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第184話 不気味な沈黙
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「あの……古山建設が大手ゼネコン各社から、総すかんを食っているのはご存じでしょうか」
佐野は総務部長へおずおずと聞く。たとえ銀行から借金をして資金を調達できたとしても、実際の売り上げが激減するので今度は返済不能になるからだ。
「知ってるよ。そんなの何年も前からね。しかも去年からは実際にクレームまで来るようになった」
「クレームですって?」
初耳だ。ゼネコンからの声なき不評は身を持って実感していたが、クレームの存在は知らなかった。
苦情を入れたのはユキの会社だろうか。でもユキは何も言っていなかった。ならば他社か。いや、仮にクレームを入れたとしても、黙っているだけなのかもしれない。
「でも工事部にはそんな話、入って来てませんでしたが」
「そりゃそうさ。社長と星崎が、そのつど心にもない適当な謝罪を並べて、内々に握りつぶしているんだ。なので社内で知っているのは社長と星崎のほかは私と経理部長ぐらいだよ」
憤懣やるかたなしといった口調で話は続く。
「そもそもあの二人が諸悪の根元だ。契約金額のがめつい引き上げとか、星崎の部下いじめが発端の施工ミスとか。まあ、クレームの内容をいちいち上げればきりがない。でも――不思議なんだよなあ」
そこで総務部長が小さく唸る。
「不思議、とは?」
佐野が聞き返す。
「橋本建設からのクレームがないんだ。佐野さんも知ってる通り、去年一番ひどい被害に遭った会社のはずなのに。もちろん鈴木さんもだが」
「そうなんですか」
謎だ。佐野は首をかしげる。
橋本建設の社長は、古山建設の悪事をユキから全てを聞いているというのに。
その沈黙が、逆に不気味であった。
佐野は総務部長へおずおずと聞く。たとえ銀行から借金をして資金を調達できたとしても、実際の売り上げが激減するので今度は返済不能になるからだ。
「知ってるよ。そんなの何年も前からね。しかも去年からは実際にクレームまで来るようになった」
「クレームですって?」
初耳だ。ゼネコンからの声なき不評は身を持って実感していたが、クレームの存在は知らなかった。
苦情を入れたのはユキの会社だろうか。でもユキは何も言っていなかった。ならば他社か。いや、仮にクレームを入れたとしても、黙っているだけなのかもしれない。
「でも工事部にはそんな話、入って来てませんでしたが」
「そりゃそうさ。社長と星崎が、そのつど心にもない適当な謝罪を並べて、内々に握りつぶしているんだ。なので社内で知っているのは社長と星崎のほかは私と経理部長ぐらいだよ」
憤懣やるかたなしといった口調で話は続く。
「そもそもあの二人が諸悪の根元だ。契約金額のがめつい引き上げとか、星崎の部下いじめが発端の施工ミスとか。まあ、クレームの内容をいちいち上げればきりがない。でも――不思議なんだよなあ」
そこで総務部長が小さく唸る。
「不思議、とは?」
佐野が聞き返す。
「橋本建設からのクレームがないんだ。佐野さんも知ってる通り、去年一番ひどい被害に遭った会社のはずなのに。もちろん鈴木さんもだが」
「そうなんですか」
謎だ。佐野は首をかしげる。
橋本建設の社長は、古山建設の悪事をユキから全てを聞いているというのに。
その沈黙が、逆に不気味であった。
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