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翔太編
六月
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「じゃ、行ってきます」
「あなたたちの仲も取り持ってくれたようなものなんだから、改めてお礼も言うのよ」
「そりゃあ、もちろん」
スーツとかを入れた大きめのバッグを抱えて、タクシーに乗り込んだ。美鈴も迎えに行ってから駅に着いたが、ここに来ると思い出すのは去年の夏の事である。
「懐かしい…ってのは、違うのかしら」
「違うよね」
二人して笑って、改札をくぐる。
ここから大輔と裕美さんの結婚式場まで、新幹線を経由して3時間くらいの行程だ。今日中に帰ってくることもできたのだが、美鈴と相談して一泊することにした。
できれば大輔らとまた一緒に遊べればと思わなくもなかったが、結婚式の後ではご家族といろいろあるわけで、さすがにそれは無理だったが、食事をするくらいは時間をとれるということだったので、夜に食事会をすることとした。新婚旅行はすぐではなく一週間後だとか。休暇自体はかなり長期間取っていて、新婚旅行までの一週間の間に当日来られなかった親戚にも訪問して報告するそうなのだ。律儀なものだ。しかし、それもプレ新婚旅行みたいなものじゃないのかな。
会社の景気が良くて、二人とも結構な高給取りだからできることだとも言える。
時期的には梅雨の真っただ中なわけだが、まあよくきっちり晴れたもんだ。さすがに式は会場の中であるが、披露宴はガーデン形式である。チャレンジャーだなあ。
「いやあ、裕美がジューンブライドとガーデンパーティーを譲らなくてなあ」
「でも言ったでしょ。あたしは晴れ女なの」
「でもそれは、人生の節目でチャレンジしすぎじゃない?」
「節目だからこそじゃないの。一度しかないことなのよ。…多分」
「こらこら」
「それでも二人が結婚することのきっかけは、あの時の大雨だったんでしょ」
「そうなのよね。ホント、美鈴さんには感謝してる」
二人とも本当に幸せそうである。
さすがにこの披露宴では、俺たちの婚約のことまで言う時間はなさそうである。二人揃ってあちこちで話に花を咲かせている。それにしてもすごい人数の出席者だ。一番多いのは勿論会社関係だろう。
そんな中に懐かしい高校の時の同級生を見つけた。大輔といっしょにバカをやった仲間だ。俺の結婚式にも呼びたいと思って聞いたら、秋に海外への転勤が決まっているのだそうだ。栄転であるから喜ばしい事なのだが、タイミング的には残念である。
本当にいい披露宴だったと思う。
食事会の約束は夜八時。結構時間が空いてしまうがどうしようかと思ったのだが、駅付近にあったシアターで映画を見ようという話になった。ところが、夜七時頃に終わる丁度いい時間のものが子供向けのアニメしかなかった。子供は遅くてもここまでの時間で帰りなさいという意味合いなのかな。
「いいんじゃない? 見ていきましょうよ」
「ええ…?」
そのタイトルは、結構有名な女児向けのやつで、美鈴も小さい頃その初期シリーズを見ていたらしい。無論、俺は全然見たこともないのだが。
「…面白かった」
「でしょ? 翔太なら気に入ると思ったのよ。あたしも懐かしかったなあ。昔見ていたのとは、内容はまるっきり違うけど。さ、行きましょ」
「それでは」
「大輔さん、裕美さん、結婚おめでとう」
食事会と言っても、場所は居酒屋である。俺たちの仲なら、気取らない方がいいだろうということで、ここに相なった。
「それで?」
いきなり、裕美さんが聞いてくる。この状況でなら普通、先に聞くのはこちらではなかろうか。
「それで? とは?」
「またまたぁ。そ、れ、の、話なんでしょ」
裕美さんは、俺と美鈴の指を交互に指しながら言う。そう言っているからには、もちろん、指のことではない。指輪のことであろう。
「え、なに?」
大輔が不思議そうに聞いてくる。
「やっぱり気づいてなかった。二人の指に光ってるでしょ」
「ええっ、お前ら先に結婚してたんか」
「違うでしょ! あなたはホントそういうの疎いんだから。婚約したのよ。あたしらも手順は踏んだでしょ」
これを皮切りに今までに至る事での話題で盛り上がった。
そういう時間は得てして早く感じるものである。元々十時までの約束で二時間たったはずなのであるが、さっき始まったばかりみたいな気分だ。大輔と裕美さんはまだやることもあるから、アルコールは控えていてもである。
「え~、宴もたけなわでございますが、最後のシメとなりまして」
「もうこんな時間か。速いなあ」
「今日はさすがに延長というわけにいかないわよね。何にする」
このとき美鈴がボソッと言った。
「米を喰え?」
この不意打ちは、また裕美さんのツボに入ってしまったようだ。なかなか抑えられず、ラストオーダーの注文はできなかった。アルコールが少ない分、食事中心だったから、喰い足りないという事はなかったので、これにて終了。
二人と別れて、予約していたホテルに入り、部屋で一息つく。
いい一日だった。今日は今までの人生で五指に入ると言っても過言ではないだろう。主役が自分であるなら匹敵するようなものもあったが、今日の主役と言えるのは大輔と裕美さんなのだから。
まだ何も決まってはいないが、美鈴との結婚式の日は…、さらに良い日になってもらいたいものだ。
「あなたたちの仲も取り持ってくれたようなものなんだから、改めてお礼も言うのよ」
「そりゃあ、もちろん」
スーツとかを入れた大きめのバッグを抱えて、タクシーに乗り込んだ。美鈴も迎えに行ってから駅に着いたが、ここに来ると思い出すのは去年の夏の事である。
「懐かしい…ってのは、違うのかしら」
「違うよね」
二人して笑って、改札をくぐる。
ここから大輔と裕美さんの結婚式場まで、新幹線を経由して3時間くらいの行程だ。今日中に帰ってくることもできたのだが、美鈴と相談して一泊することにした。
できれば大輔らとまた一緒に遊べればと思わなくもなかったが、結婚式の後ではご家族といろいろあるわけで、さすがにそれは無理だったが、食事をするくらいは時間をとれるということだったので、夜に食事会をすることとした。新婚旅行はすぐではなく一週間後だとか。休暇自体はかなり長期間取っていて、新婚旅行までの一週間の間に当日来られなかった親戚にも訪問して報告するそうなのだ。律儀なものだ。しかし、それもプレ新婚旅行みたいなものじゃないのかな。
会社の景気が良くて、二人とも結構な高給取りだからできることだとも言える。
時期的には梅雨の真っただ中なわけだが、まあよくきっちり晴れたもんだ。さすがに式は会場の中であるが、披露宴はガーデン形式である。チャレンジャーだなあ。
「いやあ、裕美がジューンブライドとガーデンパーティーを譲らなくてなあ」
「でも言ったでしょ。あたしは晴れ女なの」
「でもそれは、人生の節目でチャレンジしすぎじゃない?」
「節目だからこそじゃないの。一度しかないことなのよ。…多分」
「こらこら」
「それでも二人が結婚することのきっかけは、あの時の大雨だったんでしょ」
「そうなのよね。ホント、美鈴さんには感謝してる」
二人とも本当に幸せそうである。
さすがにこの披露宴では、俺たちの婚約のことまで言う時間はなさそうである。二人揃ってあちこちで話に花を咲かせている。それにしてもすごい人数の出席者だ。一番多いのは勿論会社関係だろう。
そんな中に懐かしい高校の時の同級生を見つけた。大輔といっしょにバカをやった仲間だ。俺の結婚式にも呼びたいと思って聞いたら、秋に海外への転勤が決まっているのだそうだ。栄転であるから喜ばしい事なのだが、タイミング的には残念である。
本当にいい披露宴だったと思う。
食事会の約束は夜八時。結構時間が空いてしまうがどうしようかと思ったのだが、駅付近にあったシアターで映画を見ようという話になった。ところが、夜七時頃に終わる丁度いい時間のものが子供向けのアニメしかなかった。子供は遅くてもここまでの時間で帰りなさいという意味合いなのかな。
「いいんじゃない? 見ていきましょうよ」
「ええ…?」
そのタイトルは、結構有名な女児向けのやつで、美鈴も小さい頃その初期シリーズを見ていたらしい。無論、俺は全然見たこともないのだが。
「…面白かった」
「でしょ? 翔太なら気に入ると思ったのよ。あたしも懐かしかったなあ。昔見ていたのとは、内容はまるっきり違うけど。さ、行きましょ」
「それでは」
「大輔さん、裕美さん、結婚おめでとう」
食事会と言っても、場所は居酒屋である。俺たちの仲なら、気取らない方がいいだろうということで、ここに相なった。
「それで?」
いきなり、裕美さんが聞いてくる。この状況でなら普通、先に聞くのはこちらではなかろうか。
「それで? とは?」
「またまたぁ。そ、れ、の、話なんでしょ」
裕美さんは、俺と美鈴の指を交互に指しながら言う。そう言っているからには、もちろん、指のことではない。指輪のことであろう。
「え、なに?」
大輔が不思議そうに聞いてくる。
「やっぱり気づいてなかった。二人の指に光ってるでしょ」
「ええっ、お前ら先に結婚してたんか」
「違うでしょ! あなたはホントそういうの疎いんだから。婚約したのよ。あたしらも手順は踏んだでしょ」
これを皮切りに今までに至る事での話題で盛り上がった。
そういう時間は得てして早く感じるものである。元々十時までの約束で二時間たったはずなのであるが、さっき始まったばかりみたいな気分だ。大輔と裕美さんはまだやることもあるから、アルコールは控えていてもである。
「え~、宴もたけなわでございますが、最後のシメとなりまして」
「もうこんな時間か。速いなあ」
「今日はさすがに延長というわけにいかないわよね。何にする」
このとき美鈴がボソッと言った。
「米を喰え?」
この不意打ちは、また裕美さんのツボに入ってしまったようだ。なかなか抑えられず、ラストオーダーの注文はできなかった。アルコールが少ない分、食事中心だったから、喰い足りないという事はなかったので、これにて終了。
二人と別れて、予約していたホテルに入り、部屋で一息つく。
いい一日だった。今日は今までの人生で五指に入ると言っても過言ではないだろう。主役が自分であるなら匹敵するようなものもあったが、今日の主役と言えるのは大輔と裕美さんなのだから。
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