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第315話 何もかもが、同じ状況 

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 佐野は、卓上コンロの上で湯気を立てている小ぶりな土鍋を複雑な心境で見つめている。
 鍋の中身は、鶏肉と数種類の野菜が入った水炊きだ。厨房で調理済みなので、あく取りの必要はない。そのまますぐに食べられるようになっている。
 場所は座敷席。木製のテーブルには鍋料理のほかに、刺身や揚げ物の皿、煮物が盛られた小鉢も並んでいる。
 そして、白くゆらめく湯気の向こうには、スーツ姿のユキが満面の笑みで座っている。
「……むう」 
 佐野は喉の奥で小さく唸る。これでは、『あの夜』、つまり、ユキと初めて出会った夜と全く同じ状況ではないかと。
 というのも、ユキの行きつけの店とは、去年、佐野が置いてきぼりをくらった古山建設の忘年会が開かれた居酒屋であり、今、二人が座っている場所も、そっくりそのまま同じ場所であるからだ。
 しかもメニューまでが、鍋物のあく取りの必要がないこと以外、ほぼ忠実に再現されている。
 そしてとどめはユキのスーツだ。季節柄、素材は違うのだろうが、色からネクタイまで、『あの夜』と同じである。
 一方の佐野は、喪服のほかにはスーツを一着しか持っていないから、仕方なく『あの夜』と同じ格好でここへ来た。
 だが、大手ゼネコン勤務のユキはそんなはずはない。色やデザインの違うスーツやネクタイを数多く所持しているはずである。
 これは、絶対にわざとだ。でも、どうしてここまで細かく再現をするのだろう――
 佐野はユキの意図が読めず、激しく困惑するのであった。








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