暗躍英雄のアフターライフ

雪乃瀬

文字の大きさ
11 / 11
第2章 翠玉の英雄と復讐の黒

2-8 力ノ帯(フォルスリヴァ)

しおりを挟む
「フェンリット君達はこのあとどうする予定なの?」

 昼食をあらかた食べ終わった後、リーネさんがおもむろに尋ねてきた。
 僕とシアは思わず顔を見合わせる。

 この後の予定と言えば、昨日拾ってきた短剣の【法具】アーティファクトを売る事くらいで、あとは何も決めていない。

 強いてあげるなら、ギルドで何か依頼を受けて外に出るか、数日間不便をしない様に町の様子を確認しておく事くらいだ。

「特に予定は入っていませんよ。山賊が持っていた短剣を売っておこうと思っていたくらいです」

「そうなんだ! ならこの後私たちが町を案内しようか?」

 何かと積極的なリーネさんがそんな提案をしてきた。
 アリザさんとアマーリエさんの方に視線を向けてみると、二人とも頷いて返してくる。
 お礼をしたいというつもりならこれ以上はいいのだけれど。

 ……まあ、シアがどうにも頼みたがっているようだし、お願いするか。

「ではお願いしても良いですか?」

「任せて!」

 会計は全部アマーリエさん達がもってくれた。
 時刻は三時ちょっと前くらいだが、町の中はそれなりの喧騒が覆っている。
 イーレムの町は規模が小さいと言ったが、それは他の『街』に比べたら、だ。

 そもそも、本当に小さな町には冒険者ギルドは無い。
 町に寄る冒険者はいるだろうが、拠点がなかったり、仮拠点として酒場を利用したりするものだ。

 ギルドが無い町では冒険者の出入りも激しい。なので、自警団を形成していたりもする。
 アネトの町なんかは冒険者ギルドの無い町の一例である。

 僕たちが昼食を食べたのは町の外側の方だったようで、門から入ってくる竜車の姿が見えた。

 地竜と呼ばれる四足歩行の竜に引かせる車の事で、おもに商人などが移動の際に売り物を運ばせるのだ。

 今町に入ってきた竜車も、荷台に何かと大きなものを乗せ、布を被せて運んでいる。

 あの竜車は僕らが通ってきた山道を通ったのだろうか。
 山賊を放置していたらきっと襲われていたはずだ。

 短剣の【法具】アーティファクトを売るために、一先ずの目的地は武具店になったらしい。

 前方では、シアがリーネさんとアリザさんと談笑しながら歩いている。
 
 その様子を眺めていると、僕の傍へとアマーリエさんが寄ってきた。

「どうかしたんですか?」

 尋ねると、アマーリエさんは僕と目を合わせ頭を下げた。

「改めて、二人を助けていただいてありがとうございました。感謝してもしきれません」

 何度目かのお礼の言葉だった。

 なんというか、この人は物凄く律儀な人なのだろう。
 見た目からして真面目そうだと思っていたが、中身も相当に真面目だった。

 感謝されるのは苦手だったが、ここで受け入れておかないとまたお礼を言われそうな気がする。
 僕は苦笑しながら、

「もう、何度目ですか。お昼も御馳走になりましたし、こうして案内もしてもらってる。もう十分お礼は受け取りましたから」

「……すいません、ただどうにも言わずにはいられなくなってしまって。きっと私は無意識に、こんなものじゃ足りないと思っているんです。二人の命を救ってもらったのに、私達はこんなことしか返せていなくて……」

