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第2章 翠玉の英雄と復讐の黒
2-8 力ノ帯(フォルスリヴァ)
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「フェンリット君達はこのあとどうする予定なの?」
昼食をあらかた食べ終わった後、リーネさんがおもむろに尋ねてきた。
僕とシアは思わず顔を見合わせる。
この後の予定と言えば、昨日拾ってきた短剣の【法具】を売る事くらいで、あとは何も決めていない。
強いてあげるなら、ギルドで何か依頼を受けて外に出るか、数日間不便をしない様に町の様子を確認しておく事くらいだ。
「特に予定は入っていませんよ。山賊が持っていた短剣を売っておこうと思っていたくらいです」
「そうなんだ! ならこの後私たちが町を案内しようか?」
何かと積極的なリーネさんがそんな提案をしてきた。
アリザさんとアマーリエさんの方に視線を向けてみると、二人とも頷いて返してくる。
お礼をしたいというつもりならこれ以上はいいのだけれど。
……まあ、シアがどうにも頼みたがっているようだし、お願いするか。
「ではお願いしても良いですか?」
「任せて!」
会計は全部アマーリエさん達がもってくれた。
時刻は三時ちょっと前くらいだが、町の中はそれなりの喧騒が覆っている。
イーレムの町は規模が小さいと言ったが、それは他の『街』に比べたら、だ。
そもそも、本当に小さな町には冒険者ギルドは無い。
町に寄る冒険者はいるだろうが、拠点がなかったり、仮拠点として酒場を利用したりするものだ。
ギルドが無い町では冒険者の出入りも激しい。なので、自警団を形成していたりもする。
アネトの町なんかは冒険者ギルドの無い町の一例である。
僕たちが昼食を食べたのは町の外側の方だったようで、門から入ってくる竜車の姿が見えた。
地竜と呼ばれる四足歩行の竜に引かせる車の事で、おもに商人などが移動の際に売り物を運ばせるのだ。
今町に入ってきた竜車も、荷台に何かと大きなものを乗せ、布を被せて運んでいる。
あの竜車は僕らが通ってきた山道を通ったのだろうか。
山賊を放置していたらきっと襲われていたはずだ。
短剣の【法具】を売るために、一先ずの目的地は武具店になったらしい。
前方では、シアがリーネさんとアリザさんと談笑しながら歩いている。
その様子を眺めていると、僕の傍へとアマーリエさんが寄ってきた。
「どうかしたんですか?」
尋ねると、アマーリエさんは僕と目を合わせ頭を下げた。
「改めて、二人を助けていただいてありがとうございました。感謝してもしきれません」
何度目かのお礼の言葉だった。
なんというか、この人は物凄く律儀な人なのだろう。
見た目からして真面目そうだと思っていたが、中身も相当に真面目だった。
感謝されるのは苦手だったが、ここで受け入れておかないとまたお礼を言われそうな気がする。
僕は苦笑しながら、
「もう、何度目ですか。お昼も御馳走になりましたし、こうして案内もしてもらってる。もう十分お礼は受け取りましたから」
「……すいません、ただどうにも言わずにはいられなくなってしまって。きっと私は無意識に、こんなものじゃ足りないと思っているんです。二人の命を救ってもらったのに、私達はこんなことしか返せていなくて……」
「本当に真面目な人ですね、アマーリエさんは」
まあ、彼女がそれで満足するというのなら、僕は甘んじて受け入れよう。
「そう言うフェンリットさんも真面目なように思えますが?」
「僕のは真面目とは言わないですよ。まあ……常識だったというか」
日本と言う国で二〇年近く生きていた僕は、最低限の礼儀作法はもちろん会得していた。
ちょっとした所作からそこの所を見抜かれたのだろう。
その観察力は普段からのものか、それとも僕を見定めている故のものか。
なんにせよ、別にこの三人に対して何かしようとしている訳でもないし、普段通りでいよう。
「フェンリットくーん! ついたよ!」
リーネさんの活発な声が聞こえてきた。
目的地に着いたようだ。
いつの間にかアマーリエさんと立ち止まっていた事に気が付き、僕は苦笑しながら促した。
「……行きますか」
「そうですね」
