君に伝えたい言葉

マキノトシヒメ

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美鈴編

二月

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 うちは小さいけど歴史はかなりあるほうで、記録が残る中では全国でも五百位くらいにあるとか。本当かしら。日本には八万件以上の神社があるから、五百とか言ったら、出雲大社とか(伊勢)神宮とか明治神宮みたいな超メジャーな…あれ? 明治神宮は創建が大正時代? 新しいほうなんだ。

 それはさておき、歴史は古いんだけど、地域色が強いから世間一般的な行事もどんどんやってるわけで。だからといって、クリスマスにまで手を出したのは、ちょっとやりすぎよね? お父さん?
 ええ。先代まではさすがにクリスマスはやってませんでしたよ。まったく。あたしが物心つく前からやってるんで、当たり前にあるものだと思っていたけど、当たり前じゃないと知ったときの衝撃はもう…ねえ。

 で、二月といえば、バレンタインデーですよね。神社ではさすがにバレンタイン行事はないですけど、個人的にはみんなに男女関係なしにあげてます。これまでにも普通にみんなに量産手作り品をあげていたから、作るの自体は…え? 量産言うな?
 チョコレートを作るの自体は慣れてるから、翔太にあげるのは今年は、凝ったラッピングのもので、やっちゃいます。
 あげる相手はみんな大人の人なので、ビターチョコレートとちょっとミルクチョコレートを刻んで、湯せんで融かしてなめらかになったら、てれててっててー。
「い~つ~も~の~、ア~レ~」
 砕いておいた、いつものアレ(まあ、正体はもう翔太が言ってるんだけど)を混ぜて固めて切り分ける。ここで固めるのがちょっとコツがいるのよね。温度が高いままで固めちゃうとブルーミングっていって白っぽくなっちゃうから、混ぜながら人肌より少し高いくらいまで温度を下げておいて型に入れると、はい、きれいに出来上がり。
 切り分けた中で、断面にアレが出ていないのだけを箱にきれいに並べて、バレンタインっぽい包装紙でくるんで、リボンをかけて、と。
 うーん、どんな顔して受け取ってくれるのかなあ。
 それ以外はいつものように、透明な袋に5個づつ入れて、こっちもリボンで封をして、準備オッケー。

 バレンタインデー当日。
 翔太にチョコレートを渡したら、さすがに恐縮した顔してた。なんかうれしい。
 後で見に行ったら、丁度食べたばかりのところで、おいしいって言ってくれた。でも、しっかりアレが入っているのもバレてーら。
 …バレないわけないんだけどね。

「美鈴…、お父さんには?」
 夜になって家に戻ると、早速出没してきました。
「え? ちゃんと置いておいたでしょ」
「いやいや、そんな十把一絡げみたいな、ついででいいやみたいなやつじゃなくって、父親という特別な存在に対する敬意がこもった物があって然るべきではないかと思う今日この頃なんでありますけれども」
 なんか、何て言うか、すごい芝居がかった口調。一言置きにこっちをちらちら見てくるし。
「言っていい?」
「何を」
「めんどくさー」
 多分、顔にも面倒くささがガッツリ出ていたとは思う。
「…ひどい」
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