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第175話 下請の切れ目が縁の切れ目

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 同日、十五時二十一分。佐野は自分の部屋でボンヤリと窓の外を眺めている。
 あの後、オーナーへ挨拶をし、昼食をとってからユキと別れた。そして星崎に宣言したとおり、社有車を会社の駐車場に停め、鍵を裏玄関の郵便受けへ入れた。
 車の後部座席には作業服やヘルメット、名刺など、会社からの支給品や借りていたもの全てを詰め込んで、あとから文句を言われることのないよう万全を期した。
 幸い、駐車場や裏玄関には誰もいなかった。しかし社長や星崎に見つかったら面倒なので、社屋から約百メートルほど先の幹線道路まで猛ダッシュで離れ、そこからタクシーに乗り、部屋へ帰った。
 そして、ユキとの「別れ」は拍子抜けするほど実にあっけないものだった。
  結局、ユキは最後まで淡々と佐野の話を聞き、時折、多少の同情を口にしただけ。
 しかも帰り際の駐車場ではビジネスライクな挨拶を佐野にして、それから一度も振り向かずに車へ乗り込み走り去った。
 現場事務所に遊びにおいで、とか、もしかしたらバイト扱いで声をかけるかもしれないよ、とか、たとえ花壇に行けなくてもキャラメル・フェアリーでたまには食事をしよう、とか、そんな言葉は一切なし――
「正直、社交辞令でもいいから言って欲しかった」
 佐野は、ため息混じりにボソリと呟く。その表情に落胆の色は隠せない。
 やはり、上司と大喧嘩して会社を辞めるような者とは付き合いたくないのだ。また、そんな作業員を工事現場に入れたくないのだ。間違いなく労働災害を起こすからだ。
「仮に自分がユキと同じ立場なら、絶対にそうするもんな」
 冬ゆえに日暮れが早く、オレンジ色を帯びた空を見上げながらそう納得する。
「下請の切れ目が縁の切れ目、か」
 視線を床へ落とし、眉をしかめる。
「結局、損をしたのは自分と鈴木。諸悪の根源である星崎は昇進予定、キャバ嬢のレイナは正社員待遇で社長秘書兼、星崎の補佐――あーあ、人や会社に迷惑をかけたり、弱い者いじめをする奴がこの世では幸せになるのかよ。人生の勝ち組になるのかよ」
  膝を抱えて目を閉じる。
「悔しいなあ……悔しい、悔しいなあ……」
 肩が細かく震え、それから間もなくして佐野の口から嗚咽が漏れた。

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