「本当に真面目な人ですね、アマーリエさんは」

 まあ、彼女がそれで満足するというのなら、僕は甘んじて受け入れよう。

「そう言うフェンリットさんも真面目なように思えますが?」

「僕のは真面目とは言わないですよ。まあ……常識だったというか」

 日本と言う国で二〇年近く生きていた僕は、最低限の礼儀作法はもちろん会得していた。
 ちょっとした所作からそこの所を見抜かれたのだろう。

 その観察力は普段からのものか、それとも僕を見定めているゆえのものか。
 なんにせよ、別にこの三人に対して何かしようとしている訳でもないし、普段通りでいよう。

「フェンリットくーん! ついたよ!」

 リーネさんの活発な声が聞こえてきた。
 目的地に着いたようだ。
 いつの間にかアマーリエさんと立ち止まっていた事に気が付き、僕は苦笑しながら促した。

「……行きますか」
「そうですね」

 笑いを返してくるアマーリエさんと歩き出す。
 さて、あの短剣数本はいくらで売れるかな。



 □■□



 拾ってきた短剣の【法具】アーティファクトが良い値段で売れてから、僕等は町の中を見て回った。
 ポーション類の薬品を売っている店や、日用【法具】アーティファクトの販売店、いわゆるアクセサリー型の戦闘用【法具】アーティファクトが売っている店など、色々と案内してもらった。
 シアが一番喜んだのは食べ物の出店で、昼食を食べて少ししか経っていないというのにおねだりされた。
 短剣が高く売れたから別に良かったのだけれど。

 そんな感じで時間は過ぎていき、夕暮れ時。
 空がオレンジ色に変わってきた辺りで、僕たちは解散する流れとなった。
 三人にお礼を告げる。

「今日はありがとうございました。シアも楽しんでいた様で良かったです」
「なんですかその保護者目線な発言は!!」
「あぁもう大きな声を出すなよ周りの人に迷惑だろ?」
「むぐぐぐ……」

 いつも通りなやり取りをしていると、アマーリエさんらはクスクスと笑いだした。

「フェンリット君、これじゃあ君とシアさんどっちが年上なのか分からないね?」
「それは私が存外子供っぽいと言っているんですかリーネさん?」

 シアが突っかかるので僕も横から茶々を入れる。
 
「存外って言うかシア、お前は普通に子供みたいだぞ」
「へぇ? じゃあどこが子供っぽいのか言ってみてください?」
「胸を両腕で押し上げながら言うな。身体の話をしてるんじゃないんだよ」

 確かにお前の胸は大きいし、プロポーションも抜群だけれど、僕とリーネさんが言っているのはそこじゃない。精神年齢のお話だ。

 それにしても、実際のところ僕とシアだとどっちが年上なんだろうか。
 というかコイツに年齢の概念はあるのだろうか?

 僕は前世は一九歳で死んで、今も一九歳な訳だから単純計算しても三八年間は生きている。
 シアはそこのところ一体どうなっているんだか。

 まあ、この疑問が解決する事は無いと思う。
 どうせ年齢の話をしたら「女性に歳の話は厳禁です!」とか言ってくるに違いない。

「確かにシアさんの胸凄いわよねぇ。あたしにも分けてもらいたいわ」

 そんな事を言いながらアリザさんが自分の胸を両手で押さえる。
 確かに、彼女の胸はなんというか……慎ましやかである。

 シアに蹴られないよう視線を別のところへ向けながら思っていると、視界の端でアリザさんがアマーリエさんの背後に回り込んだ。

「その点、アマーリエの胸も結構凄いわよねぇ!」

「きゃっ!」

 アマーリエさんの腋の下から二本の手が伸び出てきて、彼女の胸を鷲掴みした。

 鷲掴みできるほどの大きさの胸は、服の上からでもはっきり分かるほど形を変えて――痛ッ痛い! シアこいつ脛蹴りやがった!