笑いを返してくるアマーリエさんと歩き出す。
さて、あの短剣数本はいくらで売れるかな。
□■□
拾ってきた短剣の【法具】が良い値段で売れてから、僕等は町の中を見て回った。
ポーション類の薬品を売っている店や、日用【法具】の販売店、いわゆるアクセサリー型の戦闘用【法具】が売っている店など、色々と案内してもらった。
シアが一番喜んだのは食べ物の出店で、昼食を食べて少ししか経っていないというのにおねだりされた。
短剣が高く売れたから別に良かったのだけれど。
そんな感じで時間は過ぎていき、夕暮れ時。
空がオレンジ色に変わってきた辺りで、僕たちは解散する流れとなった。
三人にお礼を告げる。
「今日はありがとうございました。シアも楽しんでいた様で良かったです」
「なんですかその保護者目線な発言は!!」
「あぁもう大きな声を出すなよ周りの人に迷惑だろ?」
「むぐぐぐ……」
いつも通りなやり取りをしていると、アマーリエさんらはクスクスと笑いだした。
「フェンリット君、これじゃあ君とシアさんどっちが年上なのか分からないね?」
「それは私が存外子供っぽいと言っているんですかリーネさん?」
シアが突っかかるので僕も横から茶々を入れる。
「存外って言うかシア、お前は普通に子供みたいだぞ」
「へぇ? じゃあどこが子供っぽいのか言ってみてください?」
「胸を両腕で押し上げながら言うな。身体の話をしてるんじゃないんだよ」
確かにお前の胸は大きいし、プロポーションも抜群だけれど、僕とリーネさんが言っているのはそこじゃない。精神年齢のお話だ。
それにしても、実際のところ僕とシアだとどっちが年上なんだろうか。
というかコイツに年齢の概念はあるのだろうか?
僕は前世は一九歳で死んで、今も一九歳な訳だから単純計算しても三八年間は生きている。
シアはそこのところ一体どうなっているんだか。
まあ、この疑問が解決する事は無いと思う。
どうせ年齢の話をしたら「女性に歳の話は厳禁です!」とか言ってくるに違いない。
「確かにシアさんの胸凄いわよねぇ。あたしにも分けてもらいたいわ」
そんな事を言いながらアリザさんが自分の胸を両手で押さえる。
確かに、彼女の胸はなんというか……慎ましやかである。
シアに蹴られないよう視線を別のところへ向けながら思っていると、視界の端でアリザさんがアマーリエさんの背後に回り込んだ。
「その点、アマーリエの胸も結構凄いわよねぇ!」
「きゃっ!」
アマーリエさんの腋の下から二本の手が伸び出てきて、彼女の胸を鷲掴みした。
鷲掴みできるほどの大きさの胸は、服の上からでもはっきり分かるほど形を変えて――痛ッ痛い! シアこいつ脛蹴りやがった!
「何を注視してるんですかフェンリット」
「言っておくが、男なら誰でもこうなる」
シアのジト目をすげなくあしらい、僕は改めて三人に向き直った。
「では、また会いましょう」
「――そうですね。決闘の約束、覚えておきます。きっと、冒険者ギルドにいればまた会う事が出来るでしょう」
僕の言葉に、先ほど女の子らしい悲鳴を上げていたアマーリエさんが応じる。
その声音は、クールな表情に似つかわしい静かなものに戻っていた。
「またねフェンリット君!」
「機会があればまたご飯でも」
手を振るリーネさんとアリザさんが踵を返して去っていく。
彼女らの後を追う様に、アマーリエさんが再び一礼して振り返った。
夕暮れ空のオレンジは時間と共に濃度を増していき、今や赤と言える程になっている。もうすぐ日が暮れる。明るい間に宿へ戻り、夕食をどうするか考えよう。
「さて、僕たちも帰るか」
「そうですね」
泊まっている宿の場所は覚えている。ここから歩いて五分と掛からないところだ。
道を思い出しながら人の流れを進んでいく。
やっと宿が見えてきた。
――そんな時だった。
『きゃあああああああああああああああああああああ!!!???』
「――ッ!?」
女性の悲鳴が耳を叩きつけ、僕とシアは思わず足を止めた。
暴漢、窃盗にでもあったか?
思考が可能性を巡るが、そんな考えは一瞬で淘汰された。
『何で!? どうしてこんな所に!!』
『魔物だ!』
『町の中に突然魔物が出てきたぞ!!』
悲鳴から連鎖するように、人々の注意喚起や疑問の声などが叫び声となって街中に響き渡る。
町の中に魔物が現れた?
