乙女ゲームのお邪魔お局に転生してしまった私。

よりにもよって卑眼蚊かよ～！？

鏡に映っていたのは、私の姿じゃなく・・・




「よりにもよって卑眼蚊(ヒメカ)かよ～！？」




そう、私こと山田ヒミコは、30歳独身の農協職員だった。

組合員の家へ訪問する際に、信号無視したダンプに撥ねられて・・・おそらく死亡。

何がムカつくかって？そのダンプを運転していたのは、近所でも有名なボケジジイだったってことよ！！

とは言っても、もう私はあの世界にはいない。

あの世界にさえとどまっていれば、たとえ幽霊であろうとジジイを三途の川に突き落とす元気くらいはあっただろうに。

しかし、壁に掛けてある金縁の八角形の鏡は確実に卑眼蚊の顔を映し出していた。

―卑眼蚊。

非モテの私がやり込んでやり込んだ、アニメ化まで約束された大人気乙女ゲームである「どきどきオフィスラブ」の主人公―ではなく。

彼女をいじめにいじめ、彼女が職場のイケメンといい雰囲気になると、写真を撮ってばら撒いたり、音声を録音して社内放送するなどのエグイ嫌がらせをする、デブでブスで性格の悪いお局。

主人公がどのルートに入ってもお邪魔キャラとして参上する【悪役お局】である。

そして、主人公がどの攻略キャラとハッピーエンドになっても必ず退職に追い込まれるのだ。

平社員と結ばれるのであればまだいい。

卑眼蚊こと城之内姫華は仕事だけは完璧な女性だ。

同業他社にいとも簡単に転職成功している。

しかし、主人公が会社の幹部や取引先の幹部と結ばれた場合―卑眼蚊はこの業界のブラックリストに載ってしまい、同業他社から相手にされず、スーパーのパートをするものの馴染めずにすぐに辞めてしまう。

ちなみに、なぜ私が城之内姫華を【卑眼蚊】と呼んでいるのかというと、城之内姫華のあだ名だからである。

城之内姫華はイケメンが大好きで、イケメンを見つけるや否やいやらしい目つきで猫撫で声ですり寄っていくのである。

そして、自分以外の（若くて可愛い）女がイケメンと楽しそうにしていると、女を追い払いイケメンにニヨニヨしながら色目を使う。

その様子から、どきどきオフィスラブファンから【卑しい目で蚊のようにイケメンに纏わりつく】卑眼蚊と不名誉なあだ名をつけられてしまったのだった。

それだけならまだしも、公式も城之内姫華を卑眼蚊呼ばわりしだしたのだ。

Xで公式が新キャラ情報を出した際には「彼は特に卑眼蚊のお気に入りなので気を付けて攻略してねｗ」などというポストがされたりなど、ファンをざわつかせたものである。

私はため息をつきながら、もう一度鏡を見る。

肩まであるボサボサで白髪交じりの黒髪、肉が付き垂れ下がる頬と、それが強調するほうれい線。

血色の悪い厚いとも薄いとも言えない唇に、ハリがない肉が垂れ下がり、風が吹けばそよぎそうな二重顎。

本来ならばセクシーとも言える右目尻のホクロも、デブスに付いている時点でシミ？と言いたくなるようなものだった。

「ぶっさ・・・」

鏡から目を離し、目線を下に向けてやる。

すると、肥満だから大きいだけの胸、服の上からでもわかる鏡餅みたいなお腹、スカートから覗く大根脚にはセルライト。

「卑眼蚊・・・痩せろよ・・・」

いや、今は自分が城之内姫華なのだ。

とりあえず、痩せなければ。

そして、今はゲームの時間軸にしてどれくらいの時期なのだろう？

主人公の入社がゲームの開始だ。

「明日会社に行けばわかるか・・・」

私は卑眼蚊のクローゼットから、【城之内】と刺繍されたジャージを引っ張り出して着替え、スニーカーを履いて外へ駆け出した。

そう、ダイエットである。