君に伝えたい言葉

マキノトシヒメ

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翔太編

九月

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 今回の美鈴のあのことに対しては、結果的には俺の行動は最善であったとは言えないだろうけど、間違いではなかったと思う。
 まだ信頼関係と言う面では浅い関係なのだから、こじれると修復は非常に難しい。

 二十年以上にわたって築き上げていた関係があるからこそ、あれだけ盛大にやらかした松蔭さまも、美春さんというこの件については上の立場と言える人から、きっちりペナルティを受けたことで許されたようだ。多少のわだかまりが残ったのだとしても、ゆっくりとなくなっていくのだろう。元々親子関係は良好な方なのだから。
 これが俺がやったのだったら、細かいことは抜きに関係が終わっていただろうというのは想像に難くない。

 九月では、まだまだ暑い日が続く。それでも、夜はややも涼しくなってきた。
 中旬には十五夜があるので、それに合わせてお月見であったり、天体観測の会が催される。上塚岡神社は規模こそ小さいが、周囲には高い建築物がないので、観測に最適とまではいかないが、気楽に町内で集まるには都合のいい場所になっている。
 であるから、夜遅くまでになることもあり、出勤は昼からになっている。
 今日の予定表を確認すると、小学校名義のものが一件入っていた。小学校であるなら、グラウンドとかでやったほうがいいと思う方も多いであろうけれど、ここの小学校は周囲に街灯などの照明が多いので、空は広く見えるが、月ならまだしも星を対象にした天体観測には適した場所ではない。
 もちろん、この神社でやるなら参加人数は多くはできないから、有志によるものなのだろう。

 小学校の集まりということであるが、有志というか同好会的な集まりであるため、引率は教師ではなく、保護者の方だった。で、その内の一人は佐川さんであった。まあ、ありがちな話か。対応には美鈴も手伝ってくれている。美鈴には珍しい作務衣姿である。
 神社で行なうという事で、手始めに簡単な祈祷。安全祈願というやつである。
 適当な場所に望遠鏡を設置したり、星空がよく見える所で星座の見方を教えるなど、初心者向けの会であるようだ。飲み物や軽食は持ち込みで各人適当な時にやっているし、星を見ていないで夜のピクニックみたいな人もいる。結構自由な会というか、夜空を口実に集まったみたいな感じもある。場所の使用に関しては、夜であるから静かにということと散らかさないという、マナーを守っていただけるのなら、全く問題はない。
 神社側からも、一応例のアレ(売れ残りじゃないよ)と冷たいお茶くらいは用意させてもらった。なんやかや、アレも大は付かないが、結構人気がある。会の終わりまでには用意したものは、ほとんどなくなっていた。

 時間となって、撤収に入り、一同から礼を受けて無事に終了と相成った。
 佐川さんは保護者側であるから、子供たちと一緒に帰った。神社が準備したものは少ないので、あとは俺と美鈴で片付けをすればいい。一応使用した範囲を見直したが、小さいゴミがあった程度で、参道の掃除もすぐに終わった。
 あとは帰るだけであるのだが。
「ねえ」
 いつ用意したものか、美鈴が賽銭箱の前にレジャーシートを敷いて、残ったお茶と菓子を置いていた。そして、隣に座ってと手をぽんぽんと置く。もちろん、素直に座らせてもらう。
 照明を落としても、いつの間に昇ってきていた月明かりが明るかった。
 騒いでいたわけではなかったが、さっきまでけっこうな人数がいたことが嘘のように静かだった。俺たちは二人で肩を並べて、少し欠けてきた月を飽くことなく眺めていた。
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