとで橋本建設のお偉方連中の靴を舐めて回るってのはどうかなあ?」
「――」
「うむ。これは名案だ。許しを乞うにはそれくらいしたほうがいいからな。ひゃっはっは!」
「――」
「おい、何で黙っている?」
「――」
「返事くらいしたらどうだ。オレ様がここまで懇切丁寧に説明してやってんだぞ!」
そこでようやく佐野が動いた。ゆっくりとスマホを持ち上げ、通話口に顔を近づけ――
「ふざけんな、バカヤローッ!」
喉が痛くなるほどの大声で佐野は怒鳴った。己の声量と激怒で頭がくらくらする。でもそんなことはどうでもよかった。
自分が会社の捨て駒にされているのも腹が立つが、それよりユキへの陰湿な復讐に対して堪忍袋の緒が切れたのだ。
「こんな性根の腐った人間が牛耳るクソ会社なんぞ、今ここで辞めてやる!」
「はあー? そんなチョロい脅しをしたって、シナリオは撤回しないぜ」
星崎があざ笑う。
「脅しじゃねえ!」
「え? お、おい」
突然の佐野の変化と剣幕に星崎は戸惑う。
「おい、じゃねえよ。この鬼畜野郎! だから今、乗ってる社有車は会社の駐車場に今日中に戻す。鍵は郵便受けに入れておく。私物は全部捨てろ。その中でめぼしいものがあれば使えばいい。いつもあんたがしているように、社員の机やロッカーを勝手に開けては欲しい物を盗んでいるようにな! この泥棒がッ!」
「て、てめえ……!」
「てめえもクソもあるか! とにかく、もうそっちへは行かないからな。総務部へは、あとでこっちから連絡する」
「ほう、そうか。ならば自己都合退職にして大損させてやるからな!」
「望むところだ。あんたの顔なんかもう二度と見たくないし、キャバ嬢がウロチョロする会社なんかに勤めたくもない。言っておくが、ほとんどのゼネコンは古山建設を見切っている。だから売り上げが激減するのは時間の問題だ。まあ、せいぜいレイナといちゃつきながら、『下請が元請を選ぶ時代』とやらを実践すればいい。じゃあ、話はこれで終わりだ!」
佐野は通話終了のボタンを乱雑に押す。そして天井を仰ぎ見て、大きなため息をついた。
「あっけないもんだ……この作業服とも、この業界とも、今日でお別れか」
小さく呟き、スマホを内ポケットに入れる。
「そして、ユキとも――でも、悔いはない」
再び深いため息をつくと、今度はハンドルにドサリと突っ伏した。
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