途轍もなくしょうもない題名が多い短編集

『むらさき』

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墓場から蘇って復讐します

読み切り

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 月明かりが静かな墓場を照らす夜、ひっそりとした空気が漂っていた。その静謐な時、一つの墓から微かな動きがあった。地面がふわりと持ち上がり、そこから細い手が現れた。この手は、生命の息吹を失ったはずのものだが、今、新たな目的によって動き始めていた。

「うぅん…」

 声はかすかに、しかし確かに空気を揺らした。墓から這い出たのは、かつての美しい女性、エリナだった。彼女の目には不思議な光が宿り、死の静寂を打ち破るような力が満ちている。エリナの身体は、墓場の泥にまみれながらも、彼女の意志でしっかりと立ち上がる。

「復讐…それが私をここから呼び起こした…」

 エリナは静かにつぶやき、周囲を見渡した。月明かりの下、彼女の姿は幽玄な美しさを放っていた。彼女の心には、生前に受けた裏切りとその痛みが鮮明に残っており、それが今、彼女の行動を突き動かす唯一の理由となっていた。

 しかし、エリナはただの復讐心に支配されたゾンビではなかった。彼女の中には、かつての優しさや愛情も残っており、それが彼女の復讐をより複雑なものにしていた。彼女は墓場を後にし、かつての自分を破滅させた者たちへの復讐を果たす旅に出るのだった。

 エリナの心は、死ぬ前の記憶を思い出していた。彼女が偶然目にしたのは、夫マーティンが他の女性と密かに笑い合っている場面だった。あれは知り合いの給仕リナだった。その裏切りの瞬間が、彼女の運命を暗転させる引き金となった。その夜、彼女はマーティンに問いただそうとしたが、逆に命を奪われてしまったのだ。

 蘇ったエリナは、その深い悲しみと怒りを胸に、まずは弟のルドガーに会いに行くことに決めた。ルドガーはエリナが心から信頼する唯一の家族であり、彼女の復讐計画に協力してくれることをエリナは確信していた。

 夜の帳が深まる中、エリナはルドガーの家へと向かった。彼の家は、小さな村のはずれにある古びた木造の家だった。エリナが扉をノックすると、中から不思議そうな声がした。

「こんな夜更けに、誰だ?」

 扉が開き、ルドガーの驚きに満ちた顔が現れた。彼は一瞬、目の前の女性が姉のエリナだとは信じられない様子だったが、すぐに彼女の身体に抱きついた。

「エリナ…?本当に、君なのか?」

 エリナは静かにうなずき、彼の前に立つ自分の姿を説明した。ルドガーは最初は戸惑いながらも、エリナの話を真剣に聞いた。そして、彼女が復讐を決意していることを知ると、弟として、また唯一の家族として、彼女を支えることを誓った。

「エリナ、私が全力で協力する。正義を果たすために、私ができることは何でもしよう」

 ルドガーの言葉にエリナは感謝の気持ちを抱き、二人は復讐の計画を練り始めた。マーティンの裏切りと、それによって引き起こされたエリナの悲劇的な死。これらの真実を暴き、エリナの名誉を回復させるために、兄妹は力を合わせることにした。

 ルドガーは、エリナの復讐計画の第一歩として、マーティンの浮気相手を精神的に追い詰めることに決めた。彼は、この女性リナがエリナの死にどう関わっているかを完全には理解していなかったが、彼女がこの悲劇の一端を担っていることは疑いようがなかった。

 計画を練るにあたり、ルドガーは直接的な暴力や危害を加えることは避けることにした。代わりに、彼は心理的な圧力をかけ、女性が自らの行動について深く反省するよう仕向けることを目指した。彼は、この女性が持つ罪悪感を最大限に引き出すことで、エリナへの正義を果たそうと考えた。

 ルドガーは、まず女性の日常生活にさりげなく介入し始めた。彼女の周囲に匿名の手紙を残したり、エリナの持ち物を彼女の目に触れる場所に置いたりすることで、女性の心に罪悪感と不安を植え付けた。手紙には、愛する人を失った悲しみや裏切りの痛みについて書かれており、直接的な脅迫ではなく、心に深く響く言葉で女性を追い詰めていった。