「何を注視してるんですかフェンリット」

「言っておくが、男なら誰でもこうなる」

 シアのジト目をすげなくあしらい、僕は改めて三人に向き直った。

「では、また会いましょう」

「――そうですね。決闘の約束、覚えておきます。きっと、冒険者ギルドにいればまた会う事が出来るでしょう」

 僕の言葉に、先ほど女の子らしい悲鳴を上げていたアマーリエさんが応じる。
 その声音は、クールな表情に似つかわしい静かなものに戻っていた。

「またねフェンリット君!」
「機会があればまたご飯でも」

 手を振るリーネさんとアリザさんが踵を返して去っていく。
 彼女らの後を追う様に、アマーリエさんが再び一礼して振り返った。

 夕暮れ空のオレンジは時間と共に濃度を増していき、今や赤と言える程になっている。もうすぐ日が暮れる。明るい間に宿へ戻り、夕食をどうするか考えよう。

「さて、僕たちも帰るか」
「そうですね」

 泊まっている宿の場所は覚えている。ここから歩いて五分と掛からないところだ。
 道を思い出しながら人の流れを進んでいく。
 やっと宿が見えてきた。

 ――そんな時だった。


『きゃあああああああああああああああああああああ!!!???』


「――ッ!?」

 女性の悲鳴が耳を叩きつけ、僕とシアは思わず足を止めた。
 暴漢、窃盗にでもあったか?
 思考が可能性を巡るが、そんな考えは一瞬で淘汰された。

『何で!? どうしてこんな所に!!』
『魔物だ!』
『町の中に突然魔物が出てきたぞ!!』

 悲鳴から連鎖するように、人々の注意喚起や疑問の声などが叫び声となって街中に響き渡る。
 町の中に魔物が現れた?

 訳が分からない。門番を蹴散らしてどうどうと入って来たのなら分かる。町を覆う様に張られた柵を蹴り破って来たのなら分かる。だが、突然現れただと?

 そんな僕の思考を読んだのか、シアが口を開く。

「おかしいですね。普通そんな派手に侵入してくれば、こんな町の内部に来るまでに分かるはずです」
「ああ。しかも聞こえた声によると、突然、、現れたらしい。瞬間移動でもしてきたのか?」

 言葉を交わしながらも、僕とシアは人目に付きずらい路地裏の方へと歩みを進めていた。
 辺りを見渡し、人目が無い事を確認してから僕は言う。

「シア、【力ノ帯】フォルスリヴァ
「了解しました」

 応じる声と同時に、シアの身体が白い光に包まれた。
 
 ――シアの変身能力にはモードが三つ……デフォルトの姿を加えれば四つある。

 一つはデフォルトである【狐人族ルナール】。狐の因子を持つ人間――亜人デミヒューマンの姿。
 一つは【白天狐ハクア】。四本の尾を持つ白い狐の姿。

 そして残り二つの内の一つが――【力ノ帯】フォルスリヴァ

 白い光の中で、彼女の姿が変質していく。
 白と金で彩られたそれは、僕の身体を拘束するように巻きつける。
 しかしそこに、動きずらさや苦しさは一切存在しない。
 むしろ、自分が最適化されたかのような感覚を得る。
 ∞を描くように胴体に巻きつくのは、僕の身体能力を底上げするバンドだった。

 【力ノ帯】フォルスリヴァ

 僕の装備、、としてのシア、そのうちの一つだ。

 服の内側に巻きつくシアは、私服の際の着用時特有の台詞を口に出す。

《あぁ、フェンリットの身体……!》
(毎度毎度気持ち悪いからいい加減その反応やめてくれるかな……!!)

 頭の中に直接語りかける様な声に、僕も心の中でそう返した。

 口に出さずとも完全な意思疎通を出来るのはとても便利だ。
 その上僕の肉体性能も上がるのだから、【力ノ帯】フォルスリヴァモードの彼女は凄まじいほどの『チートぶり』を発揮している。
 まあ、装備モードのシアは肉体へかかる疲労もかなりのものなので、あまり長い間変身は出来ないのだが。

 故に。

「――さっさと終わらせるぞ」

《ええ》

 跳ぶ、、
 声のする方へ。

 
 
 
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

腹違いの妹にすべてを奪われた薄幸の令嬢が、義理の母に殴られた瞬間、前世のインテリヤクザなおっさんがぶちギレた場合。

灯乃
ファンタジー
十二歳のときに母が病で亡くなった途端、父は後妻と一歳年下の妹を新たな『家族』として迎え入れた。 彼らの築く『家族』の輪から弾き出されたアニエスは、ある日義母の私室に呼び出され――。 タイトル通りのおっさんコメディーです。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます

なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。 だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。 ……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。 これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

処理中です...