乙女ゲームのお邪魔お局に転生してしまった私。

「この腕時計って、どこで購入されたものですか？」

「お客様、電池交換が終了しました」

そう時計屋さんに声を掛けられてハッとする。

もう少しだけ、ショーケースを見て入たかったなと、名残惜しい気持ちになる。

「あ、ありがとうございます」

預けた腕時計の文字盤を覗き込むと、秒針がチクタクと動いている。

秒針が動いているせいなのか、店内の照明が時計を美しく照らしているのか・・・腕時計が今までよりもイキイキしているような、そんな気がした。

私は慌てて財布から１１００円を取り出した。

最初に料金は１１００円だと言われていたのに、また言わせるのは何となく悪いような、自分が値段を覚えていないアホみたいに思われたら嫌だなとか、ネガティブな気持ちが湧いてきて５００円玉２つと１００円玉１つをトレーにそっと載せた。

「１１００円でしたよね、細かくてすみません」

「はい、・・・あ、いいえ。

こちらとしては丁度いただけてありがたいですよ。

ところで・・・」

と時計屋さんのイケメンな眼差しが電池交換をお願いした時計に落とされた。

「この腕時計って、どこで購入されたものですか？」

「え・・・」

これは、本当は私のものじゃなくって！

何て言えば良いんだろうか。

「っと、頂き物なので、どこで買ったかまでは・・・」

「どなたに頂いたんでしょうか？」

「それは・・・」

姫華を中学時代に妊娠させて逃げた元カレです、と正直に言えたらどれだけ楽だっただろうか。

いや、それはそれで重すぎてドン引きされそうだ。

「おじいちゃ、そ、祖父です」

苦し紛れに姫華を唯一可愛がってくれた血縁者だと言う。

「高校進学の時に買ってもらって・・・」

「お爺様が購入されたにしては可愛らしいデザインですね」

「きっと家政婦さんと買いに行ったんです」

ふと真弓さんの顔が思い浮かんで、ちょっとだけ泣きそうな気持ちになる。

腕時計の話は嘘なのに。

「そう・・・ですか」

「はい、あの、この腕時計が何か・・・？

もしかして、盗品だったりしますか？」

もしもそうならお返ししてお詫びします、と言いかけたその時。

「昔、付き合っていた彼女にあげたのと同じ時計なんです、それ。

でも、俺はその彼女ととても酷い別れ方をしたんですよ。

あなたが何となくその彼女に似ていて、同じ時計まで持っていたのでもしかしてと思って・・・。

彼女が俺なんかがあげたものを未だに持っているワケないのに」

こんなイケメンでも、昔の彼女とか気にしてるんだ。

「忘れた方が良いと思います」

「え？」

悲しそうな表情から突然驚いた表情になる時計屋さん。

「女は別れた男――しかも酷い別れ方した男のことなんて、二度と思い出したくないし、むしろ黒歴史です。

時間が経てば死ねとか不幸になれという感情はなくなりますけど。

お互い一生関わらないでお互いを一生忘れて全然別の場所でお互い別々の幸せを手にできたらなと思います」

正直私は、自分に酔っている男が大嫌いである。

『あの時もっと大事にしてたら・・・』『別々の道を歩むしかなかったんだろうか・・・』『悪い所直せば今も付き合っていれたのかな』なーんて別れてから思ったってもう遅いしどうにもならない。

だから思わず時計屋さんに毒吐いてしまった、申し訳ない。