「監査官兼執行官アッシュ・ノイマン」ーこの異世界はなにかがオカシイ

『むらさき』

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光の回廊へ

6 『テンセイシャ』とジャガン

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 アッシュはジャガンに対して冷静に、しかし確信を持って話し始めた。

「ジャガン、君の奇跡について考えてみたんだ。それが目を合わせることにより無差別に起きるものだとしたら、あまりに不便ではないか?」

 ジャガンはアッシュの質問に少し驚いた表情を見せた。

「目を合わせることは、私の奇跡を受ける者との強い結びつきを象徴している。それは相手を深く理解し、その心に直接触れるための手段だ」

 アッシュは頷きつつも、その説明には納得していない様子であった。

「しかし、ほんとに不便だ。まるで...

 ジャガンは驚いたようにアッシュの足元を見る。アッシュの言葉には、ジャガン自身も気づかなかった奇跡の本質に対する洞察が含まれていた。

 アッシュはさらに踏み込んだ。

「一般的に奇跡はその保有者の任意によるものだが、制御が効いていない奇跡というのは、たまに聞く」

 ジャガンは一瞬考え込むと、アッシュの指摘に一定の理解を示した。

「確かに、その可能性は否定できない。しかし、私は奇跡を通じて、人々とのより深い結びつきを育むことができると考えている。制御の難しさはあるが、それによって得られるものは大きい」

 アッシュはジャガンの言葉を聞いて、内心で彼の奇跡の本質と、それが人々に及ぼす影響についてさらに深く考えた。

「お前の奇跡は本当に神から与えられたものなのか?」

 アッシュは、ジャガンの奇跡の制御不足について、ある重要な指摘をした。

「制御が効いていない奇跡には、共通点がある。それは『テンセイシャ』によって目覚めさせられた奇跡だ」とアッシュは静かに言い放った。

 その言葉に、ジャガンは明らかに動揺し、その場の空気が一変した。アッシュはジャガンの反応を見て、さらに問いを深める。

「ジャガン、お前は『テンセイシャ』に会ったことがあるのか?」

 ジャガンはその質問に絶句し、しばらくの沈黙の後、支離滅裂な言葉を口にした。

「『テンセイシャ』は…、あの人は…、私を…」彼の言葉は断片的で、明確な答えにはなっていなかった。しかし、彼の目には恐怖と混乱が浮かんでいた。

 そして、突然、ジャガンは

「『テンセイシャ』は私を助けてくれた」

 と言い残し、その場で自己の命を絶つ決断を下した。彼の行動は突然で衝撃的であり、アッシュを驚愕させた。

 ◇

 ジャガンは激しい感情の嵐に飲み込まれ、部屋の中を急いで飛び出した。彼の目は混乱と恐怖で満ちており、口からは理解不能な奇声が漏れていた。廊下には信者たちが彼の様子を心配して集まっていたが、ジャガンは彼らに目もくれず、ただただ前へと進んでいった。

「逃げろ!逃げろ!」

 ジャガンは叫びながら、彼の前に立ちはだかる信者たちを強引に押しのけた。彼の行動にはパニックと絶望が混じり合っており、誰もがその場で凍りついてしまった。

 彼が最後に向かったのは、大きな窓がある廊下の端だった。信者たちは恐怖に駆られながらも、ジャガンを止めようと後を追った。しかし、彼らが手を伸ばすよりも早く、ジャガンは窓に飛びついた。

「この呪いから解放されるんだ!」

 ジャガンは最後の力を振り絞り、窓ガラスを突き破って外へと身を投げた。その瞬間、信者たちの間には悲鳴が響き渡った。

 ジャガンの体が地面に激突する音は、静かな夜に響き渡り、周囲にいた人々の心を深く揺さぶった。信者たちは窓のそばに駆け寄り、信じられない光景に目を奪われた。

 ジャガンの行動は、彼が抱えていた深い苦しみと絶望の表れだった。彼は自分の奇跡がもたらした影響と、それによって引き起こされた混乱から逃れるために、自らの命を絶つという極端な選択をしたのだった。

 窓から外を見下ろす信者たちの表情には、悲しみと衝撃が浮かんでいた。ジャガンの行動は彼らにとって、深く考えさせられる出来事となり、彼ら自身の信仰と奇跡に対する理解を改めて問い直すきっかけとなった。 

 ◇

 報告書

 報告者:アッシュ・ノイマン

 件名:ジャガンの自決と『光の回廊』の今後に対する支援の提言

【報告内容】

 1. 事件の概要

 ジャガンの自決は、彼が持つ奇跡の力に苛まれた結果であると推測される。『光の回廊』の教祖であった彼は、奇跡の力を制御することに苦しみ、精神的な圧力から逃れるために最終的に自決を選択した。この悲劇は、『光の回廊』だけでなく、社会全体に大きな衝撃を与えた。

 2. 『光の回廊』の今後

『光の回廊』は、ジャガンの死後、混乱と不安が広がっている。彼の指導の下で成長した宗教団体は、彼の不在が大きな空白を生み出している。このような状況下で、『光の回廊』が再び正しい方向へ進むためには、外部からのサポートが不可欠である。

 3. サポートの提言

 本報告書では、以下のような支援策を提言する。

 - 騎士団及び自治組織の介入:『光の回廊』の安定化と、信者たちの精神的サポートを目的とした介入が必要。宗教団体内部の管理体制の再構築を支援する。
 - 他の宗教団体との協力:『光の回廊』に対する理解を深め、信者たちが安心して信仰生活を送れるよう、他の宗教団体との対話と協力を促進する。

 4. 結論

 ジャガンの自決は、『光の回廊』にとって大きな試練であると同時に、社会全体が奇跡とその影響について深く考える契機となるべきである。騎士団、自治体、他の宗教団体の協力を得て、『光の回廊』とその信者たちが再び前を向いて進めるよう支援することが、我々の責務である。

 以上、報告とする。 
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