『行動予約』

スタシスホメオ

文字の大きさ
22 / 41

水の交換

しおりを挟む
 宇宙人との取引が、珍しくなくなった時代のこと。

 地方に小さな池を所有する一人の地主のもとへ、奇妙な申し出が届いた。送り主は、第三銀河通商連合なる異星の組織。
 曰く──「あなたの池の水と、我々の星の水を交換したい。報酬は支払う。」

 当然ながら、男は怪しんだ。汚染水や外来種を持ち込まれたら、農地にだって被害が出る。
 男はすぐに業者を呼び、先方の“水”を入念に検査させた。

 結果は良好。むしろ元の池よりも透明度が高く、飲用にも適しているという。
 念のため、自分の池の水も調べてみた。ひょっとすると、知らずに高価なミネラルを含んでいる可能性もある。
 ──しかし、こちらもただの、ごく普通の水だという結論だった。

「宇宙人の考えることはよく分からんが……まあ、金になるならいいか」

 男は契約に同意し、交換の日を迎えた。

 宇宙人たちは礼儀正しく、作業は実にスムーズだった。
 まず池の水を専用のバキューム装置で抜き取ると、宇宙船から伸びたホースから新しい水が流れ込み、みるみる池が満ちていく。

 見た目はまったく同じだった。匂いもない。波紋の広がり方さえ、前と変わらない。
「……こりゃ、何も変わっちゃいねえな」

 そう思いながらも、男は宇宙人から報酬を受け取り、満足げに宇宙船を見送った。

 異変に気づいたのは、それから数日後の夜だった。

 窓に、妙な光がちらついている。
 外に出ると、池の上空に巨大な立体映像が浮かび上がっていた。

 色とりどりのドラゴン。空を翔ける異星の馬。尻尾のある巨鳥。
 どれも、池の中心から湧き出すように現れては、空に舞い、池に消える。まるで夢のようなショータイムだった。

「なるほど……そういうことか」

 男は思った。

 これはおそらく、宇宙人が廃棄したかった故障品だ。
 液体状の立体投影装置なんて、聞いたことがなかったが──
 業者の検査でわからなかったのも、そういう技術だったからに違いない。

「まあいい。調査会社にはクレームを入れて金を取り戻すとして……この映像、うまくやりゃ金になる」

 男はさっそく告知を出した。「池の上で毎晩開催される異星の幻獣ショー」──見物料つきだ。
 口コミは瞬く間に広がり、池は連日行列。地方の小さな池は、一夜にして観光地となった。

 男は笑いが止まらなかった。

 * * *

 一方その頃、宇宙船の船内では、異星人たちが乾杯していた。

「いやあ、うまくいきましたなあ。これで呪いの池ともおさらばですぞ」

「幽霊の出る池を地球の田舎に丸ごと移すとは……我ながら天才的判断」

「ちょっと心が痛みますな、あの地球人には説明もせず……」

「それが、それがですよ……地球人たち、あの幽霊を“幻想的”とか言って大喜びしてるらしいですぞ」

「なんと!? あんな恐怖の幽霊をですか!?」

「ええ。しかもお金まで払ってるとか。まったく、文化の違いとは不可解なものですな」

「……そういえば、あの男からお礼の手紙と“現地の映像”が届いていますが……ご覧になりますかな?」

「いやいや、とんでもない。そんな恐ろしい映像、見たくありませんぞ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

コント文学『パンチラ』

岩崎史奇(コント文学作家)
大衆娯楽
春風が届けてくれたプレゼントはパンチラでした。

処理中です...