訳が分からない。門番を蹴散らしてどうどうと入って来たのなら分かる。町を覆う様に張られた柵を蹴り破って来たのなら分かる。だが、突然現れただと?
そんな僕の思考を読んだのか、シアが口を開く。
「おかしいですね。普通そんな派手に侵入してくれば、こんな町の内部に来るまでに分かるはずです」
「ああ。しかも聞こえた声によると、突然現れたらしい。瞬間移動でもしてきたのか?」
言葉を交わしながらも、僕とシアは人目に付きずらい路地裏の方へと歩みを進めていた。
辺りを見渡し、人目が無い事を確認してから僕は言う。
「シア、【力ノ帯】」
「了解しました」
応じる声と同時に、シアの身体が白い光に包まれた。
――シアの変身能力にはモードが三つ……デフォルトの姿を加えれば四つある。
一つはデフォルトである【狐人族】。狐の因子を持つ人間――亜人の姿。
一つは【白天狐】。四本の尾を持つ白い狐の姿。
そして残り二つの内の一つが――【力ノ帯】。
白い光の中で、彼女の姿が変質していく。
白と金で彩られたそれは、僕の身体を拘束するように巻きつける。
しかしそこに、動きずらさや苦しさは一切存在しない。
むしろ、自分が最適化されたかのような感覚を得る。
∞を描くように胴体に巻きつくのは、僕の身体能力を底上げする帯だった。
【力ノ帯】。
僕の装備としてのシア、そのうちの一つだ。
服の内側に巻きつくシアは、私服の際の着用時特有の台詞を口に出す。
《あぁ、フェンリットの身体……!》
(毎度毎度気持ち悪いからいい加減その反応やめてくれるかな……!!)
頭の中に直接語りかける様な声に、僕も心の中でそう返した。
口に出さずとも完全な意思疎通を出来るのはとても便利だ。
その上僕の肉体性能も上がるのだから、【力ノ帯】モードの彼女は凄まじいほどの『チートぶり』を発揮している。
まあ、装備モードのシアは肉体へかかる疲労もかなりのものなので、あまり長い間変身は出来ないのだが。
故に。
「――さっさと終わらせるぞ」
《ええ》
跳ぶ。
声のする方へ。
昼食をあらかた食べ終わった後、リーネさんがおもむろに尋ねてきた。
僕とシアは思わず顔を見合わせる。
この後の予定と言えば、昨日拾ってきた短剣の【法具】を売る事くらいで、あとは何も決めていない。
強いてあげるなら、ギルドで何か依頼を受けて外に出るか、数日間不便をしない様に町の様子を確認しておく事くらいだ。
「特に予定は入っていませんよ。山賊が持っていた短剣を売っておこうと思っていたくらいです」
「そうなんだ! ならこの後私たちが町を案内しようか?」
何かと積極的なリーネさんがそんな提案をしてきた。
アリザさんとアマーリエさんの方に視線を向けてみると、二人とも頷いて返してくる。
お礼をしたいというつもりならこれ以上はいいのだけれど。
……まあ、シアがどうにも頼みたがっているようだし、お願いするか。
「ではお願いしても良いですか?」
「任せて!」
会計は全部アマーリエさん達がもってくれた。
時刻は三時ちょっと前くらいだが、町の中はそれなりの喧騒が覆っている。
イーレムの町は規模が小さいと言ったが、それは他の『街』に比べたら、だ。
そもそも、本当に小さな町には冒険者ギルドは無い。
町に寄る冒険者はいるだろうが、拠点がなかったり、仮拠点として酒場を利用したりするものだ。
ギルドが無い町では冒険者の出入りも激しい。なので、自警団を形成していたりもする。
アネトの町なんかは冒険者ギルドの無い町の一例である。
僕たちが昼食を食べたのは町の外側の方だったようで、門から入ってくる竜車の姿が見えた。
地竜と呼ばれる四足歩行の竜に引かせる車の事で、おもに商人などが移動の際に売り物を運ばせるのだ。
今町に入ってきた竜車も、荷台に何かと大きなものを乗せ、布を被せて運んでいる。
あの竜車は僕らが通ってきた山道を通ったのだろうか。
山賊を放置していたらきっと襲われていたはずだ。
短剣の【法具】を売るために、一先ずの目的地は武具店になったらしい。
前方では、シアがリーネさんとアリザさんと談笑しながら歩いている。
その様子を眺めていると、僕の傍へとアマーリエさんが寄ってきた。
「どうかしたんですか?」
尋ねると、アマーリエさんは僕と目を合わせ頭を下げた。
「改めて、二人を助けていただいてありがとうございました。感謝してもしきれません」