 リナは、心の中で渦巻く罪悪感と不安をもはや一人で抱えきれなくなり、とうとうマーティンに相談することを決意した。彼女は、マーティンの家に向かい、扉をノックした。マーティンが「入って」と言うと、リナは深く息を吸い込みながら部屋に入った。

「マーティン、私...私たちのことについて話さなくちゃいけないことがあるの」とリナは言い始めた。彼女の声は震えていた。マーティンは彼女の様子がおかしいことに気づき、心配そうに尋ねた。

「どうしたんだ?大丈夫か?」

 リナは答える前に一瞬ためらったが、彼女の心に重くのしかかっていた言葉を吐き出すことにした。

「最近、とても変なことが起こっているの。私の周りに匿名の手紙が届いたり、エリナさんの持ち物が突然現れたり...。これは全部、私たちのせいだと思う。私たちの関係がエリナさんを傷つけたんじゃないかと...」

 マーティンは静かに聞いていたが、彼の顔には不安が浮かんでいた。

 その瞬間、部屋の空気が突如として冷たくなり、二人はぞっとするような感覚に襲われた。窓の外に、エリナの姿が現れた。エリナは静かにマーティンとリナを見つめ、その表情は悲しみと怒りで満ちていた。

 エリナの出現に驚愕し、リナは声も出せずに震えた。マーティンもまた、信じがたい光景に言葉を失っていた。エリナは二人に向かって、声なき声で訴えかけるように手を伸ばした。その瞬間、部屋にあったエリナの写真が突然落ち、ガラスが粉々に砕け散った。

 エリナの姿はやがて消え去ったが、彼女の存在が示したメッセージは明らかだった。彼女の死に関わる真実を、二人はもはや逃れることはできない。

「あんなことをするべきではなかった!」

 リナの言葉が部屋に響き渡ると、それを聞いたマーティンは怒りに震えた。彼の心は激しい感情の渦に飲み込まれ、理性が吹き飛んだ。マーティンはリナから目を逸らし、その場を離れることを決意した。彼は何も言わずに部屋を飛び出し、エリナの眠る墓場へと向かった。

 マーティンの足取りは重く、彼の心は罪悪感と怒りで満ちていた。彼は自分がエリナにしたこと、そしてその結果として起こったすべての悲劇に対する責任を感じていた。夜の闇が彼を包み込む中、マーティンは墓地の門をくぐり、ゆっくりとエリナの墓石の前に立った。

 月明かりの下、エリナの墓石は静かに佇んでいた。マーティンは墓石の前にひざまずき、頭を下げた。

「エリナ、ごめんなさい...。僕の愚かさが、全てを台無しにした。君がこんな運命を辿ることになるなんて、僕は想像もしていなかった...。」

 マーティンの言葉が夜の静けさに溶け込むと、突然、エリナの墓から冷たく湿った手が伸び出し、彼の腕を強く掴んだ。その手は生命のないものではなく、不思議な力で満ちているようだった。マーティンは恐怖で声も出せず、その手によってゆっくりと墓の中へと引きずり込まれていった。

 彼が何を叫ぼうとも、周りの空気は彼の声を遮り、誰にも届かない。マーティンは墓石と土の間の狭間を通り、完全な闇の中へと消えていく。その瞬間、彼はこの世界とは異なる、別の次元へと足を踏み入れたような感覚を覚えた。

 この世とあの世の狭間、時間も空間も曖昧になる場所で、マーティンはエリナに再び出会った。彼女はかつての愛するエリナとは異なり、神秘的な光に包まれ、この世ならざる美しさを放っていた。マーティンはその場にひざまずき、深い悔恨と愛情を込めて、エリナに向けて言葉を紡いだ。

「エリナ、僕の愚かな行動が、君をこの運命へと導いた。僕のせいで、君はこの世とあの世の間で苦しんでいる。本当にごめんなさい。僕のこの罪を、どうか許してほしい」

 エリナは微笑み、その優しく意味深な表情はマーティンの心を不気味に包み込んだ。
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