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『闇バイト』
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封筒の中には、たった一行の指示が書かれていた。
「指定の時間、目隠しをしてこの建物に入れ。」
やっぱり、ただの犯罪の手伝いか。俺はそう思った。報酬も破格だったし、ろくなもんじゃないのは分かっていたけど……背に腹は代えられなかった。
ビルの非常階段を昇り、目隠しをしたままドアを開ける。中に入ってから、指示通り目隠しを外す。
——暗い。
中は真っ暗だった。目隠しを外しても、何も変わらない。
“闇バイト”って、そういう意味だったのかよ……。
苦笑が漏れた。洒落がききすぎている。
と、その瞬間——
「ガチャン」という重い金属音が背後から響いた。
慌てて振り返るも、何も見えない。ドアに触れてみても、びくともしなかった。
閉じ込められた。
薄気味悪さと、少しの焦りが胸に広がる。
何分たったのかもわからない。空間の広さも、壁の位置も、まるでつかめない。手探りで進もうとしたが、段差に足を取られ、転倒した。
「ふざけんな……これ、マジで危ねえじゃねえか……」
そのとき、暗闇の中から声がした。
「君、今回が初めてかい?」
反射的に身構える。
「安心して。俺も参加者さ。別に危害を加える気はないよ。本当は手助けしちゃダメなんだけど……ついね。」
少し間があって、声が続いた。
「……ちょっとごめんね」
突然、誰かの手が俺の腕を取った。反射的に身を引こうとしたが、その手はあまりに自然で、優しかった。
「これが壁。今、君の手をここに当てた。触ってみて。金属の棒があるだろう? これが手すりだ。これに沿って進んでみて」
手を添えられた先には、確かに冷たい金属の感触があった。
「少し進んだら、足元にザラザラした凹凸があるはずだ。それが進むべき方向だよ」
言われた通りに進むと、確かに床に帯状のざらつきを感じた。さらに進むと、「ピン、ポン」という高い電子音が、一定の間隔で鳴っていた。
音の方向に進むと、自動ドアが開いた。
光が差し込む。暗闇が終わった。
中にいたのは、スーツ姿のスタッフだった。
「お疲れさまでした。こちらが報酬です。」
封筒が渡される。
「あなたの体験データ、大変貴重なものとなりました。」
意味が分からず首をかしげる俺に、スタッフは説明を始めた。
このバイトは、視覚障害者、特に外国人観光客のために設計されたバリアフリー設備の実地モニタリングだったという。
参加者に何も知らせず、どこまで安全に誘導されるかを試すため、完全な暗闇で行われたのだ。
「あなたの行動は、非常に有意義な社会貢献でしたよ。」
文句の一つも言いたかったが、その言葉に口をつぐんだ。
帰り道。駅前の通路で、白杖を手に迷っている中年の男がいた。少し迷ってから、俺は声をかけた。
「エレベーター、あっちですよ。一緒に行きましょうか?」
男は少し驚いたあと、笑ってこう言った。
「ありがとう。君、今回が初めてかい?」
その声に、俺は思わず立ち止まった。
——あの暗闇の中で、俺の手を取ってくれた。あの声と、同じだった。
「指定の時間、目隠しをしてこの建物に入れ。」
やっぱり、ただの犯罪の手伝いか。俺はそう思った。報酬も破格だったし、ろくなもんじゃないのは分かっていたけど……背に腹は代えられなかった。
ビルの非常階段を昇り、目隠しをしたままドアを開ける。中に入ってから、指示通り目隠しを外す。
——暗い。
中は真っ暗だった。目隠しを外しても、何も変わらない。
“闇バイト”って、そういう意味だったのかよ……。
苦笑が漏れた。洒落がききすぎている。
と、その瞬間——
「ガチャン」という重い金属音が背後から響いた。
慌てて振り返るも、何も見えない。ドアに触れてみても、びくともしなかった。
閉じ込められた。
薄気味悪さと、少しの焦りが胸に広がる。
何分たったのかもわからない。空間の広さも、壁の位置も、まるでつかめない。手探りで進もうとしたが、段差に足を取られ、転倒した。
「ふざけんな……これ、マジで危ねえじゃねえか……」
そのとき、暗闇の中から声がした。
「君、今回が初めてかい?」
反射的に身構える。
「安心して。俺も参加者さ。別に危害を加える気はないよ。本当は手助けしちゃダメなんだけど……ついね。」
少し間があって、声が続いた。
「……ちょっとごめんね」
突然、誰かの手が俺の腕を取った。反射的に身を引こうとしたが、その手はあまりに自然で、優しかった。
「これが壁。今、君の手をここに当てた。触ってみて。金属の棒があるだろう? これが手すりだ。これに沿って進んでみて」
手を添えられた先には、確かに冷たい金属の感触があった。
「少し進んだら、足元にザラザラした凹凸があるはずだ。それが進むべき方向だよ」
言われた通りに進むと、確かに床に帯状のざらつきを感じた。さらに進むと、「ピン、ポン」という高い電子音が、一定の間隔で鳴っていた。
音の方向に進むと、自動ドアが開いた。
光が差し込む。暗闇が終わった。
中にいたのは、スーツ姿のスタッフだった。
「お疲れさまでした。こちらが報酬です。」
封筒が渡される。
「あなたの体験データ、大変貴重なものとなりました。」
意味が分からず首をかしげる俺に、スタッフは説明を始めた。
このバイトは、視覚障害者、特に外国人観光客のために設計されたバリアフリー設備の実地モニタリングだったという。
参加者に何も知らせず、どこまで安全に誘導されるかを試すため、完全な暗闇で行われたのだ。
「あなたの行動は、非常に有意義な社会貢献でしたよ。」
文句の一つも言いたかったが、その言葉に口をつぐんだ。
帰り道。駅前の通路で、白杖を手に迷っている中年の男がいた。少し迷ってから、俺は声をかけた。
「エレベーター、あっちですよ。一緒に行きましょうか?」
男は少し驚いたあと、笑ってこう言った。
「ありがとう。君、今回が初めてかい?」
その声に、俺は思わず立ち止まった。
——あの暗闇の中で、俺の手を取ってくれた。あの声と、同じだった。
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