何度目かのお礼の言葉だった。
なんというか、この人は物凄く律儀な人なのだろう。
見た目からして真面目そうだと思っていたが、中身も相当に真面目だった。
感謝されるのは苦手だったが、ここで受け入れておかないとまたお礼を言われそうな気がする。
僕は苦笑しながら、
「もう、何度目ですか。お昼も御馳走になりましたし、こうして案内もしてもらってる。もう十分お礼は受け取りましたから」
「……すいません、ただどうにも言わずにはいられなくなってしまって。きっと私は無意識に、こんなものじゃ足りないと思っているんです。二人の命を救ってもらったのに、私達はこんなことしか返せていなくて……」
「本当に真面目な人ですね、アマーリエさんは」
まあ、彼女がそれで満足するというのなら、僕は甘んじて受け入れよう。
「そう言うフェンリットさんも真面目なように思えますが?」
「僕のは真面目とは言わないですよ。まあ……常識だったというか」
日本と言う国で二〇年近く生きていた僕は、最低限の礼儀作法はもちろん会得していた。
ちょっとした所作からそこの所を見抜かれたのだろう。
その観察力は普段からのものか、それとも僕を見定めている故のものか。
なんにせよ、別にこの三人に対して何かしようとしている訳でもないし、普段通りでいよう。
「フェンリットくーん! ついたよ!」
リーネさんの活発な声が聞こえてきた。
目的地に着いたようだ。
いつの間にかアマーリエさんと立ち止まっていた事に気が付き、僕は苦笑しながら促した。
「……行きますか」
「そうですね」
笑いを返してくるアマーリエさんと歩き出す。
さて、あの短剣数本はいくらで売れるかな。
□■□
拾ってきた短剣の【法具】が良い値段で売れてから、僕等は町の中を見て回った。
ポーション類の薬品を売っている店や、日用【法具】の販売店、いわゆるアクセサリー型の戦闘用【法具】が売っている店など、色々と案内してもらった。
シアが一番喜んだのは食べ物の出店で、昼食を食べて少ししか経っていないというのにおねだりされた。
短剣が高く売れたから別に良かったのだけれど。
そんな感じで時間は過ぎていき、夕暮れ時。
空がオレンジ色に変わってきた辺りで、僕たちは解散する流れとなった。
三人にお礼を告げる。
「今日はありがとうございました。シアも楽しんでいた様で良かったです」
「なんですかその保護者目線な発言は!!」
「あぁもう大きな声を出すなよ周りの人に迷惑だろ?」
「むぐぐぐ……」
いつも通りなやり取りをしていると、アマーリエさんらはクスクスと笑いだした。
「フェンリット君、これじゃあ君とシアさんどっちが年上なのか分からないね?」
「それは私が存外子供っぽいと言っているんですかリーネさん?」
シアが突っかかるので僕も横から茶々を入れる。
「存外って言うかシア、お前は普通に子供みたいだぞ」
「へぇ? じゃあどこが子供っぽいのか言ってみてください?」
「胸を両腕で押し上げながら言うな。身体の話をしてるんじゃないんだよ」
確かにお前の胸は大きいし、プロポーションも抜群だけれど、僕とリーネさんが言っているのはそこじゃない。精神年齢のお話だ。
それにしても、実際のところ僕とシアだとどっちが年上なんだろうか。
というかコイツに年齢の概念はあるのだろうか?
僕は前世は一九歳で死んで、今も一九歳な訳だから単純計算しても三八年間は生きている。
シアはそこのところ一体どうなっているんだか。
まあ、この疑問が解決する事は無いと思う。
どうせ年齢の話をしたら「女性に歳の話は厳禁です!」とか言ってくるに違いない。
「確かにシアさんの胸凄いわよねぇ。あたしにも分けてもらいたいわ」
そんな事を言いながらアリザさんが自分の胸を両手で押さえる。
確かに、彼女の胸はなんというか……慎ましやかである。
シアに蹴られないよう視線を別のところへ向けながら思っていると、視界の端でアリザさんがアマーリエさんの背後に回り込んだ。
「その点、アマーリエの胸も結構凄いわよねぇ!」
「きゃっ!」
アマーリエさんの腋の下から二本の手が伸び出てきて、彼女の胸を鷲掴みした。
鷲掴みできるほどの大きさの胸は、服の上からでもはっきり分かるほど形を変えて――痛ッ痛い! シアこいつ脛蹴りやがった!
