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吸血鬼ミレイの憂鬱

6 遠征

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 遠征の日は朝早くから緊張感に包まれていた。王国の全軍が、隣国への侵略戦争のために広大な野外の集会場に集まっていた。騎士たちの鎧は太陽に輝き、兵士たちは緊張した面持ちで王族の演説を待っていた。

 王アルベルトが高台に立ち、威厳ある声で兵士たちに語りかけた。

「我が勇敢なる兵士たちよ、今日我々は歴史を作る。勝利を我が手にするのだ!」

 次いで第一王子ルイスが前に進み出て、落ち着いた調子で言葉を続けた。

「戦は策略と知恵を要する。各々が役割を果たせば、この戦いは我々のものだ。」

 マーカスは自信に満ちた表情で、兵士たちを鼓舞した。

「力と勇気があれば、どんな敵も倒せる。我々は恐れることなく進むのみ!」

 最後にレオナルドが一歩前に踏み出し、真摯な眼差しで周囲を見渡しながら話し始めた。

「我々の真の敵は、相手国の兵士ではない。不正と不義だ。正義のための戦いに、私は全力を尽くす!」

 この様子は、城の一室で魔法によって見ていたミレイの目にも映っていた。彼女は手の中の魔法の水晶球を通じて、演説するレオナルドの姿に見入っていた。彼の言葉には誠実さがあり、それが兵士たちの心を動かしているのが分かった。

 ミレイは水晶球から目を離さず、レオナルドの安全を祈るようにつぶやいた。
「無事でいて…レオナルド」

 演説が終わり、兵士たちは燃えるような気持ちを胸に、遠征へと出発した。ミレイは遠く離れた場所でも、彼らが戦う姿を見守り続けることを決意していた。

 演説が終わった後、兵士たちが熱気に包まれる中、第一王子ルイスがレオナルドに近づいてきた。

「さすがだ、レオナルド。心に響く演説だったよ」

 ルイスは兄弟の肩を叩きながら微笑んだ。レオナルドは少し照れ臭そうに答えた。

「えっと、ルイス兄さんに言われた通りに言っただけなんだけどね」

 その瞬間、マーカスが二人の間に割って入った。

「言われた通りに言うだけなら、猿でもできるぞ、レオナルド」

 レオナルドはマーカスの嫌味に苦笑いしながら、応じた。

「それなら僕は賢い猿になれるかな? バナナより剣の方が好きだけど」

 その返答に兵士たちの間には笑いが広がり、緊張がほぐれる一幕となった。

 その笑い声が静まり返った後、レオナルドは空を見上げて呟いた。

「来週は満月か…。戦場では見ることができないだろうけど、満月の下で平和が訪れるといいな」

 兵士たちも空を見上げ、満月の話題で少しの間、戦のことを忘れていた。満月は、平和の象徴として彼らの心に静けさをもたらし、遠征が無事に終わることへの願いを込める時であった。
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