30 / 41
偉業
しおりを挟む
石槍を携えた男は、荒れた浜辺を歩いていた。
獲物の気配はない。ここ数年、海では魚が獲れなくなっている。冬の間は山の獣も姿を消し、獲物は減るばかりだ。
──すべては、あの“悪魔”のせいだ。
奴らが現れてから、海の生き物は姿を消した。餌を奪われ、棲みかを荒らされ、海は静まり返ってしまった。
男はため息をつく。今日も収穫はなしか──そう思ったそのとき。
海辺に、突如として光が走った。
波打ち際に現れたのは、異様な姿の男。銀色の服、妙な装飾、手には何やら光る小さな筒のようなものを持っていた。
「……石槍を下ろしてくれ。私は未来から来た者だ」
男は警戒しながらも、その者に敵意がないことを感じ取る。槍を下ろすと、未来人は深く頷いた。
「安心してくれ、私は君を傷つけに来たわけではない」
男は黙って頷いた。
「君の名は歴史には残らないが……その“偉業”は、永遠に語り継がれることになるだろう」
そう告げると、未来人はザバザバと海へ入っていく。
「無駄だ。魚はいない。あの“黒い悪魔”のせいでな……」
男の声も届かぬまま、未来人は岩場の隙間をまさぐる。そして、何かを掴んで戻ってきた。
「……やめろ、それは近づくな。呪われるぞ……!」
男が叫ぶ。未来人が持っていたのは、無数の槍のような棘に覆われた、黒く硬い塊。水気を含んだその異形の生物は、まるで悪意の塊のように脈打っている。
「これは……“悪魔”ではない。ただの海の生き物だ」
未来人はそれを石に叩きつけて割り、中をすくうように指でなぞった。
とろりと、黄金のような身が現れる。見た目はまるで、腐った内臓か毒の塊のようだ。
「……試してみてくれ。たった一口でいい」
男は目を細めた。槍のような棘、黒く光る殻、粘つく中身。
──本能が、警鐘を鳴らす。
だが、腹が鳴った。
男はゆっくりと手を伸ばし、指先ですくいとったそれを、口へ運ぶ。
──……潮の香り。甘さと、苦さ。口内に広がる未知の味に、男の動きが止まる。
「……なんだ、これは……!」
言葉にできぬ旨さ。野生のどの肉とも、果実とも違う。だが確かに“うまい”と体が叫んでいた。
未来人は満足そうに微笑む。
「人はなぜこれを食べようと思ったのか──我々の時代でも、よく話題になる」
そして、改めて言った。
「君の名は残らない。だが、“ウニを初めて食べた人”として、その偉業は未来永劫、語り継がれる」
男は未来人の言葉の意味を理解できずにいたが、口の中の余韻だけは確かだった。
彼は再び海を見つめた。棘に覆われた黒い悪魔たちが、岩陰にうごめいている。
──それは、今や“宝”に見えた。
獲物の気配はない。ここ数年、海では魚が獲れなくなっている。冬の間は山の獣も姿を消し、獲物は減るばかりだ。
──すべては、あの“悪魔”のせいだ。
奴らが現れてから、海の生き物は姿を消した。餌を奪われ、棲みかを荒らされ、海は静まり返ってしまった。
男はため息をつく。今日も収穫はなしか──そう思ったそのとき。
海辺に、突如として光が走った。
波打ち際に現れたのは、異様な姿の男。銀色の服、妙な装飾、手には何やら光る小さな筒のようなものを持っていた。
「……石槍を下ろしてくれ。私は未来から来た者だ」
男は警戒しながらも、その者に敵意がないことを感じ取る。槍を下ろすと、未来人は深く頷いた。
「安心してくれ、私は君を傷つけに来たわけではない」
男は黙って頷いた。
「君の名は歴史には残らないが……その“偉業”は、永遠に語り継がれることになるだろう」
そう告げると、未来人はザバザバと海へ入っていく。
「無駄だ。魚はいない。あの“黒い悪魔”のせいでな……」
男の声も届かぬまま、未来人は岩場の隙間をまさぐる。そして、何かを掴んで戻ってきた。
「……やめろ、それは近づくな。呪われるぞ……!」
男が叫ぶ。未来人が持っていたのは、無数の槍のような棘に覆われた、黒く硬い塊。水気を含んだその異形の生物は、まるで悪意の塊のように脈打っている。
「これは……“悪魔”ではない。ただの海の生き物だ」
未来人はそれを石に叩きつけて割り、中をすくうように指でなぞった。
とろりと、黄金のような身が現れる。見た目はまるで、腐った内臓か毒の塊のようだ。
「……試してみてくれ。たった一口でいい」
男は目を細めた。槍のような棘、黒く光る殻、粘つく中身。
──本能が、警鐘を鳴らす。
だが、腹が鳴った。
男はゆっくりと手を伸ばし、指先ですくいとったそれを、口へ運ぶ。
──……潮の香り。甘さと、苦さ。口内に広がる未知の味に、男の動きが止まる。
「……なんだ、これは……!」
言葉にできぬ旨さ。野生のどの肉とも、果実とも違う。だが確かに“うまい”と体が叫んでいた。
未来人は満足そうに微笑む。
「人はなぜこれを食べようと思ったのか──我々の時代でも、よく話題になる」
そして、改めて言った。
「君の名は残らない。だが、“ウニを初めて食べた人”として、その偉業は未来永劫、語り継がれる」
男は未来人の言葉の意味を理解できずにいたが、口の中の余韻だけは確かだった。
彼は再び海を見つめた。棘に覆われた黒い悪魔たちが、岩陰にうごめいている。
──それは、今や“宝”に見えた。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる