君に伝えたい言葉

マキノトシヒメ

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翔太編

七月

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 梅雨の終わりを告げる雷雨が上がり、朝から清々しい青空が広がっていた。どうやら、今日は暑い日になりそうである。
 そういう天気であるにも関わらず、美鈴の表情は優れなかった。
 時折り立ち止まっては、目を伏せて、考え事をするように黙り込む。普段のほがらかな美鈴とは大違いである。
 女性が調子の悪い時というのは…、あまり男の俺から言うことではないのだが、そういうことだろう。
 しかし、美鈴はそんなに周りからわかるような様相を見せることはほとんどない。美鈴のことだから自分の状況はわかっているのだろうと思う反面、わかっていないで我慢しているだけで、もしかしたら、別の病気か何かだろうか、ということまで考えてしまう。

「美鈴…、大丈夫?」
「うん…」
「言いたくないことだったら、俺には言わなくていいから。美春さんでも、佐川さんでも、頼れる人には頼って」
「大丈夫。だから…、ごめん。放っといて」
「あ…」

 俺はそれ以上は何も言えなかった。
 放っといてとまで言われて、今は何もできることはない…と思う。俺と美鈴の関係であっても、これ以上踏み込むには、愛情とかよりも信頼がもっと深くなっていなければ無理なんだろう。
 それは時間をかけなければできないことなんだろうな。

 だが、次の日の美鈴は、もっと不機嫌そうだった。
「美鈴…」
 俺の呼びかけに、美鈴は何も言わず少しうつむいて、右の手のひらを突き出しただけだった。
 そして、俺だけでなく、誰にも目を向けようとせずに奥にこもってしまった。

 今年の夏は、久留間夫妻(大輔、裕美さん)は新婚旅行直後で、レジャーという気分じゃないだろうし、二人の披露宴で久々に会ったあの友人も、転勤の準備やらなんやらで忙しいらしい。
 それでこれから何をするかしないかも相談しようと思っていたのだが、今はその雰囲気ではない。
 奥にこもったと言っても、ふてくされてサボっているのではなく、昨日のうちに単独でできる仕事を集約していたとのこと。準備を実際にやったのは、ほとんど美春さんだそうだ。やはりと言っては何だが、松蔭さまはこの件では全然使えない状況だっただけでなく、美鈴の事を思ってのことだとは思うのだが、やらかしてしまったそうだ。
 美鈴の不機嫌さが増したのはそれが一番大きい原因だとか。
 勘弁してほしい。そんな状況だから、下手に声をかけたりしたら、罵倒されても仕方なかったかもしれない。よく思いとどまって、無言だけで済ませてくれた、といい方向に考えるようにしよう。 

 だが、松蔭さまのような反面教師がいなかったら、俺がやらかしていたのかもしれない。

 このことを美春さんから聞いたときに、美鈴のことで何かできないかアドバイスを求めたのだが、二人で解決しなさいと言われてしまった。でも、突き放した感じではなく、俺たちを信用してくれての言葉なのだろう。
 でも、俺が思いついたのは、今は待つだけしかないということ。
 経験がないことの対処は本当に難しいものだ。
 単純に頑張ればどうにかなることならばまだしも、デリケートな上に失敗すれば後々にも影響する…、いや、後のことなど無くなってしまうかもしれない。なら、美鈴の症状が治まり、心に余裕が出るのを待つしかない、というのが俺の出した結論だ。

 それが正解であるかどうかも、自信はないのであるが。
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