「何を注視してるんですかフェンリット」
「言っておくが、男なら誰でもこうなる」
シアのジト目をすげなくあしらい、僕は改めて三人に向き直った。
「では、また会いましょう」
「――そうですね。決闘の約束、覚えておきます。きっと、冒険者ギルドにいればまた会う事が出来るでしょう」
僕の言葉に、先ほど女の子らしい悲鳴を上げていたアマーリエさんが応じる。
その声音は、クールな表情に似つかわしい静かなものに戻っていた。
「またねフェンリット君!」
「機会があればまたご飯でも」
手を振るリーネさんとアリザさんが踵を返して去っていく。
彼女らの後を追う様に、アマーリエさんが再び一礼して振り返った。
夕暮れ空のオレンジは時間と共に濃度を増していき、今や赤と言える程になっている。もうすぐ日が暮れる。明るい間に宿へ戻り、夕食をどうするか考えよう。
「さて、僕たちも帰るか」
「そうですね」
泊まっている宿の場所は覚えている。ここから歩いて五分と掛からないところだ。
道を思い出しながら人の流れを進んでいく。
やっと宿が見えてきた。
――そんな時だった。
『きゃあああああああああああああああああああああ!!!???』
「――ッ!?」
女性の悲鳴が耳を叩きつけ、僕とシアは思わず足を止めた。
暴漢、窃盗にでもあったか?
思考が可能性を巡るが、そんな考えは一瞬で淘汰された。
『何で!? どうしてこんな所に!!』
『魔物だ!』
『町の中に突然魔物が出てきたぞ!!』
悲鳴から連鎖するように、人々の注意喚起や疑問の声などが叫び声となって街中に響き渡る。
町の中に魔物が現れた?
訳が分からない。門番を蹴散らしてどうどうと入って来たのなら分かる。町を覆う様に張られた柵を蹴り破って来たのなら分かる。だが、突然現れただと?
そんな僕の思考を読んだのか、シアが口を開く。
「おかしいですね。普通そんな派手に侵入してくれば、こんな町の内部に来るまでに分かるはずです」
「ああ。しかも聞こえた声によると、突然現れたらしい。瞬間移動でもしてきたのか?」
言葉を交わしながらも、僕とシアは人目に付きずらい路地裏の方へと歩みを進めていた。
辺りを見渡し、人目が無い事を確認してから僕は言う。
「シア、【力ノ帯】」
「了解しました」
応じる声と同時に、シアの身体が白い光に包まれた。
――シアの変身能力にはモードが三つ……デフォルトの姿を加えれば四つある。
一つはデフォルトである【狐人族】。狐の因子を持つ人間――亜人の姿。
一つは【白天狐】。四本の尾を持つ白い狐の姿。
そして残り二つの内の一つが――【力ノ帯】。
白い光の中で、彼女の姿が変質していく。
白と金で彩られたそれは、僕の身体を拘束するように巻きつける。
しかしそこに、動きずらさや苦しさは一切存在しない。
むしろ、自分が最適化されたかのような感覚を得る。
∞を描くように胴体に巻きつくのは、僕の身体能力を底上げする帯だった。
【力ノ帯】。
僕の装備としてのシア、そのうちの一つだ。
服の内側に巻きつくシアは、私服の際の着用時特有の台詞を口に出す。
《あぁ、フェンリットの身体……!》
(毎度毎度気持ち悪いからいい加減その反応やめてくれるかな……!!)
頭の中に直接語りかける様な声に、僕も心の中でそう返した。
口に出さずとも完全な意思疎通を出来るのはとても便利だ。
その上僕の肉体性能も上がるのだから、【力ノ帯】モードの彼女は凄まじいほどの『チートぶり』を発揮している。
まあ、装備モードのシアは肉体へかかる疲労もかなりのものなので、あまり長い間変身は出来ないのだが。
故に。
「――さっさと終わらせるぞ」
《ええ》
跳ぶ。
声のする方へ。
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